第93話「謁見」(2)【挿絵あり】
「これはどうも」
ナイト、ベル、ロビンは王軍の人間に促されるがまま扉の先に進んだ。
重々しい扉の先には、真っ白な空間が広がっていた。扉から始まる1本のレッドカーペットの先には、階段があった。レッドカーペットはその階段まで繋がっていて、その先の玉座まで続いていた。窓のないこの空間には明かりも必要最低限しかない。それでも、なぜか空間全体が明るく白い光に包まれている。
玉座には確かに王が座っているのだが、距離と高さがあるために、その姿をしっかりと確認する事は出来ない。下から見る限り、セルトリア国王は純白のマントに身を包んでいるようだ。
「ソロモン王。黒魔術士騎士団のディッセンバー、カフカ、ファウストをお連れしました」
「ありがとう。下がって良いぞ、ベインズ大将、ウェスカーマン中将、オルセン少将」
報告を聞いた国王は、座ったまま右手を上げた。シド・ウェスカーマン中将の隣にいたのはベインズ大将とオルセン少将。どちらも女性だ。赤い短髪の女性がベインズ大将で、水色の長髪がオルセン少将だ。
「ハッ!」
ベインズ大将、ウェスカーマン中将、オルセン少将は一斉に最敬礼すると、そのまま玉座の間を立ち去った。3人の軍人が去ったこの空間には、静寂が訪れた。
「よく来てくれた。君たちはそこに居てくれ。私がそちらへ行こう」
最初に沈黙を破ったのは、ソロモン王だった。王は玉座からゆっくりと立ち上がり、3人の騎士が待つ階下へと進む。
「いえいえ!僕たちがそちらへ行きます」
動き出した国王を見て、ナイトは慌ててそう言った。わざわざ国王に動いてもらう必要はない。ナイトは少しでも国王に負担を掛けないように心掛けている。
「王がそちらへ行くのを望んでいるのだ。良いから君たちはそこにいてくれ」
「……………はい」
しかし国王が少し語気を強めると、ナイトは黙り込んでしまった。国王は、自ら移動する事を望んでいる。誰もそれに文句を言う事は出来ない。
「さて、君たちがマンライオンを退治したという2人か。ロビン・カフカにベル・クイール・ファウスト」
やがて国王は階段を下り切ると、3人の騎士の前で立ち止まった。
目の前に現れた国王から、ベルはしばらく目を離さなかった。国王と言うだけあって、目の前にいるエノク・ソロモンⅢ世の姿からは気品と威厳が溢れていた。
顔には立派なシワが刻まれているが、髪の毛と髭は鮮やかな金色をしていた。白いマントを羽織った国王は、その下に黒いジャケットを着ている。
「ハッ!」
「……ハッ!」
ロビンが頭を下げたのを見て、ベルもすぐさま頭を下げた。
「顔を上げてくれ。そう堅苦しくならなくても良い」
国王は上品な笑みを浮かべている。国王がどんな態度を取ろうと、庶民は緊張してしまうものだ。どんな些細な粗相も許されない。ナイトとロビンはそう思っていた。
「君が噂のブラック・サーティーンか。騎士団にたどり着くまで、さぞ大変だったろう。もう逃げる必要などどこにもない。これから、その力を我が国に貸して欲しい」
「……はい」
ベルは国王の言葉に一瞬ドキッとする。それと同時に、これまでとは違う新しい生活が始まった事を、ベルは再度認識した。王の言う通り、もうベルに逃げる必要はない。騎士団に所属し、騎士団着を身につけている限り。
「では、さっそく報告してもらおうか」
「はい。私の口から説明致します」
ようやくロビンによるミッションの報告が行われる。ベルとロビンがソロモン城に招かれたのは、他でもない。王は、アムニス砂漠の現状についての報告を心待ちにしている。
ロビンは、今回のミッションの内容とその中で起きた事。それからアムニス砂漠の現状を、事細かく説明した。
「ほう…………つまり、本当の脅威はマンライオンなどではなく、その盗賊王と言うわけだな。他所者の王イシャール・ババリ……イルギオスの名だな。ババリについては、詳しく調べる必要がありそうだ」
騎士団長グレゴリオのみならず、ソロモン王でさえアムニス砂漠の最大の脅威はマンライオンだと思っていた。ベルとロビンが目の当たりにした通り、アムニス砂漠における本当の脅威は盗賊王イシャール。どれだけマンライオンを退治しようと、彼がいては何も状況は変わらない。
「彼らの話からするに、イシャール・ババリと言う男は、砂漠そのものを操る力を持っているように思われます。すぐに彼を国際指名手配した方がよろしいかと」
ナイトも、この時初めてベルたちの任務の報告を聞いていた。
「それが良い。だが、もし奴が一生アムニス砂漠から動かないつもりなら、身柄の拘束は難しいかもしれん。砂漠にいる時の奴の力は計り知れんようだからな」
「しかし、彼らは“他所者”です。同じ場所に居着くことはないかと」
ナイトの助言により、ソロモン王はイシャール・ババリを国際指名手配する事にした。
しかしながら、それが彼の身柄を拘束するための直接的な鍵になるとは限らない。
「そうだといいのだがな……」
「仮に奴がアムニス砂漠から離れないとしても、国際指名手配は何らかの助力となるはずです。追うべき人間が1人減ったリミア政府も、きっとこの問題解決に尽力してくれると思います」
浮かない顔をする国王を励ますように、ナイトはそう言った。無論ナイトが言う“1人減った追うべき人間”と言うのはベルの事だ。
「確かにそうだ。これはセルトリア王国とリミア連邦、両国にとって避けては通れぬ問題。お前の言う通りだな、ディッセンバー」
「僕の言葉がお役に立ったのなら、光栄です」
「ご苦労だった。これからも精進してくれたまえ。下がって良いぞ」
「ハッ!」
王の言葉を合図に、お辞儀をしたベルとロビンはすぐさまその場を立ち去った。
それに続くようにナイトも一礼し、王の前を去る。
3人が去ったのを確認すると、ソロモン王はゆっくりと玉座に続く階段を上り始めた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!
今回は、王様のビジュアル初解禁でした!セルトリア王軍の人たちもちょこっと出てます。次回からは、さっそく次の任務のお話です。




