第17話「暴走する豪炎」【挿絵あり】
ロックによる襲撃事件が発生。事件現場に駆けつけるべるたちだったが……
遡ること数十分前。ベルとリリがハウゼント医院に到着する少し前のこと。
日が暮れても、町の大通りは賑わっていた。絶えず人が行き交い、道端で酒を酌み交わすカウボーイも見受けられる。しつこく女性に話しかける酔っ払いや、夜店の客引きもしきりに通行人に声を掛けている。
夜は冷えるアドフォード。家で暖を取る者もいれば、仲間で集まって暖を取る者もいると言うことだろう。
「……ァー。ファー」
微かに声を上げながら、ロックが町の大通りにやって来た。何か様子がおかしい。 顔には冷や汗を流しており、目つきが虚ろだ。足取りも覚束ないように見える。
数々の犯罪を犯してきた極悪人ロックが通れば、酔っ払いであろうが道を空ける。誰もが彼と関わりたくないのだ。
「ちょっと、どうしたんすか」
ロックを取り巻くシザーズも、流石に今日は困惑していた。パーも心配そうにロックの様子を見ていた。一体どうしたと言うのだろうか。
「……ファー。オォーファァー」
ロックはシザーズの声に応えることなく、意味の分からない言葉をただ続けて発している。明らかに様子がおかしい。
「おいシザーズ。本当にこの人、大丈夫なんだろうな?」
パーは心配でたまらない。気が強く、勝ち気で喧嘩っ早いロックが、今や虚ろな目で力なく歩き、訳の分からない言葉を漏らすような異常者になってしまった。
「どうしちまったんだ、ロック様……」
「やっと火傷が治ったかと思えばこれだぜ。なんかあのガキにやられたんじゃないか?」
パーは、軽く今までのことを思い返してみた。ベルと接触するまでは、このようなことは起こらなかった。
「ヴァアアアア!ゴーファーッ!」
その時だった。ロックは言葉にならない雄たけびを上げた直後、ゴーファーの名前を口にした。
先ほどまでとは、また様子が変化した。今度はギラギラとした目つきになり、足取りもしっかりしてきた。
「おっ。いつもの兄貴に戻った!」
様子が変わったロックを見て、シザーズとパーはひと安心する。だが、普段のロックが戻って来たわけではなかった。
その直後、ロックが鋭い目つきでシザーズを睨みつけた。それとほぼ同時に、シザーズが膝から地面に崩れたのだ。
「うぅ……」
シザーズは頭を抱え、苦しそうに声を漏らす。
「大丈夫か?」
その様子を心配したパーは、座り込んでシザーズの顔を覗き込む。そこには、シザーズを睨んだロックと同じ目があった。
「………」
そのあまりの眼光の鋭さに、パーは一瞬後ずさりする。
気づけば、同じような目つきのロックまでもがパーを見つめていた。ただならぬ恐怖が、パーを襲う。
間もなく、何とも言えない不思議な感覚がパーを襲った。終いには、パーまでも同じ目つきになってしまうのだった。
そして、3人は再び歩き出す。一見すれば、彼らは今までと同じように歩いているようにしか見えない。ロックの右手には炎が灯されているものの、それも大して珍しい事ではない。彼らの顔からは、怒りを感じ取れる。
「どこだゴーファー!姿を現わせ!」
人の集まっている大通りの真ん中で立ち止まったロックは、突然そう叫ぶ。
今まで町で好き勝手に悪さをしていた彼ら。豪邸の中に閉じこもっていたゴーファーと、過去に関わりがあったとは考えづらい。それでも、この町にはいないはずのゴーファーの名前を、彼らは叫んでいる。
「俺たちは絶対に貴様を許さない」
「隠れても無駄だ。お前が俺たちにした仕打ちを忘れると思うな!」
「その金で不細工な顔を作り変えやがったのか⁉︎」
ロックは、目の前にいた青年を炎の拳で思い切り殴った。明らかにロックたちは暴走している。今までも彼らは理不尽に暴力をふるって来たが、今回は、今までとは何かが違う。
まさしく、その青年が後にハウゼント医院に来た患者だった。幸い、その火傷は大事には至らなかったが、顔に大きく跡を残してしまうほどの火傷だったようだ。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
「そうですか、そんなことが……取り敢えず、応急処置をします」
ジェイクはロック暴走の一部始終を聞き、青年の手当を始めた。早く処置すれば、その分残る傷を最小限に出来るかもしれない。
「……なんかベルに関わる人って変な人ばっかりよね」
「つまり、自分も変な奴だって言いたいのか?」
