第136話「暁月の調べ」(1)
レオンの口から語れる、騎士団のとある秘密…
改稿(2020/11/01)
「さて、お待ちかねの話をしようか…」
「お、待ってました‼︎」
ひと通り会話が終わると、ようやくレオンは本題を切り出そうとしていた。マックスをここから追い出したのには、これからしようとしている話に理由がある。
「ファウスト、お前は騎士団本部の2階に行った事があるか?」
「談話室と団長室以外に部屋があるのか?」
「当たり前だ。大きな建物がひしめくエリクセスでも、騎士団本部は2番目に巨大な建造物だからな」
「それで…2階に何があるって言うんだ?」
エリクセスで最も大きい建造物。それは言うまでもなくソロモン城だ。騎士団本部では、ベルは談話室と団長室にしか足を踏み入れた事がない。
「2階は上役のための設備が整っている。娯楽施設、トレーニングルーム、そして会議室。下っ端の騎士団員が決して足を踏み入れる事の出来ない領域だ」
騎士団本部には、一端の騎士団員が進入を許されていない空間があった。
「上役って?」
「M-12のような、位の高い騎士団員の事だ。基本的に、M-12しか2階に入る事は出来ない」
進入禁止の2階に入れるのは上役、つまりM-12クラスの騎士団員のみ。そもそも騎士団本部に進入禁止エリアがある事自体が不自然である。それは暗に、一端の騎士団員には知られてはならない秘密が、騎士団にはあると言う事を示していた。
「じゃあナイトさんは入れるけど、俺たちは入れないんだな」
「……お前もシップ・ポートに行くために、階段やエレベーターを使った事はあるだろう?だが、階段もエレベーターも2階には繋がっていないはずだ。下っ端の騎士団員は2階に入れないが、私は入る事が出来る」
レオンはベルがナイトにも“さん”付けをしている事を気にしながら、自分が2階に進入出来る事をアピールした。ジェイクやナイトと違い、なぜかレオンはベルからの尊敬を得られていない。
「は?何でお前が入れるんだ?」
「私は騎士団のために、この素晴らしい頭脳と発明品を提供しているのだぞ?それ相応のサービスは受けられて当然だ」
ところが、ベルはレオンが特別扱いされる理由が分かっていなかった。レオンは騎士団の技術を支える頭脳。彼は飛空艇の開発にも携わっており、その貢献度は計り知れない。
「お前が凄いって事は分かった。で、結局何が言いたいんだ?」
「問題はその会議室だ」
「……つまり?」
「上役だけが揃って、2階では頻繁に評議会が開かれている。決して他の騎士団員に知られる事のない評議会がな」
「だから、何が言いたいんだよ⁉︎」
レオンは知られざる騎士団の闇について話を展開しているが、ベルには彼の言いたい事がまだ理解出来ていなかった。ベルにとって、レオンの話は回りくどくて分かりづらい。
「かねてから、私は騎士団の怪しい動きに目を配っていた。今回の件だけではない。騎士団がブラック・サーティーンを集めているのにも、何か別の理由があるはずだ」
「別の理由って、どういう事だよ?」
「悪魔に加担する勢力がブラック・サーティーンを集めるのを阻止する。それが騎士団がブラック・サーティーンを集める目的だとされているが、実際のところは分からない。もし騎士団自体が、悪魔に加担している組織だとしたら?」
「騎士団は悪魔のためにブラック・サーティーンを集めてるって言いたいのか?ブラック・サーティーンなんか集めてどうするんだよ?」
レオンは昔から騎士団の活動に疑問を抱いていた。表向きは黒魔術の発展や、黒魔術士の救済、そして周辺地域の保安活動など善良な活動ばかりしている組織のように見える騎士団だが、レオンの考えは違った。
「世間では実しやかに囁かれている噂がある。そう遠くない未来に、最終戦争が勃発すると言う噂がな。ただの終末思想に過ぎないのかもしれないが、私は見逃せない話だと思っている」
「最終戦争…トランプ・サーカスの奴も言ってたな…」
「要するに、来たる最終戦争を生き残るためには、より強力な黒魔術士が必要だと言う事だ」
最終戦争に備え、強力な黒魔術士を収集するための組織。レオンにとって、黒魔術士騎士団はそう見えていた。
