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第123話「眼鏡と禿鷹」(1)

騎士団長グレゴリオに呼び出されたロビンとロコ。“ファウスト救出作戦”の内容とは!?


改稿(2020/10/26)

 ピンクの長髪と、青の長髪。長髪の男女が団長室の中心、紫の炎の前に立っている。ベル・クイール・ファウスト奪還作戦のために呼び出されたロコとロビンは、グレゴリオが口を開くのを黙って待っていた。


「ロコスタシア・パラディ、ロビン・カフカ。すでに聞いているとは思うが、ベル・クイール・ファウストの身柄がラビトニーに拘束された」


「なぜそのような事に?」


 ロコは事情を知っているが、ロビンは詳しい事情を知らないままここに来ていた。確かにベルにはまだまだ未熟な所があるが、彼がそう簡単に捕まるような黒魔術士(グリゴリ)で無い事は、ロビンも重々承知だ。


「アージンの報告によると、トランプ・サーカスが保有する黒魔術書(グリモワール)を盗み出す過程で、ファウストだけが捕まったらしい」


「噂通りサーカスには、手練れの黒魔術士(グリゴリ)がいたと言う事か……」


 ロビンもまた、トランプ・サーカスの噂を知っていた。噂は真実であり、サーカスには騎士団並みに腕の立つ黒魔術士(グリゴリ)が揃っていた。


「それにしても、なぜ私とロビンさんなんですか?」


「本来なら志願していたアージンを向かわせるべきなのだろうが、どうも彼女は怪しい。 何か我に隠し事をしている気がしてならんのだ」


「そう……ですか」


 グレゴリオがどこまで知っているか定かではないが、確実に彼はジュディに不信感を抱いていた。グレゴリオの素性は明らかになっていないが、きっと魔法も、人を見抜く力も、一流なのだろう。


「そこで、我が騎士団の中で最もファウストに接点があるお前たちに、今回のミッションを任せたい」


「騎士団にとって重要な戦力であるブラック・サーティーンに関わる件なら、M-12の人間に任せるのが良いのではないですか?」


 ここでロビンの脳裏に浮かぶ当然の疑問。騎士団にとって大切なベルを確実に救い出したいのであれば、他の団員よりも遥かに強いM-12を出動させた方が安心だ。


「ブラック・サーティーンを奪還するために、万一にもM-12を失ってしまうのは避けたいのでな」


「要するに、俺たちは捨て駒って事ですか」


 ブラック・サーティーンとM-12を天秤にかけると、M-12が勝つ。グレゴリオの言葉は、それを暗に示していた。


「すまんな……そういう事だ。だが、まず騎士団証を持った騎士団員が捕まる事は無い。ファウストの場合は例外だ」


「それは……」


「何でベルさんの騎士団証がここに?」


 グレゴリオは、あるものを2人に見せた。それは、トランプ・サーカスでジュディがベルから奪った騎士団証だった。


「サーカスで何者かによって奪われたらしい。アージンがこれを持って帰って来た。騎士団証が無ければ、その者を騎士団員と証明する事は出来ない。もしファウストが騎士団証をあの時持っていたなら、檻の中に入る事も無かっただろう」


 騎士団証。それは、黒魔術士(グリゴリ)騎士団にとって命の次に大事なものだった。騎士団証だけが、騎士団員である事を証明する。たとえ騎士団着に身を包んでいても、証が無い限りは偽物と見なされる。


「心配ご無用。たかがファウスト1人救い出すために、俺たちが捕まるような事はありません。必ずや貴重なブラック・サーティーン様を連れ帰ってみせます」


 ロビンは、自信を持っていた。ベルとロビンとでは、経験値が大きく違う。


「頼もしい限りだ。それでは、改めてファウスト救出ミッションについて説明する。我が騎士団員ベル・クイール・ファウストが、リミア連邦ラビトニー第4地区ベリト監獄に収容された。今回はカフカ、パラディの2名でファウストを救い出して貰いたい」


「では、そのベリト監獄まで行って檻を壊せば良いんですね?」


 ようやくミッションの本題について、グレゴリオが話し始める。リミア連邦によって囚われたベル・クイール・ファウストの救出。実にシンプルな任務だ。


「それは違う。ファウストのいるベリト監獄まで行っても、奴を救い出せる可能性は限りなく低い」


「……それはどういう事ですか?」


 どんな手段を使おうと、ベリト監獄からベルを救い出しさえすれば良い。そう考えていたロビンは、混乱していた。どうやら、今回のミッションはロビンが考えているほど単純なものではないようだ。


「ラビトニーは1年前の脱獄事件によって、黒魔術(グリモア)対策を強化した。キュリアスという言葉は聞いた事があるか?」


「キュリアス……確か、人間が扱いやすいように、月の涙を人工的に加工したものですよね」


 キュリアス。その言葉は、ロコにも聞き覚えがあった。キュリアスと言えば、ベルが初めてベリト監獄から脱獄した際、当時のヘルズ少佐が使用していた兵器の事だ。


「その通り。月の涙の前では、あるゆる黒魔術(グリモア)が無効化される。人間が生み出したキュリアスには、月の涙ほどの力は無いが、使い方次第で月の涙と同様に黒魔術(グリモア)を抑え込む事が出来る。第4地区ベリト監獄には、キュリアスを応用した対 黒魔術(グリモア)用の障壁が張り巡らされている。お前たちがその場に出向いた所で、監獄を破壊する事は出来ない」


