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第112話「泥棒」(2)【挿絵あり】

「アイツが黒魔術書(グリモワール)泥棒か……」


「っぽいね……」


 ようやく黒魔術書(グリモワール)泥棒に接近した2人はゆっくりと、泥棒が逃げ込んだ方へと近づいて行く。泥棒が逃げ込んだのは、青と白のストライプが特徴的なテントの影だった。


「古いオーブが集まってるのを感じる。奴はまだそこにいるはずよ」


「手っ取り早くパパッと捕まえるか!」


「待って‼︎」


 犯人がまだ近くにいる事を知ったベルは、間髪入れずに飛び出した。ジュディが制止しようとするも、時すでに遅し。ベルは黒魔術書(グリモワール)泥棒がいるであろう場所に出てしまった。


「お前……」


 そこで、ついにベルは黒魔術書(グリモワール)泥棒の正体を目撃する。背が高く、長髪で、黒っぽい服を着ている人物が、確かにベルの目の前にいた。


「ハゲ⁉︎」


 慎重に出方を伺っていたジュディだったが、止むを得ずベルの後を追った。

 そして、彼女が目にしたその人物。それは、ハゲことロビン・カフカだった。彼は目撃情報通り、背が高く、長髪で、黒っぽい服を着ている。


「ハゲではない!ヴァルチャーだ‼︎」


「ちょっと待って……黒魔術書(グリモワール)泥棒ってアンタだったの?」


 ハゲと言う呼び名は、ロビンにとって禁句。ロビンはいつものセリフをジュディに返した。何よりもベルたちを驚かせたのは、黒魔術書(グリモワール)泥棒が顔見知りであり、尚且(なおか)つ騎士団の人間だったと言う事。


「まさか、お前のミッションって、俺たちと同じだったのか⁉︎」


「お前たちが頼り無いから、騎士団長は俺にも同じミッションを言い渡したのではないか?とにかく、トランプ・サーカスの黒魔術書(グリモワール)はこの通り俺が盗み出した。もうお前たちも、ここにいる必要はないだろう」


 ロビンの姿を見て、ベルはエリクセスで特訓していた時の事を思い出していた。あの時ロビンが特訓を早く切り上げた理由は、ロビンが受けたミッションにあった。

 ロビンの手には、怪しげな金属製の筒が握られている。恐らく、その中に霊魂(オーブ)黒魔術書(グリモワール)があるのだろう。


「何偉そうに言ってんの?黒魔術書(グリモワール)盗んだ事、サーカス側に完全にバレてるんですけど‼︎もしアンタがサーカスの人間に目撃されたら、後始末やんなきゃなんないのはウチらなんだから」


「お前も騎士団の端くれなら、その程度自分で対処しろ」


「アンタっていつもそう!もうちょっと他人の事考えたらどうなの?そうやってアンタはいっつも自分のことばっかり!」


「自分の事ではない!俺は動物と過ごす時間を大切にしているだけだ!そんな事も知らずに、騎士団にふざけた呼び名を広めやがって……」


挿絵(By みてみん)


 ジュディの言葉を皮切りに、ロビンとジュディによる口喧嘩が始まった。ベルの想像していた通り、2人は仲が悪いようだ。その口ぶりからして、以前2人は仲良くしていた時期があったと捉える事も出来る。


「あの〜……お前ら何の話してんの?」


「べ、別に‼︎」


 ベルが話を遮ると、突然ジュディが頬を赤らめた。ロビンとジュディが何の話をしているのかベルには理解出来ていなかったが、ジュディの反応がベルに答えを与えた。


「なになに?もしかしてお前ら……‼︎」


 エッヘン‼︎


「動物と言えば……アンタ何でさっさと鳥に変身して逃げなかったの?」


 ジュディとロビンの以前の関係をベルが口に出そうとしたその瞬間、ジュディが大きく咳き込んでベルの話を遮った。

 そして、ジュディは唐突に180度違う話題を切り出した。


「わざわざ自ら正体を明かすような逃走手段は取らない」


 大鳥ホルサントの姿をした黒魔術士(グリゴリ)はそう居ない。ロビンは可能な限り、黒魔術書(グリモワール)泥棒の正体を騎士団員だと勘付かれないために、敢えてその能力を封印していた。