「それじゃあトランプ・サーカスと同じじゃないか!」
「騎士団もトランプ・サーカスも大して変わらない。むしろ騎士団の方がタチが悪い。ファウスト、1つ頼まれてくれないか?」
「何だよ?」
レオンが騎士団の裏の顔をベルに話す1番の目的は、それだった。ある頼みを聞いてもらうために、彼はベルに知られざる騎士団の黒い噂を教えたのだ。
「これまで騎士団について色々話して来たが、その全てはまだ私の推測の域を出ていない。そこで、私の仮説を決定づける証拠が欲しい」
「もっと分かりやすく言ってくれないか?」
レオンの話はいつだって回りくどい。彼と喋っていると、ベルはむず痒さを感じるのだった。
「私の代わりに、本部2階で行われる評議会を盗み聞いて来て欲しいんだ」
「はぁ⁉︎何でお前が行かねぇんだよ?てか、そもそも俺は2階に入れないんじゃなかったか?」
ベルは思わず目を見開いた。一端の騎士団員は2階に進入する事を許されない。それは、ついさっきレオンの口から直接聞いた話だ。これまでの話と矛盾するレオンの依頼に、ベルは戸惑いを隠せなかった。
「私はすぐにアドフォードに向かわなければならない。だから代わりに行ってくれ。お前が私に成りすませば、2階に入る事は可能だ。私の姿に変身し、私の騎士団証を持っていれば、難なく進入出来るだろう」
そう言ってレオンは“本物の偽物”の本と、騎士団証をベルに手渡した。レオンは騎士団の裏の顔を暴く事よりも、弟の身の安全を優先していた。
「って……ここに来る前にも、2階に行く時間はあったんじゃないか?」
「もちろん行った!しかし、物事はタイミングというものが重要なのだよ。彼らは私が居る時は、重要な話をしないようにしているらしい」
ベルが抱く至極当然の疑問。それは、なぜスノウ・クリフに来る前、レオンは2階に行かなかったのかと言う事。
だが、彼はすでに2階へ足を運んでいた。上役と言っても、レオンはM-12とは扱いが違うようだ。
「じゃあ、お前に変身した俺が行っても意味ないじゃん」
「言ったであろう?タイミングが重要だと。ドクター・ブルクセンの死は、騎士団にとって見逃せないものだ。私が居るからと言って、その件に関して話さないわけにはいかないだろう」
秘密の評議会の内容を盗み聞きするには、そのタイミングが重要だった。
レオンと同じように、深く騎士団に貢献して来たドクター・ブルクセンは死んだ。それは騎士団にとって決して無視出来ない事象であり、ベルのミッション報告後に重要な評議会が開かれる可能性は、十分にあった。
「……でも、こんなもんで騎士団の目を誤魔化せるのか?」
「問題ない。その騎士団証が、お前がレオン・ハウゼントである事を証明してくれる」
懐疑的になっていたベルとは反対に、レオンはこの作戦に自信を持っていた。“本物の偽物”による変身だけならば、M-12に正体がバレてしまう危険性があるが、本人の騎士団証を所持していれば、その危険性もかなり低くなる。
「……分かったよ。これで貸し借りなしだからな」
「よろしい。では、後は頼んだぞ」
まだ懐疑心を拭い去れないベルだったが、レオンの頼みを受ける事にした。ベルは雪の頂の中腹での戦いで、レオンに借りを作っていた。彼はその借りを清算したかったのだ。
「リリさん、あなたは“眠りの呪い”を解く方法について調べているんですよね?」
「はい‼︎私はそのためにここまで来たんです‼︎」
レオンとベルの会話が終わった頃、シルヴォが別の話を切り出す。シルヴォは、最初にリリと交わした会話を忘れていなかった。
「“眠りの呪い”について、少し調べてみました。“眠りの呪い”は、悪魔メアの力で人間を半永久的な眠りにつかせるもの。どの悪魔が関わっているか、そしてその呪いにはどんな作用があるのか。それが分かっているので、簡単にその解毒剤を特定する事が出来ました」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
語られた騎士団の秘密。そして、ようやくリリがたどり着いた呪いの解毒薬。物語はどんどん動いていきます。




