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第108話「風船男」(1)

アビーが興味を示した小さなピエロ。彼は何を彼女に見せてくれるのだろうか。


改稿(2020/10/19)

 ベルたち一行は、少し先の赤いテントの横に佇んでいる小さなピエロのもとへと向かっていた。客が近づいて来ていると言うのに、大量の風船を持ったピエロは微動だにしない。彼は客寄せのための存在であるはずなのに、その瞳はどこか上の空。一体彼は何を考えているのだろうか。


 彼らが目指しているのは一見すれば職務怠慢のピエロだが、誰もその事を気にしてなどいなかった。ただアビーが興味を持ったから。それだけの理由で、ベルたちはやる気の無い小さなピエロに近づいていた。


「よぉおチビさん。その風船、ひとつこの子にくれないか?」


 小さなピエロの目前までたどり着いたベルは、アビーを指差しながら、彼にそう言った。ベルは小さなピエロと視線を合わせるため、屈んでいる。


「……………………」


 だが、小さなピエロからの応答は無い。彼はベルの言葉に反応を示さないどころか、一切動かない。まさか、これは人ではなく、ただの人形なのだろうか。ベルは一瞬そんな事さえ考えた。


「‼︎」


 その直後、まるでさっきまで時間を止められていたかのように、遅れて小さなピエロが反応を見せた。彼は何を言うわけでもなく、ただただ驚いた表情を浮かべている。


「ん?どうした?風船ひとつくれよ」


「…………‼︎」


 ベルはそんなピエロの様子を不審に思った。再び風船を要求してみるが、ピエロは再び驚愕の表情を浮かべるだけで、何もしてはくれない。顔だけは動いているが、まるでその身体は固まってしまっているかのようだ。


「何だよ!どうしちまったんだ?」


 ベルはあまりにも動かないピエロに触ろうとする。


「や、疫病神‼︎」


「⁉︎」


 なぜ見ず知らずの人間が、ベルがアドフォードで呼ばれた事のある名前を知っているのか。ベルはそう思ったが、よくよくピエロが指差している方向を見ると、その指はアビーに向けられていた。


「何よ‼︎初対面の人間を、それもお客さんを疫病神呼ばわりだなんて、ひどすぎない⁉︎」


「だ……だって……ババ・ファンガスが」


  突然見ず知らずの人間を疫病神呼ばわりする小さなピエロに、リリは思わずまくし立てる。凄い剣幕で迫るリリに、小さなピエロは気弱に言い訳する事しか出来ない。


「何?」


 ひとつ前のピエロの発言だけに囚われていたリリは、思わずその次の発言を聞き逃していた。


「何だ、お前もそんなくだらない事信じてるのか。未来なんて誰にも分からないだろ?未来は見るもんじゃない。作るもんだ」


「そうよ。大体こんな小さな子どもが疫病神になんてなれるわけないでしょ……って、これ何回言ったかしら」


 リリと違って小さなピエロの話をちゃんと聞いていたベルとジュディは、ババ・ファンガスの言葉を鵜呑みにしている彼の考えを否定した。


「……失礼しました。僕とした事が、ちょっと取り乱してしまったヨ」


 小さなピエロは、持て成すべき客に失礼な言動を取ってしまった事を謝罪する。おそらく、昨日のうちにサーカスのメンバー全員にババ・ファンガスの予言が伝えられたのだろう。彼らが今日出会ったサーカスの人間は、全員サマーベル兄妹の存在を認知していた。


「でも、そんなの分からないヨ……僕の芸を見れば、そんな事言ってられなくなるヨ」


 ところが、小さなピエロは自身の発言を撤回する事はなかった。トランプ・サーカスに所属しているくらいだから、彼もまた何らかの力を使うのだろう。ただ、それがアビーの危険性を示すとは考えにくい。


「お前が何をしても、俺たちの考えは変わらない」


「そうよ!アンタの芸なんて絶対大した事ないんだから!」


 ベルとリリは、小さなピエロをあからさまに見下していた。彼らの旅はまだまだ始まったばかりだが、旅の過程で2人は様々な黒魔術(グリモア)を目撃して来た。彼らはそう簡単には驚かない。


