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第133話「雪原を統べる者」(1)

今回のミッションの真の目的が、黒の救世主の口から語られる。


改稿(2020/10/30)

「…………」


 その頃、物陰がベルたちを監視する人影があった。もちろんベルたちはその存在に気づいていない。

 その人物は、マックス・ウェスカーマン。彼はシルヴォとケイトリを連れてキーアッシュ村に引き返したはずだった。

 しかし、なぜか彼はベルたちの近くにいる。どうやってスノウ・クリフを登ったと言うのだろうか。


 不可思議な点はそれだけではなかった。マックスはベルたちに追いついたと言うのに、一向に近づく様子を見せない。ベルとマックスはバディであるはずなのに、今のマックスはただ彼らの様子を見ているだけ。彼の思惑は一体何なのだろうか。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「あの時言っただろう、ミッションの真意を見極めろと。お前は何も分かっていなかった。だからあんな状況に陥るんだ。それに、軽々しく私の名前を口にするな」


「何で言っちゃいけないんだ?それに、ミッションの真意って何なんだよ⁉︎」


 近くに来ても、レオンはフードを深く被って出来るだけ顔を見せないようにしている。近くでマックスに監視されている事に気がついているのだろうか。


「まず、私はこの場にいない事になっている。そして2つ目の質問だが、今回のミッションで、何か変なところはなかったか?」


雪男(イエティ)は魔獣じゃなくて機械だった。でもそれが何だって言うんだ?今回のミッションはヴィンター商会が依頼したんだ、他に変なとこはないと思うけど」


「それは知っているんだな。だが、その機械を操っている人物が肝心だ。その人物は騎士団に大きく関与している。今回のミッションは、ただ単に雪男(イエティ)を退治する事だけが目的ではない。ヴィンター商会からの依頼は、ただのカモフラージュだ」


「どういう事だ?何か知ってるのか⁉︎」


 どうやら、レオンは今回のミッションの本当の目的を知っているようだ。ベルたちが考えている以上に雪男(イエティ)には秘密があり、雪男(イエティ)に命令を下す何者かの思惑に、ベルたちは乗せられていたのだ。


「スノウ・クリフの上、つまりこの付近には、黒魔術士(グリゴリ)騎士団が秘密裏に設立した研究所が存在する」


「⁉︎」


 そして、レオンの口から衝撃の真実が語られる。スノウ・クリフの上にあるのは、(スノウ・)(クレスト)と月の花だけではなかった。

 そしてそれは、雪男(イエティ)に騎士団が関与している事を仄めかしていた。


「ズバリ言おう。雪男(イエティ)は騎士団が開発した魔装具(マジック・アーマー)だ。雪男(イエティ)を装着すれば魔力は数倍に増し、どんなに険しい道でも進む事が出来る。雪男(イエティ)は、まだ見ぬ脅威に対抗するための鎧型兵器だ」


 続いて、雪男(イエティ)の開発目的が明かされる。

 雪男(イエティ)が生み出されたのは外でもない騎士団の研究所であり、雪男(イエティ)は騎士団の所有物だった。

 だが、雪男(イエティ)はエルナたちが推測していたようなロボットではなかった。


「確かに、雪男(イエティ)の中にいたら簡単にスノウ・クリフを登れた」


「ちょっと待てよ、イエティの中には元々何もなかったんだろ?」


 ここで、ベルは1つの疑問を抱く。

 雪男(イエティ)魔装具(マジック・アーマー)であると言うレオンの説明と、エルナが倒した雪男(イエティ)の中に人がいなかったと言う事実は矛盾していた。


「えぇ、空っぽだった」


「ここにいるイエティは全て試験段階だ。中にいるのは人間ではなく、オーブ人形。だから皆意思を持たず、与えられた命令だけをこなすんだ」


「オーブ人形だって何だ…?」


「お前にいちいち説明している時間はない!」


 雪男(イエティ)の中に入っていたのが、文字通りオーブで出来た人形だったとすれば、辻褄が合う。オーブ人形は意思を持たない奴隷と言うだけでなく、魔力の源にもなっているのだろう。


