表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/388

第93話「謁見」(1)

任務が終わっても、騎士に休み無し!!

任務を終えたベルとロビンを待っていたのは…⁉︎


改稿(2020/10/14)

 ベルを背に乗せて、ロビンは砂漠の隅に佇む飛空艇まで舞い戻っていた。遠くの空から羽ばたいて来るのが見えたのだろうか、マリス艇長はすでに飛空艇の外で2人を待っていた。ロビンはベルを降ろした途端人間の姿に戻り、何事もなかったかのように歩き出した。


「カフカ。お前にしては遅かったじゃないか」


「案の定、この新人に足を引っ張られましてね……」


「そう言う割には満足そうな顔してるじゃないか」


 マリス艇長は、ロビンの言葉の裏に隠された想いを見透かしていた。文句を言っている割には、その顔は晴れ晴れとしている。


「気分が良い事は否定しません。ですから、今回は俺1人で帰らせてもらえませんか?せっかく気分が良いのに、飛空艇に乗って気分を害したくない」


 珍しく今回ロビンが威張る事はなかった。どうやらマリスの見立て通り、ロビンは本当に気分を良くしている様子。ヴァルチャーはこのまま自らの翼でエリクセスまで帰ろうとしていた。


「その言い方じゃ、まるで私のせいみたいではないか。傷つくぞぉ?私だって人間なんだから傷つくぞぉ?」


「あ、あははは……艇長のせいではありませんよ。それでは……俺はこれで」


 すぐさまこの場を去ろうとしたロビンを前に、マリス艇長はこれまでに見せた事のない顔を見せた。

 常に厳しい顔をして、冗談も通じなさそうなマリス艇長。騎士の間でも厳格な人物として知られている彼だが、今日は何か様子がおかしい。

 このままマリス艇長と話しているのに耐えられなかったロビンは、すぐさま鳥に変身して飛び去ってしまった。


「まったく……いけ好かない奴だ」


「……そうですね〜」


 マリス艇長は拗ねていた。目上の人物のおふざけに、ベルはただ愛想笑いするしかなかった。1番まともだと思われていたマリス艇長だったが、彼は彼で個性が強いらしい。


 ほどなくして、マリスとベルを乗せた飛空艇は、ロビンの後を追うようにアムニス砂漠を飛び立った。

 この頃すでに空の裾は黄昏に染まり始めていた。もうすぐ日が暮れる。オレンジの太陽に照らされながら、飛空艇はエリクセスに向かって飛行している。復路は往路よりも短く感じられるもの。ベルは退屈することなく、セルトリア王国の中枢にある大都市に舞い戻った。


「早かったなカフカ」


「艇長が安全運転過ぎるんですよ」


 マリスがベルを連れて飛空艇を降りると、シップ・ポートにはすでにロビンの姿があった。ロビンはずいぶん前に到着していたようで、人間の姿に戻って落ち着き払っている。


「ご苦労だった……と言いたいところだが、そうもいかない。帰る途中に連絡が入った。今からお前たち2人には、ソロモン城に向かってもらう。セルトリア国王エノク・ソロモンⅢ世が、是非お前たちに会いたいそうだ」


 ベルとロビンが簡単に解放される事はなかった。


「は?」


「何で国王が俺たちに?」


 当然ベルとロビンは驚きを隠せない。ロビンはまだしも、国王はベルの事をほとんど知らないはずだ。ついこの間騎士団に入ったばかりの新人に、何の用があると言うのだろうか。


「セルトリア王国がリミア連邦と共に、アムニス砂漠に関する協定を結んでいる事は当然知っているな?」


「はい。セルトリア王国とリミア連邦、2国間を塞ぐアムニス砂漠に安全な通行路を確保しようと、近年両国の活動が活発になっている。それは承知です」


 現状、セルトリア王国とリミア連邦を行き来するのには、航路が使われる。そのため、両国の国際的な活動に際しても何かと不便が多かった。そのために、両国が取り組もうとしているアムニス砂漠の通行路の確保。国王がベルとロビンに会うのには、この問題が関係しているらしい。


「その通り。今回の任務は、その足掛かりとなるものだった。もしこの通行路が無事に確保出来れば、両国の関係はより強固なものとなる。アムニス砂漠の現状を見て来たお前たちから、国王は直接報告を受けたいそうだ」


