表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/388

第121話「めくられたカード」(1)

イロージョンを進めた反動により倒れたベル。絶体絶命の状況を、彼らはどう切り抜けるのか⁉︎


改稿(2020/10/26)

「大丈夫⁉︎」


 突如倒れ込んだベルのもとに、ジュディが駆け寄る。アローシャの言う通り、今のベルの身体には、想像を絶するほどの負荷が掛かっていた。


「ゼェゼェ…………あぁ。何とか大丈夫だ」


“これが、侵蝕(イロージョン)を一瞬でも進めた代償だ。今後 侵蝕(イロージョン)を進める時は、しっかりと考える事だな”


 ベルは、辛うじて意識を保っていた。


「……で、これからどうする?」


黒魔術書(グリモワール)ゲットは難しそうだから、さっさと帰ろう。あれ?お嬢ちゃんは?」


 ベルは身体の痛みに耐えながら、ジュディとの会話を続ける。


「………リリは今アビーとダミアンを安全な場所に連れて行ってる。アイツと合流したら、さっさとここを出よう」


「なるほどね……取り敢えずサーカスの奴らに見つからないようにしないと、また面倒な事になっちゃうよ。今のアンタじゃ、すぐ死んじゃいそう」


「黙れお団子……でも、あのライオン野郎も、ハートの女王もまだ残ってるからな」


 この状況では、もはや黒魔術書(グリモワール)を盗み出して騎士団に持ち帰る事はほぼ不可能だった。ジャック・ダイヤモンドやクイーン・ハートであれば、黒魔術書(グリモワール)の所在を知っているかもしれないが、わざわざ未知の敵と遭遇する必要はどこにもない。


 ベルの体力が大幅に削られている今、サーカス団員と遭遇する事は避けるべきだった。新たに敵に遭遇してしまえば、今度はジュディがベルを護りながら戦う事になる。騎士団長に言い渡された任務であれ、時には諦めも肝心だ。


「ほら、とりまここから離れるよ!立って!」


 (ひざまず)いているベルに向かって、ジュディは右手を伸ばす。ベルはすぐにジュディの手を取った。こんな状況では、いがみ合っている暇は無い。とにかく一刻も早くサーカスを出なければ、安全の保証は無いのだ。


 ドサッ……


 ところが、ジュディの手を掴んだはずのベルはその場に倒れ込んでしまった。


「ベル‼︎」


 ベルの異変に気づいたジュディは、すぐに屈んで様子を見る。侵蝕(イロージョン)による負荷は、まさにベルの想像を超えるものだった。動く事すらままならない。このままでは、サーカス団員に見つかってしまう。


「起きなさい‼︎」


 完全にダウンしてしまったベルを見ても、ジュディが容赦する事はなかった。なんと、彼女はベルに向かって水の黒魔術(グリモア)を発動したのだ。凍れる夜に、大量の水がベルに降り注ぐ。


 バシャン……‼︎


「…………」


「チッ……このまま移動するよ‼︎」


 しかし、それでもベルが目を覚ます事はなかった。それは、ベルの体力がとっくに限界を迎えている事を証明していた。

 もはやベルは自分で身体を動かす事が出来ない。それを理解したジュディは発生させた水を利用して、ベルの身体を動かそうとする。


 大量の水は、そのままベルの身体を浮かび上がらせ、移動させた。水を操るジュディは、いつもの様に水流に乗ってサーカスの敷地外を目指している。水流に運ばれている間も、ベルが目を覚ます事は一向になかった。


「マズいね……これじゃ外までもたない」


 高速でサーカス内を移動するジュディの顔は段々と険しくなって行った。恐らく、彼女の魔力が底を突こうとしているのだろう。

 ブラック・サーティーンと違い、普通の黒魔術士(グリゴリ)の魔力は限られている。今回の任務ですでに大量の水を使っていたジュディには、もうほとんど魔力は残されていなかった。


