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第114話「クローバー」(1)

ババ・ファンガスの真の姿……アレクサンドラ・キング・クローバーが、ベルとジュディに立ちはだかる!


改稿(2020/10/22)

「ちょっと待って……色々状況が呑み込めないんですけど……」


 外見だけでなく、中身まで大幅に変わったクローバーを前に、ジュディは混乱していた。見た目が変わっただけで、人はここまで大きく変わるものなのだろうか。


「分からないのぉ?仕方ないなぁ〜。じゃあぜーんぶ、説明して、あ・げ・る!」


「……………」


 クローバーは、元気いっぱいに笑顔を振りまいた。さっきまで重々しい雰囲気で、ベルとジュディに宣戦布告していたババ・ファンガスの面影は、もうどこにも無い。

 クローバーのキャラの激変ぶりを前に、ベルは何もリアクションを取る事が出来なかった。


「ホントはババ・ファンガスって言う占い師は存在しないの。ババ・ファンガスはアタシ。予知能力を持ってるのも、アタシ」


 状況を呑み込めない2人に、クローバーが真実を伝える。

 世界的に有名な占い師ババ・ファンガスは実在しない。ババ・ファンガスとして様々な占いを行って来た人物の正体は、2人の目の前にいるアレクサンドラ・キング・クローバーだったのだ。


「じゃあ、今の姿が本当の姿ってこと?」


「そう。あんなヨボヨボのお婆さんの格好してるのって疲れるのよ?ずっとババの姿でいるのに疲れちゃった。この格好の方が楽に動けるね〜」


 情報の処理が追いつかないジュディは、事実を確認するようにそう言った。

 独特の雰囲気を漂わせ、威厳があったババ・ファンガス。その正体は軽いノリの女の子だった。ババ・ファンガスと違い、クローバーは元気過ぎてうるさいほどだ。


「ちょっと待てよ。お前がハゲに変身してたんだろ?何であんなにハゲのこと知ってんだ?ジュディとの関係まで」


 衝撃的な変身によって忘れていたが、ベルにはずっと気になっていた事があった。

 クローバーが本来の姿を現わす前、彼女はロビン・カフカに変身していた。クローバーはただ変身するだけでなく、ロビンにしか知り得ない情報を熟知していた。


「ハゲ?……あぁ、禿鷹の事ね。実はね、昔アタシが禿鷹をサーカスにスカウトした事があったの。あの獣化(キメラ)は魅力的じゃない?結構しつこく勧誘したんだけど、あのハゲ全然折れなかったわ」


「それが、ほぼ完璧にアイツになりすました事とどう関係するの?」


 クローバーがロビンと接点があった事は明らかになったが、まだそれはベルの質問に対する答えにはなっていない。スカウトのために何度か会った程度で、その人物の個人的な情報まで知る事は出来ないはずだ。


「アタシって才能に恵まれてるんだ。何回か会っただけで完璧にその人に成り切れちゃうの。観察眼ってやつ?黒魔術(グリモア)で見た目は完璧だし」


 クローバーの完璧な変身は、彼女の持つ天性的な観察眼にあった。数回会っただけでその人物の特徴を完璧なまでに捉え、予知能力を用いてその人物の個人情報まで得る事が出来る。クローバーは変身に適した能力を持ち合わせていたのだ。


「変身だけじゃなくて、予知も出来るんだよな?黒魔術(グリモア)の本でも使ってるのか?」


 黒魔術士(グリゴリ)は基本、魔法を1種類しか使えないもの。2種類以上 黒魔術(グリモワール)を使えると聞いて、ベルが真っ先に思い浮かべたのは、ジェイクから貰った変身の本だった。


「道具なんか使わないわ。一流の黒魔術士(グリゴリ)は、幾つか黒魔術(グリモア)を使えるもんなの。もしアンタたちが1種類の黒魔術(グリモア)しか使えないんだとしたら……ただのザコね」


「何ィ⁉︎」


 明らかに他人を見下したクローバーの言葉は、ベルには許容出来ないものだった。2種類以上の黒魔術(グリモア)を使う黒魔術士(グリゴリ)は、ベルの知る限りではレイリーと教皇しかいない。


「お前はブラック・サーティーン。アローシャと共存してるファウストだね。そんな危険な奴は、アタシがここで潰してやるよ!」


「ケッ!俺はブラック・サーティーンだぜ?それに2対1だ。お前に勝ち目は無いと思うけどな」


 改めて、クローバーはベルに宣戦布告した。

 ところが、心なしかババ・ファンガスの姿をしていた時より威圧感が薄れてしまったような気が、ベルにはしていた。

 まだまだクローバーの実力は未知数だが、ただでさえ強力な黒魔術(グリモア)を持つベルに、ジュディが付いている。2人が負ける事は、まずないはずだ。


「果たして、そうかな?」


「……何だよ」


 だが、クローバーは不敵な笑みを浮かべる。


「⁉︎……どうなってんだ?」


 彼の傍にいたジュディに、とある変化が起きていた。彼女の赤毛はだんだん緑に染まり、その瞳はクローバーと同じく黄色に変わった。ジュディの変化は、それに止まる事はなかった。


