第16話「謎の大富豪」【挿絵あり】
無事?に保安官事務所を脱したベルたち。ハウゼント医院に帰り、ジェイクと事件について考えるが…
改稿(2020/05/04)
Episode 4: The Miners/炭鉱夫
すっかり町は暗闇に包まれ、次第に頬に当たる風も冷たくなって行く。
広大なアムニス砂漠を脇に見据えるこの町は、昼は熱く、夜は急激に冷える。そういう理由もあって、この町は名ばかりの都市なのだろう。
ベルとリリは、初めて周囲の目を気にせずに町を歩くことが出来た。このことが、どれほど2人を安心させたかは、言うまでもない。2人はひと時の安らぎを実感しながら、ハウゼント医院へと戻った。
この時、ベルは保安官から貰った服にすでに着替えていて、気分も入れ替わっていた。
「あぁ、お帰りなさい。随分遅かったようですね。イメチェンですか!その服、いいですね!」
2人の顔を確認すると、ジェイクはすぐに玄関から出て来た。出かけると言って連絡もないまま帰りが遅くなれば、誰でも心配になるものだ。
「色々事情がありまして……」
リリは苦笑いしながら答えた。
「無事で何よりです。例の事件もあるので、心配しました」
「遅くなったのは、別件なんですけどね」
「別件?」
「それが、例の事件の犯人らしき人物とゴタゴタがあって、それを見てた保安官に捕まってたんです」
ジェイクに対し、ここでベルが指名手配で捕らえられたなどと言えるはずがなかった。
今の時点では、リリはジェイクを完全に信頼しているわけではない。この事は、出来るだけ他人には知られない方が得策だ。
「レイモンドさんに?あの人は正義感が強いですからね。ところで、事件の犯人らしき人物とは?」
ジェイクはハメルと顔見知りであるようだ。彼の関心は当然事件の犯人へと向く。
「……白い少年です」
リリは神妙な面持ちで、そう言った。
「聞いた事があります。ゴーファー邸に住み着いていたとか」
「はい。その少年がオーブを操り、ベルのオーブまで抜き取ろうとしました。彼が犯人だと思います」
「そのような能力を持つ人間なんて、聞いたことがありませんね。白い少年は人の形をした悪魔なのか、それとも本当にそんな力を持つ人間なのか……」
ジェイクは白い少年について考察している。魂を自在に操る魔法使いなど、長らくこの町で医者をしているジェイクも聞いたことがなかった。
「悪魔だと思った方がいいんでしょうか」
「そうですね……取り敢えず中に入りましょう」
2人はジェイクに言われるがまま、午前中まで使っていた応接室に入ると、椅子に座った。
テーブルには、ジェイクが淹れたお茶も2人分置いてある。
「あのガキまだ寝てたのか」
「1度起きたんですけどね。あなたたちがいないと分かると、また寝てしまいました」
「私たち懐かれてるね」
「別に嬉しくねーな」
「ふ〜ん」
ベルたちが帰って来ても、アレンはぐっすりと眠ったままだった。
「さ、さきほどの続きですが、悪魔にオーブを操る能力があるというのは聞いたことがありませんが、オーブを抜き取ろうとしたのなら、それは悪魔でしょう」
「それより、そのような男に襲われてよく無事でしたね。黒魔術士なんですか?」
「黒魔術士と言えるのかどうかは分かりませんが、ちょっとした魔法なら使えます」
ベルは控えめに答えた。もちろん自分の中に悪魔がいると言う話は絶対にしない。
「そうなんですか……しかし、白い少年はどこに現れたんですか?」
「オーブをたどって行くと、ゴーファー邸に大量のオーブが集まっていたんです。そこに行ってしばらくしたら、白い少年が現れました」
ベルは白い少年と出会うまでのことをジェイクに説明した。もちろん、面倒くさい説明はほとんど省いて。
「その屋敷で大量のオーブを見たと言うのなら、そこには何らかの秘密があるのかもしれません。今回は危険な目に遭ったようですから、また出かけるのであれば次は僕が同行します」
ジェイクはゴーファー邸に何らかの鍵があることを推測した。
そして、彼はベルたちに協力する姿勢を見せている。医院を営みながら、出会ったばかりの人間の面倒を見る。ジェイクは、とても良い人のようだ。
「本当ですか!心強いです!」
「ですが、あの屋敷に行くのはあまりお薦めしません」
ジェイクは、ゴーファー邸の探索に否定的な態度を取った。
「どうしてですか?」
「あの屋敷にかつて住んでいたレイヴン・ゴーファー氏は以前、よくこの医院を利用されていました。当時僕はまだ子どもでしたが、僕が兄と黒魔術の話をしていた時、彼はその話に入って来たんです。その時は不思議に思いませんでしたが、今考えてみれば変だったと思います。彼は魔法使いでもないのに」
「別に黒魔術に興味を持つことが悪いとは思えないのですが」
リリは、ジェイクの言葉に疑問を持った。これだけでは、ジェイクがゴーファーを嫌悪している理由は分からなかった。
「確かに、それだけなら問題ないんですが……彼は悪魔に強い関心を持っていたんです。この町で1番の資産家である彼はその財力を用いて、悪魔に関する様々な品々を収集していたようです」
「それは……確かに怪しいですね」
リリは、今の話を聞いてジェイクの態度に納得した。悪魔の品を集める大金持ち。これだけで嫌な予感しかしない。確かにあの屋敷は危険性を孕んでいるようだ。
「そう言えば、彼の姿を見なくなって間もなく、“あの夜”が起きたと言う噂を聞きました。もっとも、ゴーファー氏は別の理由で姿を消したと言われていますが……」
ジェイクの言う“あの夜”とはもちろんブラック・ムーンのことだった。この国で“あの夜”と言えば、大抵の場合は暗黙の了解である。
「……」
ベルは思わず黙り込んでしまった。自分自身が深く関わっている“あの夜”という言葉が出てくるだけで動揺してしまう。その件で運命を大きく変えられたベルにとっては、なおさらだ。
キーワードを聞き、動揺していたベルとリリはゴーファーが別の理由で失踪を遂げたという重要な言葉を聞き逃していた。
「あ、あの。そのゴーファーさんと白い少年は何か関係があるんでしょうか」
ベルが困っていることを察したリリは、咄嗟に話題を振った。
「そうですね…残念ながらその関係性は分かりません」
「先生!助けてください!」
その時だった。ハウゼント医院に1人の男が患者を連れて飛び込んで来た。顔に火傷を負った青年を、中年の男が連れて来た。
「どうしました?」
ジェイクは自分の話が遮られたことも気にせず、すぐに急患に対応を始めた。
「アイツが暴れ出したんです。豪炎のロックが」
一応"豪炎のロック"という通り名はアドフォードに浸透しているようだ。
「また彼ですか。この方は何か彼の癇に障ることでもしたんですか?」
ジェイクはひとまず安堵する。今この町で発生しているオーブ抜取事件に比べれば、ロックの暴走など大したことはない。
「それが……奴はいつも理不尽で、とんでもない野郎ですが、今のアイツは何か様子が変なんです。とにかく、いつもと様子が違うんです!」
「……それはまた厄介ですね。今彼はどんな様子なんですか?」
ジェイクの悩みの種は増えるばかりである。医者であるはずなのに、なぜこうも事件の推理をしなければならないのだろうか。
「本当に何の前触れもなく町中に現れた奴は、急に暴れ出したんです……」
中年の男は、ロック襲撃事件について語り始める。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
"連続オーブ抜取事件"の解決もままならぬまま、新たな事件が発生するのでした。次回は、"ロック襲撃事件"の解決に挑みます。