「ここらで一旦立て直すか……」


 しばらく移動している間に、ジュディは隠れ場所を探していた。周囲を高いテントに囲まれた場所なら、少しばかり時間稼ぎが出来るはずだ。そう考えたジュディは水流の魔法を解き、その場に着地した。意識のないベルは、そのまま勢い良く地面に倒れ込んだ。


「痛ってぇ‼︎」


 その衝撃で、ベルがようやく目を覚ます。連れて逃げる相手に意識があるのと無いのとでは、大違いだ。ボロボロであれ、ベルはブラック・サーティーン。意識さえあれば、ここから脱出出来る可能性も高くなって来る。


「やっと起きた!とにかく、さっさとここから出るよ!走れる?」


「走れるわけねぇだろ、少し動いただけで全身が燃えるみたいに痛てぇ…」


 ベルの目覚めを知ったジュディは、これまでに無いほど嬉しそうな顔をする。

 しかし、ベルが目覚めても状況はほとんど変わらなかった。侵蝕(イロージョン)を進めた代償は大きい。意識はあっても、ベルはまだ思い通りに身体を動かす事が出来ないでいた。


「騎士団の奴らを追え‼︎」


 そんな中、サーカスのどこかから声が聞こえて来た。トランプ・サーカス団員が、ベルとジュディの事を血眼になって探しているのだ。


「どうすんのよ……」


 ジュディは焦っていた。早くサーカスの敷地を出て、リリと合流しなければ取り返しのつかない事態になりかねない。ベルは身体を動かせず、ジュディはほとんど魔力を使い切ってしまっている。今の2人には勝ち目は無い。


「あ‼︎」


「ビックリした!何なの?」


 その時、ベルが突然声を上げた。何かを思い出したような顔をしているベルを見て、ジュディは不思議そうな表情を浮かべていた。


「これ持ってたの忘れてたぜ」


 ベルはそう言いながら、懐に手を突っ込む。


「何それ?」


「星空の雫だ。これさえありゃ走って逃げ切れる!」


 懐からベルが取り出したのは、謎の老人ブルーセから貰った星空の雫だった。残量はかなり少ないが、それでも全快するには十分な量が残っている。これさえあれば、状況は一変する。ベルがいつも通りの状態に戻れば、難なくここから脱出出来るはずだ。


「星空の雫?何でそんなもん持ってるの?」


「今説明してる場合じゃないだろ?さっさと逃げるぞ‼︎」


 ジュディが驚いているうちに、ベルは星空の雫を数滴喉に垂らして回復した。青い光に包まれたベルは、エースと戦う前の元気な姿に戻っていた。もうベルが、ジュディの足手まといになる事は無い。


「仕切るのはウチ!さっさと行くよ‼︎」


「可愛くねーな」


「うるさいわね、可愛くなくて結構!」


 ベルとジュディは、いつものように言い合いをしながらトランプ・サーカスの敷地外を目指す。目的の黒魔術書(グリモワール)を手に入れられなかっただけでなく、数々の困難に苛まれた今回のミッション。

 しかし、結果はどうであれ、ベルにとっては少なからず収穫はあった。侵蝕(イロージョン)は、上手くコントロールすれば、ベルにとって大きな力となるはずだ。


 後はサーカス団員に見つからず、リリと無事合流出来れば良い。生きて帰らなければ、ベルとジュディに明日は無い。ミッションに失敗しても生きていれば、またやり直す事が出来る。


「いたぞ‼︎あそこだ‼︎」


「逃すんじゃないぞ‼︎」


「捕らえろーっ‼︎」


 2人が走り始めて30分も経たないうちに、近くからそんな声が聞こえて来る。すぐそこまでサーカス団員が迫っているのだ。


「もう来たのかよ、早過ぎるだろ」


「とにかく走り続けるよ‼︎」


 2人は脚を動かす速度を上げる。ベルが全快したとは言え、ジュディの魔力はまだ回復していない。黒魔術士(グリゴリ)騎士(ナイト)が2人いても、片方が片方を護りながら戦えば、戦力は半減する。ベルとジュディは敵の姿を確認する事もなく、ただひたすら走り続けた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


迫るサーカス団員。回復したベルはジュディと共に、サーカスの外へと全力で走る!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