第99話「奇妙な仮面」(1)
サーカス・ショーの最中に、ベルが発見したものとは…⁉︎
改稿(2020/10/16)
Episode 7 : The Skull and The Ghosts/髑髏と幽霊
「何だ……アイツ」
ベルの視線の先には、ショーが始まるまでは存在しなかったものが現れていた。客席は4段になっていて、最後方にいてもちゃんとステージが見えるようになっていた。ベルが発見したその何かは、客席の最後方にあった。
「何か見つけたの?」
ベルの声に気を引かれて、ジュディも何者かがいる方向を見やる。
そこには、誰の目から見ても怪し過ぎる人物が佇んでいた。その人物は長いコートに身を包み、顔がすっぽりと隠れるマスクを被っていた。そのマスクは何とも不気味なものだった。
そのマスクの大部分は金属で出来たような黒いドクロの形をしているのだが、下顎の部分が異様さを醸し出していた。ドクロの歯は何ともリアルで、そこに繋がる下顎はゾンビのような緑の皮膚だった。今見えてる部分は全てマスクであるはずなのに、その下顎だけは生物のように見えた。
両耳の辺りには機械的な装置が取り付けてあり、耳元から顎の方へと突き出している細長い管のような部分から、怪しげな煙が排出されている。
どこからどう見ても彼は怪しいのだが、今のところ他の観客同様ショーを楽しむ以外の事はしていない。
「何アイツ、キモ……」
「絶対アイツが怪しい奴だろ……」
ジュディとベルは、見るからに怪しいその人物を目にして、顔を引きつらせていた。なぜこんなにも怪しさ全開の人物を、これまで見つけられなかったのだろうか。
怪しいドクロマスクの男は、しばらくステージ上で繰り広げられるキング・クローバーのパフォーマンスに釘付けになっていたのだが、しばらくしてベルと視線を合わせた。
「あ!待てこら‼︎」
ベルと目を合わせた途端、怪しいドクロマスクの男は慌てて席を立った。彼は人混みを掻き分けながら、サーカス・テントの出口を目指した。
その様子を見たベルも、慌ててその男の後を追う。幸い、観客のほとんどはキング・クローバーのパフォーマンスに釘付けになっていたため、大騒ぎになる事は無かった。
「逃がさないぜ‼︎」
ベルは黒魔術を放とうと、右手を構えていた。ドクロマスクの男とベルの間にはまだ距離があり、炎を浴びせて足止めでもしない限り、追いつけない。
「ちょっと‼︎」
「何すんだ‼︎」
今にも炎を放とうとしていたベルの右手を、ジュディが強引に掴む。右手を掴まれたベルは不満そうな顔でジュディを睨んでいる。
「所構わず黒魔術は使っちゃダメ!まだ完全にコントロール出来るわけじゃないんでしょ?怪しい奴捕まえるために、周りの人まで傷つける所だったじゃん」
ジュディはベルよりも冷静に物事に対処出来る人間だった。ベルはアローシャの力を解放した後、何度かその力を暴走させて来た。アムニス砂漠でのミッションにおいて、炎のコントロールは最初より大分マシにはなったものの、まだ安全にその力を扱える保証はどこにも無い。
「放せよ!逃げられちまうだろ……」
正論をぶつけられ急に語気を弱めたベルは、ゆっくりとジュディの手を振りほどいてテントを出て行った。
ベルがサーカス・テントを出ると、まだ辛うじて視線の先にドクロマスクの男を捉える事が出来た。ただ、その姿は小さくなっていて、急がなければ捕まえるどころか見失ってしまいかねない。
「ここなら問題ないだろ……」
ベルは、今度こそ黒魔術を使おうと身構えていた。このまま普通に追い掛けていては、絶対に間に合わない。
サーカスを訪れている人は皆、ベルがさっきいたテントに集まっており、中に入れなかった人もその周辺にひしめき合っていた。このままドクロマスクの男目掛けて炎を飛ばせば、無関係の人間に被害が出る事はない。
「くらえー‼︎」
ベルは走りながら叫んだ。扉の試練を乗り越えたベルは、これまでとは違う。アローシャが力を貸してくれている今は、自在に炎を飛ばす事が出来る。
少年の右掌から放たれる業火は、陽炎を生みながらドクロマスクの男に向かって飛んで行く。
この時、ベルとドクロマスクの男との距離は100メートルほどあった。炎を飛ばす事にあまり慣れていないベルにとって、ドクロマスクの男に命中させられる確率は低かった。ベルは、一か八かの勝負に出たのだ。
ベルは口許を弛ませていた。狙い通り、ベルの手から放たれた真っ赤な炎は、ドクロマスクの男に向かって真っ直ぐに飛んでいる。この調子であれば、炎は謎の男に直撃し、計画通りにその身柄を拘束出来るはずだ。
「⁉︎」
しかし、ベルの予想は裏切られた。真っ直ぐに飛び、謎の男に直撃したと思われたベルの業火だったが、なぜか謎の男は何事も無かったかのようにそのまま走り続けている。彼が身を包むロングコートも確かに一瞬赤く染められたはずなのに、男の身体は燃え上がっていない。まるで炎が彼の身体をすり抜けたか、炎が吸収されてしまったかのようだ。
「どういう事だ……」
その一瞬、何が起こったのかベルには分からなかった。黒魔術をすり抜けたり、黒魔術を吸収してしまうような黒魔術が、この世に存在しているとでも言うのか。
不測の事態が発生しようと、ベルはドクロマスクの背中を追い続ける。身体はその男を取り抑えようと必死に動いているのだが、ベルの頭は真っ白になっていた。ドクロマスクの男は、確実にベルが今まで遭遇した黒魔術士とは違う。
無心で謎の男を追い掛けていると、ベルはさっきあの男に炎が当たった場所を通過していた。
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奇妙な違和感を抱きながらも、謎の人物を追いかけるベル。仮面の男の正体は…