「僕はロブ。皆からはバルーンマンって呼ばれてるヨ」


 この時、ロブは初めて名前を明かした。これから芸を披露しようとしているのに、彼はまだやる気の無さそうな表情をしている。


「上等だ‼︎そんなもん笑い飛ばしてやりゃあ‼︎どうせその風船で何かするだけだろ!」


 ベルはロブの異名を聞いて、思わず吹き出しそうになった。彼の能力を見ずとも、その異名がついた理由は予想がつく。彼は大量の風船を持っているのだから。


「そこまで期待されてないと、とびっきりのを見せたくなるヨ」


 ロブは表情を一切変えていないが、少しだけ腹を立てていた。確かにロブがその能力でベルたちを驚かせる事が出来れば、小さいからと言って安全だと言う理論は崩れる。それは、間接的にサマーベル兄妹が安全では無いと言う可能性を見出す事になる。


「じゃ、そのとびっきりを見せてくれる?アビーちゃんも見たいよね?」


 ロブの言葉に、ジュディは笑顔を見せた。ジュディに声を掛けられたアビーはゆっくりと頷いた。彼女も、小さなロブが見せようとしている力に興味を示しているのだ。


「それじゃあ、お見せしヨ‼︎」


 フゥ〜……


 ロブは少しだけ明るい表情になると、体内の空気を吐き出し始めた。その間も、彼はずっと風船の束を握りしめている。ロブはかれこれ5分ほど空気を吐き出し続けた。その様子を、ベルたちは心配そうに見つめている。


「……………」


 身体中の空気を吐き切ったロブには、とある変化が起きていた。目を凝らしてロブの姿をよく見てみると、さっきよりも一回り彼の身体が小さくなっている様な気がする。


 スゥ〜ッ……


 その直後、ロブは勢い良く周囲の空気を吸い始めた。周りにある全てのものを呑み込んでしまいそうなほどの勢いで、ロブは空気を吸っている。息を吐いた時同様、彼が息を吸うのにも、かなりの時間が掛かっている。


「⁉︎」


 空気を吸い続けるロブの姿を見ていたベルたちは、目を丸くする事になる。息を吐いていた時と比べ、明確な変化が彼の身に起きていた。何と、ロブの姿は先ほどとは反対に大きくなり始めていた。

 この時ロブの身体は最初の時の2倍ほどになっていた。もうすでにベルと同じくらいの大きさだ。最初はベルの腰ほどまでの大きさしかなかったのに。


 スゥ〜……


 それでもロブは息を吸い続ける。身体の大きさを変化させるロブを見て、ベルたちは驚愕の表情を浮かべている。そんな彼らを見て、ロブは得意げな表情をして見せる。まだ空気を吸い続けていると言うことは、彼の身体は更に大きくなるのだろう。

 そして、ある程度ロブの身体が大きくなった時、それと同時に彼は手にしていた風船の束を手放してしまった。


「ぐぬぬぬ……」


 みるみるうちに大きくなるロブに、ベルは必死でリアクションしないようにしていた。笑い飛ばすと言った以上、平静を装うつもりだ。


 ロブの身体は周囲に張られたテントと同じくらい大きくなっていた。何よりも特徴的だったのは、彼の身体は縦に伸びているだけでは無く、それと同じくらい横にも大きくなっていたと言う事。その姿はまさに風船(バルーン)(マン)。ロブは手持ちの風船を使って何か芸当を見せるわけではなく、自分自身が風船となる特技を持っていた。


 最初とは比べ物にはならないほどの巨体に変化したロブの左手首には、巨大な鎖が巻かれていた。その鎖は勢い良く真下に落下すると、地面に突き刺さった。巨大な風船と化したロブはそのまま空の彼方に飛んで行きそうになるが、地面に刺さった鎖がそれを防ぐ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


みるみる大きくなっていくロブ。一体どんな能力なのか?

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