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第126話「雪男の猛威」(2)

「それよりだ、何かミッションを言い渡されたのではないのか?」


「何でアンタに教えなきゃなんねぇんだよ」


「上官として、新人のミッションを把握しておきたいだけだ。それに、上官には敬語を使え!」


 レオンは、今回のベルのミッションについて知りたがっていた。だが、あまり良い出会いをしなかった2人の会話は、なかなか進まない。


「嫌だよ、誰がチビなんかに敬語使うもんか!」


「貴様……‼︎まぁ良い。とにかく、どんなミッションを言い渡された?」


 頑なに敬語を使おうとしないベルにレオンは爆発寸前だったが、ここは歳上である彼が我慢して話を続ける事にした。このままいがみ合っていては、話は永遠に終わらない。


「…………スノウ・クリフの雪男(イエティ)退治だ」


「スノウ・クリフ……ロッテルバニアのスノウ・クリフか?」


「そうだけど…?」


 ベルのミッション内容を聞いたレオンは、あからさまに驚いたような表情を浮かべた。そんなレオンの表情を見て、ベルは何か不自然なものを感じていた。


「今、雪男(イエティ)と言ったな?」


「あぁ、それがどうしたんだ?」


「いや、何でもない。雪男(イエティ)は手強い、気をつける事だ。そして、ミッションの真意を見極めろ」


 これまでの発言からして、レオンは雪男(イエティ)に関する何らかの秘密を知っている。ベルにもそれは分かっていた。


「そして、上官にはしっかり敬意を払え‼︎以上だ‼︎」


「っせーな‼︎お前なんかに言われなくてもこんなミッション余裕だっつーの!」


 黙って去ればいいものを、レオンは余計な捨て台詞を吐いた。反射的にベルは捨て台詞に返事をするが、レオンがそれに答える事はなかった。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 それから数十分後、ベルの姿はリリやロコが待つ家にあった。ベルは翌日に挑む事になるミッションについて、リリと情報共有をしていた。どんな事が眠りの呪いを解く鍵になるかは分からないのだから。


「ねえベル、今ヴィンター商会って言った?」


「あ、あぁ……」


 リリは、ベルが口にした“ヴィンター商会”と言う名前に食い付いた。サマーベル家と同様に、ヴィンター商会もきっと有名なのだろう。


「私もロッテルバニアに行きたい‼︎今度こそ、お母さんの呪いを解く鍵が手に入りそうな予感がするの‼︎」


「僕も行きたい‼︎」


「リリさん…この前は特別でしたけど、騎士団のミッションに一般人が参加する事は原則出来ないんですよ」


 リリの申し出を、ロコが取り下げる。今回は“ファウスト救出作戦”とは状況が違う。一般人の個人的な目的のために、ミッションに同行する事は出来ない。


「え〜!ロコさん何とか出来ないですか〜?」


「そんな事言われても、今回は私がミッションに行くわけでもありませんし……」


 必死に頼み込んで来るリリに、ロコは苦笑いする。以前はロコのミッションだったから何とかなったものの、今回彼女は一切このミッションに関係ない。


「そもそも、そのヴィンター商会が呪いに関係あるのか?」


「ヴィンター商会は世にも珍しいアイテムをいっぱい取引してるって聞いたわ」


「それが眠りの呪いにどう関係してるって言うんだよ」


 ヴィンター商会は魔具や魔法草、魔法石など様々な珍しいアイテムを売り買いする組織。だが、それと眠りの呪いとの関係性が、ベルにはまだ理解出来ていない。


祓魔薬(バスター・ポーション)。ベルも知ってるでしょ?ダミアン君、あの薬はヴィンター商会から手に入れたアイテムで作ったって言ってたの。もしかしたら、お母さんにも効くかもしれない」


「それ本当か⁉︎……でも、都合良くヴィンター商会が祓魔薬(バスター・ポーション)の材料を全部持ってると思うか?それに、お前金持ってるんだろうな?ヴィンター商会は金の絡まない取引はしないと思うぜ」


「そ、それは…………」


「ほらな、諦めろ」


 あれから、リリはダミアンから祓魔薬(バスター・ポーション)について詳しく聞いていた。恐らく、その過程でヴィンター商会の存在を知ったのだろう。

 しかし、祓魔薬(バスター・ポーション)は、人に憑依した悪魔を引き剥がすほどの力を持ったアイテム。そう簡単に手に入るとは到底思えない。


「諦めない‼︎今回手に入らなくても、何か呪いを解く手掛かりが見つかるかもしれないでしょ⁉︎私は絶対行くから!」


「だから行けないんだって……」


 何としても今回の雪男(イエティ)討伐ミッションに同行しようとするリリを見て、ベルは溜め息をついた。協力したくても、ベルにはどうする事も出来ない。


「あ!そんな事ありませんよ、要はミッションに同行しなければ良いんです」


「ロコさん、それどう言う事ですか?」


 その時、ロコが大きな声を上げて眼鏡の位置を整えた。ロコは何か良い作戦を思いついたようだが、リリにはまだ彼女の考えが理解出来ていない。


「ミッション中のベルさんに付いて行くのではなく、個人的にロッテルバニアに行ってしまえば良いんです!」


「でも私、飛空艇のチケット買うお金なんて……」


 ロコが考えた秘策。それは、ベルのミッションについて行くのではなく、自力でロッテルバニアへと向かう事だった。一緒に向かわなければ、何の問題も無いはずだ。あくまでリリは個人的にロッテルバニアへ向かうだけ。だが、彼女にはお金がなかった。


「心配しなくても、空を飛べる友人が私たちにはいます!」


 ロコが言う“空を飛べる友人”とは、間違いなくあの男の事だ。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 クシュン‼︎


「風邪でも引いたか……」


 その時、自宅の前で薪割りをしていたロビンが大きなくしゃみをした。くしゃみをしたロビンは、少しばかりの寒気を感じて身震いする。

 周囲に留まっていた小鳥たちは、くしゃみの音に驚いて飛び去って行った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


次回からベルはロッテルバニアへ向かいます。ロッテルバニアは、第1章で登場した豪炎のロックが収容されている監獄があったり、サマーベル兄妹の住まいがある場所でもあります。

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