「ちょっと待ってください。あなたの言う事が正しいとして、なぜ雪男(イエティ)は一般市民に危害を加えるんですか?」


「そこがこのミッションの肝だ。騎士団は雪男(イエティ)の性能テストのために、スノウ・クリフとファウスト、お前を選んだ」


 突然 雪男(イエティ)の秘密について語り出したレオンに、エルナは疑問を抱いていた。騎士団の兵器の性能チェックをするために、周辺住民が巻き込まれる必要はどこにもないはずだ。


「それでは私の質問の答えになってません!ただ性能テストをしているだけなら、何で私たちは雪男(イエティ)と戦っているんですか?」


「それは数奇な偶然でしかない。以前からスノウ・クリフの上には騎士団の研究所が存在していた。騎士団はハナからスノウ・クリフを性能テストの舞台とするつもりだった。

 そして、偶然にも同時期にスノウ・クリフの上を目指していたヴィンター商会を、騎士団は利用する事にしたのだ」


「そんな……」


 エルナの疑問はすぐに晴れた。

 黒魔術士(グリゴリ)騎士団は、彼女が考えるより利益主義の集団だった。雪男(イエティ)は、月の花の守護者などではなかった。

 雪男(イエティ)はヴィンター商会が月の花を取りに行く邪魔をしているのではなく、ただ単に魔装具(マジック・アーマー)として、性能を試すために戦っていただけだった。


「ヴィンター商会を利用した性能テストを終えると、今度は第2段階として強力な炎を操るブラック・サーティーンであるお前が標的となった。ウェスカーマンはただの監視役だ。私も信じたくはなかったが、騎士団は利益のためには犠牲も(いと)わない、無慈悲な集団なんだよ」


「信じられない…でも、それが今回のミッションの本当の目的…」


「お前も、騎士団には何かしら違和感を抱いていたはずだ」


 3回目のミッションで、ベルは騎士団の本当の顔を垣間見ていた。騎士団は孤独な黒魔術士(グリゴリ)を救い、世の中のために働くためだけの組織ではなかった。きっと騎士団には他にも隠された目的があり、そのためには犠牲も厭わないのだろう。


 ベルは複雑な気持ちを抱いていた。確かに騎士団はベルにとって救いとなったが、その騎士団が罪の無いヴィンター商会を苦しめていたのだ。他にも同じような事が、これまでにあったのかもしれない。


「……何でわざわざ氷に強い炎の黒魔術士(グリゴリ)を性能テストの相手に?」


「魔法属性の優劣があっても、それに対抗出来る力が雪男(イエティ)にあるかどうかを試したかったんだろう」


 騎士団が行っていたのは、ただの性能テストではなかった。

 雪男(イエティ)は、氷の黒魔術(グリモア)で炎の黒魔術(グリモア)を破るために戦っていた。鎧の機構を使ってパワーアップしたエース・ド・スペードのように。その相手として、ベルは打ってつけだったのだ。


「なるほど…でもただの性能テストにしては雪男(イエティ)を消費し過ぎているような…」


「そこが問題なんだ。私は雪男(イエティ)の開発者のことをよく知っている。奴は発明品を狂ったように大切にする男でな…」


 レオンはしきりに周囲を気にしながら、ベルと会話を続けていた。自らの発明品に狂気的な愛着を持っているのなら、なぜ開発者は今回のような性能テストを行ったのだろうか。


「それはどういう…?」


「⁉︎……おしゃべりはこの辺で終わりだ」


 ベルはレオンが言いたい事をイマイチ理解出来ていなかったが、会話はレオンによって強制的に終了させられた。レオンは会話を終わらせると、これまで以上にフードを深く被り、後ろを振り返る。


 ドスーン‼︎


 その直後、大きな音を立てながら、ベルたちの前に何者かが現れる。レオンは、“彼”の登場を予期していたのだ。

 突如現れた“彼”の体長は、2.8メートルほど。雪男(イエティ)ほど身体は大きくないが、彼はたった1人で雪原を大きく揺さぶった。


「君たち、早く物陰に隠れるんだ‼︎お前は隠れるなファウスト!」


 突如現れた敵を前に、レオンはリリたちに隠れるように促す。

 ベルも彼女らと共に物陰に隠れようとしたが、レオンの言葉は彼に向けたものではなかった。レオンはベルと共に、目の前の敵に挑むつもりらしい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


レオンの口から語られる雪男の真実。


雪山の戦いは、まだ終わらない…!?

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