「サーカスの奴らにちゃんと姿見られてねぇんなら、見られてないまま逃げられたんじゃないか?」


 そこで、ベルは至極当然の疑問を抱いた。ロビンはサーカス団員にはっきりと姿を目撃されたわけでは無い。姿をしっかりと見られていないのであれば、どさくさに紛れて空へ逃げる事も十分可能だったはず。


禿鷹(ヴァルチャー)の名は騎士団外にも知られている。用心しているだけだ。こんな所で道草を食っている暇はない。さらばだ」


 ロビンが獣化して空に逃げなかった1番の理由。それは、彼のネームバリューにあった。騎士団の中でも珍しく二つ名が付いている彼は、騎士団外でもある程度名が通っているようだ。何やら落ち着かない様子のロビンは、すぐにその場を去ろうとする。


「ちょい待ち……ハゲ!アンタ今すぐホルサントに変身してみなさいよ」


「⁉︎」


 ところが、それをジュディが阻止した。ジュディはロビンの進行方向を塞ぎ、ロビンに獣化を要求している。逃げ道を塞がれたロビンは、思わず言葉を失ってしまった。


「そうだよ。道草食ってる場合じゃないなら、今すぐ鳥になってこっから脱出しろよ」


「…………」


 何かロビンに不審なものを感じたベルも、ロビンに獣化を要求する。ベルの言う通り、暇が無いのであれば、すぐホルサントに変身してこの場を去ればいいのだ。


「出来ねえのか?」


「……………………」


 ジーッ


 ロビンは急に黙り込んでしまった。一気に怪しさを増したロビンを、ベルとジュディが凝視する。明らかにロビンの様子がおかしい。いつものロビンは、詰め寄られても黙り込むタイプではない。


「怪しいわね。こうしてる間も、サーカスの奴らはアンタのことを血眼で探してるはずよ。何でさっさと逃げないの?」


「お前、なんか変だぞ?」


 もしかしたら、目の前にいる人物はロビン・カフカではないのかもしれない。そんな疑問がベルとジュディの中で確信に変わりつつあった。ロビンが1番の武器である獣化(キメラ)を使わないのは、不自然極まりない事だった。


「…………チッ」


「あ、今舌打ちした!ザケんじゃないよ‼︎」


 問い詰められたロビンは、観念したかのように舌打ちをした。開き直ったロビンを見て、ジュディは再び怒りのヴォルテージを上昇させる。


「バレてしまっては仕方がない。俺は確かにヴァルチャーことロビン・カフカではない‼︎」


「じゃあ誰なんだよ?」


 その直後ロビンが放ったひと言が、ベルを困惑させる。ジュディとの掛け合いを見ている限り、ロビンの姿をした何者かは、ロビン・カフカと言う人間を深く理解しているように思われる。


「コイツはウチらの知ってる奴じゃないって事だよ。ベル、逃すんじゃないよ‼︎」


 ジュディにもロビンの姿をした何者かの正体は見当も付かなかったが、目の前にいるのがベルたちの敵である事は確かだった。ロビンが黒魔術書(グリモワール)を盗んだのならまだしも、黒魔術書(グリモワール)泥棒は見ず知らずの敵だった。見ず知らずの泥棒を逃すわけにはいかない。


「こんな卑怯な野郎、逃すわけねえだろ‼︎」


 味方の姿に変身して、ベルたちを出し抜こうとした第三の勢力。目の前にいるのがロビンではないのであれば、それはサーカス外部の人間だと考えるのが妥当だった。この人物はエルバの意志を継ぐ者なのか、それともただの泥棒なのか。