 ベルの黒魔術(グリモア)が鉄格子に傷1つ付けられなかった理由は、そこにあった。あらゆる黒魔術(グリモア)を無効化するシステムが、第4地区ベリト監獄には導入されている。ベリト監獄は、まさにブラック・サーティーンのために準備された牢獄だった。


「で、では……俺たちはどうすれば?」


“あらゆる黒魔術(グリモア)が無効化される”


 この言葉を聞いて、ロビンは困惑していた。黒魔術(グリモア)が通用しない場所から対象を救い出す事など、まず不可能だろう。


「司令部へ向かうのだ」


「司令部?」


「第1地区にある司令部へ向かい、第4地区のキュリアスのシステムを停止させろ。そうすれば、ファウストをベリト監獄から救い出す事が出来る。詳細は我にも分からないが、司令部にある司令室のどこかに、キュリアス・システムのスイッチが設置されているはずだ」


 一見不可能に見えるミッションにも、ちゃんと攻略法がある。グレゴリオのもとには、すでに監獄町ラビトニーの最新情報が入っていた。司令部に忍び込み、キュリアスを停止する事が出来れば、後は簡単だ。


「ラビトニーは、第1地区から第4地区で構成される監獄町。司令部が位置する第1地区が最外部、ベリト監獄が位置する第4地区が最深部だ。キュリアス・システムを停止しても、そう簡単に最深部まで向かう事は出来ない。カフカ、そこで頭の切れるお前を任命したのだ」


「なるほど」


「そう言う事なら、何とかなりそうだ」


「ただし、注意してもらいたい点がある。可能な限り、リミア連邦の人間にお前たちの存在を気づかれるな。気づかれずにシステムを落とし、ファウストを救い出すのだ。そうすれば、事は穏便に運ぶ」


“また無茶な事を……”


 ミッション攻略の糸口が見つかっても、そこには厳しい条件があった。もし見つかってしまえば、ロコがリリに言ったように、最悪の場合リミアとセルトリアの2国間で戦争が始まってしまう可能性がある。敵側に気づかれない事は、今回のミッションで何よりも重要な事だった。


「それでは、諸君らの健闘を祈る」


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 数分後、ミッションの説明を受けたロビンとロコは、黒魔術士(グリゴリ)騎士団本部の外にいた。2人とも、何やら難しい顔をして腕を組んでいる。


「あの、ロビンさん……何か良いアイデアはありますか?」


「……それは俺も今考えているところだ。全く、本当にグレゴリオ様は無茶苦茶だ」


 2人は、リミア連邦軍に気づかれずにベルを救い出す方法を、必死に(ひね)り出そうとしていた。確かにグレゴリオが提供したキュリアスの情報は有益なものだったが、彼はそれ以外の支援をしてはくれなかった。


「う〜ん……透明化の魔法でも使えたらいいんですけど……」


「………………」


「変身すると言うのはどうだ?」


 ロコが悩んでいると、ロビンがありきたりな提案をする。


「変身ですか?ダメですよ、ロビンさんの獣化(キメラ)は広く知られてますから」


「そうじゃなくて、リミア連邦軍の兵士に変身するんだ」


 リミア連邦軍の兵士に変身すれば、監獄町ラビトニーで動きやすくなる。しばらく悩んだ末にロビンが思いついた作戦は、それだった。


「なるほど‼︎真っ先に思いつきそうなアイデアなのに、それは全然考えてなかったです」


「それは俺をバカにしてるのか?」


「そ、そそそんな事ないですよ!」


 ロコの天然毒舌が、ロビンの癇に障る。彼女には全く悪気は無いのだが、結果的にその言葉がロビンを傷つけていた。通り名の件と言い、ロビンは他の人よりも傷付きやすいのだ。


「まあ良い。リミア連邦軍の兵士に成り切って、キュリアスのシステムを停止する。これで決まりだ」


「変身の準備はお任せしても良いですか?」


「あぁ、任せておけ」


 些細な事でもすぐに傷付くロビンだが、立ち直るのも早かった。それはひとえに、ジュディやベルと過ごして来た事による恩恵だろう。喧嘩腰な2人との時間が、ロビンの心を多少なりとも強くしていた。


「それじゃあ、シップ・ポートで待ち合わせしましょう」


「いや、俺は先にラビトニーで待っている」


 騎士団員は、ミッションの際シップ・ポートから飛空艇に乗って目的地に向かう。それを当たり前としていたロコだったが、ロビンは違った。


「え?………あぁ、ロビンさんは飛ぶのは好きでも、飛ばされるのはお嫌いなんでしたね」


「う、うるさい‼︎」


 予想外の返答を聞いたロコは、ロビンが飛空艇恐怖症だった事を思い出す。ロビンとの付き合いの長いロコは、ある程度ロビンの事を知っていた。

 そして、ロコの言葉が再びロビンを傷付けるのだった。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ベル救出のミッションに指名されたのは、ロビンとロコだった。

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