リリはベルを馬鹿にするつもりだったが、上手く返されてしまった。リリはそれ以上言い返さなかったが、怪訝な顔でしばらくベルを睨み続けた。
「ありがとうございました!」
しばらくして、処置を終えた青年がジェイクに礼を言った。
「お大事に」
「本当にありがとうございました!」
中年の男は青年と共にお辞儀をすると、医院を出て行こうとする。
「ちょっと待ってください。今は外に出ない方がいいです。まだロックが暴れ回ってるかもしれませんから」
その2人をジェイクが止めた。彼の言う通りだ。再び大怪我を負わされる可能性もある。
「あ、そうですね……」
中年の男は、つい流れで医院を出るところだった。
「それにしても謎ですね。僕の知る限りロック・ハワードと大富豪ゴーファーの間に関係性はないはずです。それなのに、彼がゴーファー氏を恨んでいた……」
ジェイクは、この状況から推理を始める。相変わらず、医者なのに探偵のような事ばかりをしている。もちろん彼自身こういった事が嫌いではないのだろう。こうなってくれば、もう探偵ドクター・ジェイク・ハウゼントとでも名乗った方がいいのではないか。
ジェイクは両手で左右のこめかみを押さえながら、しばらく考え込んだ。
「……まったく分かりません」
さすがの探偵ジェイクでも、何も事件解決への糸口を見つけることが出来なかった。
「ジェイクさん。俺ちょっと外に行って来ます」
「ダメですよ。ベル君も怪我させられるかもしれませんよ?」
「大丈夫ですよジェイクさん。俺はロックとのタイマンで、1回圧勝してます」
「それは凄いですが、白い少年の危険が潜んでいる可能性もあります」
ジェイクはベルの腕前に控えめに驚きつつ、ベルの考えの甘さを指摘した。
「だったら、ジェイクさんも行きましょう」
「……分かりました。あの、お2人はここでゆっくり身体を休めてください」
ジェイクはしぶしぶ承諾すると、中年の男と青年を、空いていた病室のベッドに案内した。
「くれぐれも気をつけて、行きましょう」
ジェイクを先頭に、ベルとリリもハウゼント医院の外へ足を踏み出した。
医院から1歩外へ出れば、町の人々が次々と慌てて駆けていく。もちろん、暴走するロックから逃げているのだ。
「すごいパニックですね」
「とにかく、彼のところに行ってみましょう」
ジェイクの額には、汗が滲んでいた。人々が逃げてくる方向へ行けば、自ずとロックのいる場所へとたどり着くはずだ。
人々は悲鳴を上げながら、目の前からどんどん走って来る。
ジェイクたちは人の流れに逆行して進んでいく。反対方向へ進む者など、彼らの他にはいない。静かに進行したオーブ抜き取り事件とは対照的に、ロック暴走事件は周囲に大パニックを巻き起こしていた。
「あんな奴が暴れたくらいで大袈裟なんだよ」
「ベル君、見くびってはいけません。あの方がおっしゃっていたように、今の彼はいつもとは違うんです。彼は我を失っているようですから」
「それでも、アイツがそんな脅威になるとは思えないけどな」
「彼に何が起きているのかは分かりません。彼に影響を及ぼしているのは悪魔かもしれませんし、白い少年かもしれませんから」
ジェイクの言う通りだ。まだ事件現場にたどり着いたわけではないが、もしかしたら全ての出来事が繋がっている可能性だって十分にある。
そんな話をしていると、3人の目には、薄暗い道を照らす赤い炎が飛び込んで来た。
通りは所々燃えている。周囲の人々はほとんど逃げ切っていて、炎が飛び散っている場所の中心にロックとシザーズとパーだけがいた。
「この身体、便利だな」
ロックは、まるで今初めてその力を使ったかのようなセリフを吐いた。
「いました」
ジェイクたちは、ロックたちの姿を確認する。
「あら。なんで、あなたたちがいるの?」
それとほぼ同時に、セドナが口を開いた。ベルたちと同じタイミングで事件現場に現れた彼女は、ライフル銃を抱えている。
そして、その後ろにはハメルの姿があった。
「それはこっちのセリフだ!」
「私、保安官事務所にいるの。事件が起きればすぐに分かる。それに、普段とは様子が違う人間が暴れてるなんてゴーストの仕業に決まってるわ」
セドナは、すぐにベルの質問に答えた。幽霊が関わっていそうな事件であれば、セドナはハメルと共に現場に赴くのだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ベルたちと、ほぼ同時に現場に到着したセドナとハメル。
彼らは、暴走する悪党を止めることが出来るのか!?




