表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/388

第127話「ヴィンター商会」(1)【挿絵あり】

リリはヴィンター商会を訪れるために、ロッテルバニア・キーアッシュ村へと向かっていた。


改稿(2020/10/28)

Episode 15: Vinter Firm/ヴィンター商会


 翌朝、真っ白な雪が吹き荒ぶ上空を、青い鳥が飛んでいた。凍える風に臆することなく、青い鳥は身を輝かせて真っ直ぐに進む。


 ここはロッテルバニア上空。目下には真っ白な山脈が果てしなく続いている。ロッテルバニアは北部山岳地帯と呼ばれている通り、全域の約6割が山で占められている。


 セルトリア王国のどの地域よりも高い場所に位置し、1年中凍えるような寒さが支配する地域だ。ここには、アドフォードで大暴れしていた豪炎のロックが収容されているロッテルバニア収容所も存在している。流石の豪炎のロックも、この極寒の地でこれまでの行いを反省しているに違いない。


「ロビンさん、キーアッシュ村はまだ先ですか?」


「もうすぐだ!しっかり掴まっていろ、落ちたら助けられる保証は無いからな!ったく、何で俺がこんな事をしなければならんのだ……」


 青い鳥の背中に乗っていたのは、もちろんリリ。

 そして、彼女を背中に乗せて飛ぶ青い鳥はロビンだ。結局リリはロコが思いついた作戦の通り、ロビンの協力を得て個人的にロッテルバニア・キーアッシュ村に向かっていた。


「ベルはもう着いてるのかな……」


「もうとっくに着いているだろう。騎士団の飛空艇は恐ろしいくらいに速い」


 リリは寒さに凍えながら、先に出発したベルの事を考えていた。進めど進めど景色が変わらないロッテルバニア。それは、この時間が永遠に続くのではないかと錯覚させてしまうほど。


 ロビンは全く寒そうにはしていないが、リリはロビンの上で震えている。ロビンの全身を覆う青い羽毛が凍てつく寒さを抑えているのだろう。

 ロビンに比べると遥かに体毛の少ないリリは、ファーのついた防寒着を着用し、手袋をつけていた。それでも露出された彼女の顔は真っ赤になり、今にも鼻水が垂れて来そうだ。


「そろそろキーアッシュ村だ。そこから落ちるんじゃないぞ」


「きゃあぁぁっ‼︎」


 そうこうしているうちに、2人はキーアッシュ村の上空まで到達していた。後は降下して着陸するのみ。ロビンはリリを背に乗せたまま、急降下し始める。ジェットコースターのようなロビンの動きに、リリは悲鳴を上げた。


「よおし到着だ。雪で滑りやすくなってるから気をつけ……」


 バサッ……


「だから気をつけろと言っただろう……」


 ロビンが注意を促していると、リリは彼の背から降りる最中に足を滑らせて真っ白な地面に落下してしまった。標高の高いキーアッシュ村は、全土が深い雪で覆われている。落下したリリはその姿を確認出来ないほどまでに、雪の中に沈んでしまった。


「もうちょっと早く言って下さいよ〜……」


 リリは必死に雪の中から這い上がりながら、そう言った。少々せっかちな面もある彼女は、おっちょこちょいなミスを犯しがちだ。


「それでは、俺はこれにて失礼する。もう2度と、俺を交通手段として使うんじゃないぞ」


「ありがとうございました!」


 ロビンは不機嫌そうに言うと、リリの前を飛び去って行った。ブツブツ文句を言うのなら、なぜ今回の依頼を引き受けたのだろうか。リリはそんな事を考えながら、ロビンにお礼を言った。


「さっむ‼︎…………ヴィンター商会はどこかしら…」


 飛び去って行くロビンを眺めていたリリは、唐突にロッテルバニアの寒さを改めて実感する。どれほど厚着をしていても、北部山岳地帯の寒さは身体に応える。早く室内に逃げ込まなければ、凍え死んでしまいそうなほど、辺りは冷え切っていた。


「寒い寒い寒い寒い……寒い〜っ‼︎」


 リリは、ひとりブツブツ呟きながら民家の方へと歩き出した。ロビンがリリを降ろしたのはキーアッシュ村の端。中心に向かって歩いて行けば、きっとヴィンター商会を見つけられるはずだ。


 数分歩くと、リリは辺りを民家で囲まれた場所に来ていた。恐らく、そこがキーアッシュ村の中心地なのだろう。キーアッシュ村の建造物は全てがレンガ造り。赤などの暖色系のレンガで少しでも寒さを和らげようとしているのだろうが、どの家も真っ白な雪に覆われてしまっていた。