「もちろん逃してはくれないよな。戦うしか道は無いと言う事か……」


 ロビンの姿をした人物は、逃げる事を諦めた。敵は正体不明の謎の泥棒、その行く手を塞ぐのは2人の黒魔術士(グリゴリ)騎士(ナイト)。普通に考えれば、この泥棒に勝ち目は無いはずだ。


「掛かって来いよクソ野郎!」


 ベルは右手に炎を灯し、臨戦態勢に入る。

 一方のジュディは泥棒の出方を伺い、身構えている。


「それじゃあ、遠慮なく……」


 ロビンの姿をした人物は、そう言った直後に姿を変え始めた。これからこの人物の本当の姿が明らかになる。それを予感したベルは、瞬きも忘れて謎の人物を凝視していた。


 やがてロビンの姿をしていた泥棒の姿は眩いばかりの光に包まれた。


「⁉︎」


 そして、光の中から現れた泥棒の新たな姿に、ベルとジュディは困惑する。泥棒の新たな姿は、ベルもジュディも予想だにしないものだった。


「それがお前の正体なのか?」


 想像とは違う泥棒の真の姿に、ベルは開いた口が塞がらないでいた。

 2人の目の前に姿を現したのは、人間ではなく怪物だった。体長2メートルほどの怪物は、食虫植物のような姿をしていた。地に根を張り、高く伸びた茎の先には巨大な蕾がついている。蕾の隙間には無数の牙が並んでいて、そこから涎が垂れている。


 突如姿を現した食虫植物は、花茎をくねらせてベルたちの出方を伺っている。


「ジュディ、コイツ俺がやっていいか?」


「好きにすれば?」


 ベルは目の前の怪物に勝てる事を確信していた。


「来いよ!」


 ベルが右手の炎の勢いを強めると、それに反応するかのように、怪物は蕾を開いた。開かれた蕾は花となる。捕食用の花弁は、人間の顔を丸々呑み込めてしまうほどの大きさだった。

 開かれた花弁の1つひとつには無数の牙が並び、その獰猛さが伺える。花弁が定期的に開閉するその様は、まさに猛獣の口のようだ。


「シャーッ‼︎」


 花の怪物は、その大きな口でベルに襲い掛かる。ベルはその猛攻を受け止めずに、避けた。これまでの戦闘の経験が、ベルに多少なりとも慎重さを与えていたのだ。


「灰にしてやる!」


 攻撃を避けた事で、怪物との間合いを急激に縮めたベルは、そのまま怪物の花茎を右手で掴んだ。業火の燃え盛るベルの右手に触れた花茎は、瞬く間に真っ赤な炎に包まれる。根元から花弁の先まで炎に包まれた怪物は、否応無しに燃え尽きた。


 やがて花の怪物は、月の塔の上で命尽きた教皇のような姿となった。跡形も無く燃え去った怪物は、今やただの黒い灰の山になっていた。そこにあるのは燃えカス。

 そして、ロビンの姿をしていた者が手にしていた、金属製の筒だけだった。


「何だ、つまんねーの」


 呆気なく散った花の怪物に、ベルは拍子抜けしていた。ジュディでさえ見つけられなかった黒魔術書(グリモワール)を見つけ出し、ロビンの姿だけでなく言動までも完璧にコピーしていた者の実力が、この程度のものだとは到底思えなかったのだ。


 しばらくして、怪物が復活する気配すら無い事を確信したベルは、灰の中に紛れた金属製の筒を取り上げた。

 この中には、トランプ・サーカスが厳重に保管していた霊魂(オーブ)黒魔術書(グリモワール)が入っている。これで、ベルたちの目的は達成されたのだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


泥棒の正体も、本当に倒せたのかもハッキリしていませんが、ようやくベルとジュディは黒魔術書を手に入れました!

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