第126話「雪男の猛威」(1)【挿絵あり】
ベルに与えられる新たなミッションとは…⁉︎
改稿(2020/10/28)
漆黒の巨大な扉を開いて、ベルとナイトは団長室に足を踏み入れる。カーテンを潜った先には、いつものように巨大なグレゴリオと11人の黒魔術士がいた。
「遅かったな」
「申し訳ありません。先ほどレオンとベル君の間で一悶着ありまして……」
少々ご機嫌斜めなグレゴリオに、ナイトは真実を伝えた。
「分かっておる。まずはベル・クイール・ファウスト、よくぞ無事に戻って来た。 こうしてまた、強力なブラック・サーティーンに任務を言い渡せるのは喜ばしい事だ」
「ありがとうございます」
騎士団はブラック・サーティーンを手中に収めておきたい。騎士団長グレゴリオは、ベルの帰還を心から喜んでいた。
「ファウストの身を危険に晒してしまったのには、我にも責任がある。特にブラック・サーティーンは他の団員よりも危険に晒される可能性が高い。今後は我も細心の注意を払って、ミッションを言い渡すようにしよう」
グレゴリオはベルが騎士団に所属しているにも拘らず、リミア連邦に身柄を拘束されてしまった事に多少なりとも責任を感じていた。騎士団長が騎士団員に謝罪じみた発言をするのは、珍しい事だった。
「さて、さっそくミッションを言い渡すとしよう。今回の目的地はセルトリア王国北部山岳地帯ロッテルバニア。人間にとって過酷な環境が取り巻くこの地には、様々な伝説や謎が眠っている。今回の任務は、ロッテルバニアのキーアッシュ村を拠点として活動しているヴィンター商会からの依頼だ」
「世界中の珍しい品々を取り扱うヴィンター商会が、どんな要件で僕たちに声を掛けて来たんですか?」
「そのヴィンター商会ってとこ、俺に恨みのある、強力な黒魔術士隠してたりしませんよね?」
今回のミッションも、ベルを誘き寄せるためにヴィンター商会がでっち上げた物ではないのか。それがベルが最初に考えた事だった。トランプ・サーカスの一件があり、ベルは少々疑い深くなっている。
「ヴィンター商会については問題ない。リミア軍の人間がいるわけでもないし、他所者のメンバーがいるわけでもない」
「僕はヴィンター商会と面識がある。心配する事ないよ」
グレゴリオは今回のミッションの安全性を説明した。トランプ・サーカスは得体の知れない組織だったが、ヴィンター商会は純粋な商業団体だ。
「それで、ミッション内容は?」
「現在、ヴィンター商会はキーアッシュ村の奥地に存在するスノウ・クリフで幻の花の捜索を行っている。しかし、そこに出現する魔物が、彼らの行く手を阻んでいるのだ」
「雪男ですね……」
「そのとおり、雪男はヴィンター商会の行く手を阻むだけではなく、キーアッシュ村まで降りて来て、村民に危害を加える事もあると言う。仮にヴィンター商会に、お前を苦しめるほど強力な黒魔術士がいれば、雪男に頭を悩ませていないはずだ」
今回のミッションは、キーアッシュ村に危害を加える雪男に関するもの。雪男以外にも“幻の花”と言う気になる単語が出て来たが、ベルはグレゴリオに質問しなかった。きっとそれは、キーアッシュ村に行ってみれば明らかになるだろう。
「つまり……?」
「今回のミッションは、村民に危害を加える雪男の排除。目撃証言によると、奴らは何匹もいるらしい。恐らくスノウ・クリフの先に雪男の巣があるのだろう。雪男の巣を見つけ出し、巣ごと奴らを根絶して欲しい」
「害獣駆除ってやつですね」
「雪男の習性や性質については、ヴィンター商会から詳しく説明がある」
ミッション自体はマン・ライオンの討伐と似たようなものだが、今回のミッションはあの時とは違う過酷さがあるだろう。今回は、今までベルが経験した事のない雪原での戦いになる。
「僕とベル君なら、問題なくこなせそうなミッションですね」
「悪いがディッセンバー。お前には別のミッションについてもらう事になった。急で悪いが、ファウストと共にロッテルバニアに向かうのは、お前ではない」
「え……では誰が?」
てっきりベルとバディを組んでロッテルバニアに向かうものと思っていたナイトは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「ブラック・サーティーン様と一緒に仕事が出来るなんて、光栄だな〜」
嫌味を含んだ言い方をしながら、暗闇の中から今回のベルのバディが姿を現わす。団長室の暗がりから現れた“彼”は、レオン同様ベルが1度も見た事のない騎士団員だった。
短い白髪を逆立たせた彼は、ベルよりもかなり歳上に見える。どこか自信に溢れたその男は、ベルがこれまで会った事のないタイプの人間だった。
「俺の名前はマキシミリアン・ウェスカーマン。マックスって呼んでくれ」
「ベル・クイール・ファウストだ」
今回バディを組む事になる“マックス”と、ベルは握手を交わした。騎士団には、ベルの知らない黒魔術士がまだ多く存在している。
「一緒に頑張ろうぜ。地獄の業火を操るファウスト様がいれば、俺の出る幕はないだろうけど」
「あ、あぁ……」
ベルは、マックスの発言に引っ掛かる部分があった。これまでベルが騎士団で出会って来た人物と同じように、彼もまた少し癖のある人物のようだ。
「飛空艇の出発は、明朝8時。それまでしっかりと身体を休めておくように」
「はっ!」
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
ベルが騎士団本部を出ると、入り口のすぐ近くにレオンが立っていた。ベルが出て来た途端、レオンは彼と目を合わせる。他に何か用事があったわけではなく、ベルを待っていたようだ。
「ベル・クイール・ファウスト」
「何だよ、まだチビって言われた事気にしてんのか?」
突然声を掛けて来たレオンに、ベルは憎たらしくそう言った。ついつい喧嘩腰になってしまうのは、彼の悪い癖だ。
「誰がチビだ‼︎そもそもチビと言うのは、元々先が擦り切れて短くなると意味であってだな……!」
「どんだけチビについて詳しいんだよ…」
レオンは日々自分の身長の低さを気にしているだけではなく、それに関する言葉についても詳しくなっていた。ベルにとって、チビの語源などどうでも良い話だ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
言い渡された新たな任務と、共に戦う新たな仲間。次の舞台は、極寒のロッテルバニア!