 周囲に佇む家は、雪の影響もあってどれも似たような外見をしていた。頼りになるのは、表札や看板だけ。リリは身体を震わせながら、血眼になって“ヴィンター商会”の文字を探していた。早く室内に入らなければ、凍死してしまう。


 そんな中、リリは近くにベルの姿を発見する…が、何やら様子がおかしい。


「何なんだよこれ‼︎」


 リリが発見したベルは、なぜだか氷の檻に閉じ込められていた。そのすぐ傍では、ベルの知らない騎士団員が立っている。ベルももう1人の騎士団員も、寒さをしのぐためファーのついた防寒着に身を包んでいた。

 ジュディのように、ベルを陥れる騎士団員が存在しているのか。そう思ったリリは、一瞬身構える。


「アローシャの業火が使えるんだから、そんな檻溶かしてしまえばいいだろう?」


「分かってるよ!」


 檻の傍にいた騎士団員。それは、もちろんマックスだった。彼らの会話から推測するに、氷の檻はマックスが発生させたものではなさそうだ。それにしても、村のど真ん中で檻に捕まる事など起こり得るのだろうか。


「騎士団の人間が、こんな所に何の用だ‼︎」


挿絵(By みてみん)


 すると、どこからともなく黒髪の少年が姿を現わす。アレンと同じくらいか少し歳上に見える少年は、凛々しい顔でベルを睨みつけている。おそらく、この氷の檻にも彼が関わっているはずだ。


「この村の人間は、よそ者をこうやってお出迎えするのか?」


「違う!そのトラップは雪男(イエティ)に仕掛けるために練習してたんだ!お前が勝手に引っ掛かっただけさ!」


 やはり、氷の檻を仕掛けたのはこの少年だった。だが、人が大勢通るはずの村の中心にトラップを仕掛けるのは、あまりに非常識な行動だ。


「テメェな‼︎人が通る所にトラップ仕掛けてんじゃねえよ!馬鹿か‼︎」


「騎士団の黒魔術士(グリゴリ)って強いんでしょ?何でこんなに簡単なトラップに引っ掛かったの?」


 見た目はアレンと似ているキリアンだが、その性格は正反対だった。無邪気なアレンと違って、彼はやんちゃで計算高い。

 そして何より、挑発的な物言いをする。


「ムカつくな、お前」


 ベルは右掌から出した業火で、氷の檻をいとも簡単に溶かした。キリアンはその様子に驚いていたが、本人はそれを必死で隠そうとしていた。


「お前じゃない!キリアンだ‼︎キリアン・ヴィンター!」


「ヴィンター?」


「ヴィンターってことは、お前ヴィンター商会と関係あるのか?」


 キリアンの名前を聞いて、マックスとベルは驚きを隠せなかった。彼らがこれから会おうとしているのはヴィンター商会。キリアンの姓は、まさにその“ヴィンター”だった。


「先に質問したのは俺だ‼︎お前たちは誰で、何でここに来た?」


 キリアンはベルたちの質問に答えなかった。確かにキリアンの言う通り、ベルたちはまだ彼の質問に答えていない。


「俺はベル・クイール・ファウスト」


「俺はマキシミリアン・ウェスカーマン。ヴィンター商会からの依頼で、雪男(イエティ)を退治するためにここに来た」


「あ……そう言えばパパが何か言ってた気がする…」


 マックスが目的を伝えると、キリアンの威勢の良さはたちまち無くなった。客人に失礼な態度を取ってしまった事が、急に後ろめたくなったのだろうか。


「それで、お前はヴィンター商会を知ってるのか?」


「もちろん知ってる‼︎ヴィンター商会は俺の家族だから!」


 突然現れたキリアンは、ヴィンター商会の関係者だった。これでヴィンター商会を探す手間が省ける。その様子を見ていたリリも、ホッと胸を撫で下ろした。


「じゃあ、俺たちをヴィンター商会の所まで案内してくれるか?」


「いいよ!さっきはごめんなさい……」


 キリアンは恥ずかしそうに俯いて、ベルに謝罪した。少々いたずらっぽい所はあるが、悪い子ではないようだ。


「素直じゃないか!」


「やめろよ〜‼︎」


 ベルが乱暴にキリアンの頭を撫でると、キリアンは必死にその手を振り払おうとする。ベルとキリアンは、まるでやんちゃな兄弟のようだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


それぞれロッテルバニア・キーアッシュ村に到着したベルとリリ。そこでさっそくヴィンターの名を持つ者と出会うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