 やがて光に包まれたジュディは、少し前にベルが遭遇した花の怪物へと姿を変えた。まるで大テントのショーのように目まぐるしく変化する展開に、ベルは追いつく事が出来ない。


「クローバーはそこにいるのに、何で……」


 ベルの頭はパンク寸前だった。ロビンの姿に変身していたのがクローバーだとすれば、今怪物へと姿を変えたのもクローバーだと言う事になる。

 ベルの目の前には、2人のクローバーが存在していた。


「シャーッ‼︎」


 しばらく動きを止めていたベルに、花の怪物が襲い掛かる。完全に油断していたベルだったが、(すんで)の所で蕾の猛攻を避けた。

 そしてベルは全身に業火をまとうと、そのまま花の怪物へと近づいた。

 その間も花の怪物は動きを止めないが、ベルにその攻撃が届く事は無かった。怪物は業火に触れた瞬間に燃え上がり、たちまち灰となった。


「ジュディを、どこやった?」


「知らないよ。少なくとも、ここに居ない事は確かだね」


 ベルは鋭い目つきでクローバーを睨みつける。ベルがこれまでジュディと思って接して来た人物は、クローバーだったのだろうか。


「どうなってんだよ⁉︎いつから入れ替わってたんだ?」


「そうね〜入れ替わってたり、入れ替わってなかったり?ジュディ・アージンはその辺にいるんじゃない?」


 状況が呑み込めないもどかしさを、ベルは怒りに変えていた。それを嘲笑うかのように、クローバーは陽気な態度を取り続ける。


「お前ぶっ飛ばした後に、ジュディを探しに行く。お前1人なんか、俺1人で十分だ」


 ベルは、燃える瞳にクローバーを捉える。ジュディがいなくても、ベルにはクローバーに勝てる自信があった。クローバーの生み出す花の怪物は、ベルの業火で容易く焼き消す事が出来る。


「馬鹿だねー‼︎誰がアタシは1人だなんて言ったの?」


 クローバーが笑みを浮かべると、彼女の身体から植物の(つた)が無数に伸び始める。身体の左右から伸び始めた蔦は、やがて2つの形を形成する。

 しばらくして蔦がクローバーから完全に切り離されると、彼女の両隣には、もう2人のクローバーが出現していた。ベルの目の前には、クローバーの姿をした人物が3人いる。


「お前一体何なんだ」


「アタシの魔法は三位一体(シャムロック)。擬態植物の力よ。2人の分身を作れるから、同時に3つの存在になれるの。だから、アタシは三つ葉のクローバーって呼ばれてる。1対1どころか、3対1だよ」


 クローバーの変身能力の正体は、三位一体(シャムロック)。ロビンの姿になっていた時 獣化(キメラ)を使えなかった事から、能力までは真似る事が出来ないようだが、見た目と言動はそっくり似せる事が出来るようだ。それも3体同時に。


「三つ葉だか四つ葉だか知らねえが、要は全部倒せば良いって事だろ?」


 クローバーの能力の真相を知ったベルは、両手を前に突き出した。

 そして、本体から分岐したクローバーの2つの分身目掛けて、両手から業火を放出する。


 放たれた炎は瞬く間にクローバーの分身たちを包み込み、跡形も無く消し去ってしまった。変幻自在に変身したり、3つに分かれたりしたところで所詮は植物。ベルが有利な事に変わりは無かった。


「無駄ァ‼︎いくら消したって無意味。アタシにはお前の考えが手に取るように分かる。勝てっこないよ!予知能力を持ったアタシにはね‼︎」


 クローバーは声高々にそう言うと、再び2つの分身を生成した。

 ベルの目の前には、さっきと変わらないように3人のクローバーが存在している。分身ではなく本体を攻撃すれば結果は変わって来るのかもしれないが、ベルの行動を先読みするクローバーは、それを阻止するだろう。


「良いのか?自分の黒魔術(グリモア)のカラクリ明かして」


「もちろん!アタシが負ける事は絶対にない。だって〜未来が見えてるんだもん」


 クローバーはあからさまにベルを挑発する態度を取り続ける。それは、彼女の絶対的な自信の表れでもあった。


「あ、来た!」


 手を叩くと、クローバーは唐突にベルの前を離れてしまう。彼女はベルの目前から離れ、大テントの入り口の方へと駆けて行く。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


予知・分身・変身を使いこなすクローバー。たった1人で立ち向かうベルに勝ち目はあるのか!?

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