 ようやく国王エノク・ソロモンⅢ世の思惑が明らかになった。ベルとロビンが遂行した任務は、セルトリア王国とリミア連邦にとって重要な役割を担っていた。


「2人ともお疲れ様。そう言うことだから、さっそくソロモン城に行こうか。僕が案内するよ。王室にも顔が通っているからね」


 3人が話していると、シップ・ポートにナイトが姿を現した。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 光溢れる夜のエリクセスの街の中を、3人の騎士が歩いている。いくら人が多い都会の大通りと言えど、騎士団着を着た男が3人も揃っていれば、嫌でも目立つ。しかも、そのうち1人はM-12隊長と来た。街行く人々の視線は、3人の騎士に集まっていた。夜の大通りには、騒めきが絶えない。


 しばらくすると、3人の目には荘厳な城が飛び込んで来た。この街に来る時、遠くの丘から眺めていた城が今は目の前にある。ベルは城の姿に見惚れていた。生まれてこの方、ベルは城と言うものを見た事がなかった。


 城と呼ばれる建造物は、他のどの建造物とも様相が違う。天まで届きそうな尖った屋根に、どんな攻撃にも耐えられそうな、要塞のような壁。壁の上部にある見張り台には、砲台が設置してある。

 城の周りには、水を湛えたお堀があった。城は360度を水で囲まれていて、大通りから渡された橋だけが、唯一城にたどり着く道だった。


 ただ、この時橋はまだ降ろされておらず、ソロモン城への道は繋がっていなかった。ソロモン城側の人間に連絡して、橋を渡してもらう必要がある。


「2人とも、騎士団証を貸してくれるかい?」


 ソロモン城の入り口付近のお堀の端まで来た時、ナイトが言った。どうやら、この先に行くためには、騎士団証が不可欠なようだ。もちろんベルもロビンも、躊躇いなく騎士団証をベルトから外し、ナイトに渡した。


「…………」


 2人から騎士団証を受け取ったナイトは、自分の騎士団証もベルトから外し、突然お堀に向かってそれを投げた。それを見て一瞬叫びそうになったベルだったが、ここは様子を見てみる事にした。

 ナイトが投げ捨てたと思われた3つの騎士団証は、お堀の水溜まりに落ちる事なくソロモン城の方へ飛んで行った。それは、磁石で引っ張られているかのような動きだった。ユラユラと浮遊しながら、3つの騎士団証は向こう岸にたどり着いた。


 ソロモン城入り口には、石畳の大きな橋が立っている。その端が降ろされて初めて、向こう岸に渡る事が出来る。

 その橋の周りには、石の防壁があった。注目してみると、橋のすぐ右側には何やら不自然な3つの窪みがある。それは、ちょうど黒魔術士(グリゴリ)騎士団の騎士団証がすっぽりとハマりそうな大きさだった。


 飛んで行った3つの騎士団証は大方の予想通り、スッと吸い込まれるようにその窪みにはまった。

 その直後騎士団証は紫の輝きを放ち、大きな音を立てた。

 やがて、橋の上部にある鎖が動き始める。この時鎖は巻き揚げ切った状態になっていたが、騎士団証が光ると、鎖はゆっくりと降ろされる。ゆっくりと大きな音を立てながら、橋はベルたちがいる方へと降りて来る。しばらくすると、橋はしっかりと向こう岸に渡された。


 3人が橋を渡り切ると、自動的に3つの騎士団証は壁から剥がれ、浮遊して持ち主の元へ戻って来た。騎士団証はグレゴリオと団員の魔力により形成された、この世にたったひとつしか存在しない身分証明書。


 騎士団と王室は関係が深く、騎士団員が出入りするためのシステムはしっかり整っている。逆に言えば、しっかりとした身分証明と許可が無ければ、ソロモン城に足を踏み入れる事は出来ない。この城は、当然騎士団本部と同等かそれ以上のセキュリティを備えていた。


 城内の敷地に足を踏み入れても、まだソロモン城は先。橋を渡った先にあるのは、広大な庭だった。全面を防壁で覆われた外観からは想像も出来ないが、中には緑豊かな庭が広がっていた。

 すでに辺りは暗くなっているため詳しくは確認出来ないが、そこには色とりどりの花が咲き、たわわに実った果実まで見受けられる。国王は自然を愛する人物なのだろうか。


 広大な中庭を30分ほど歩くと、ようやくソロモン城の入り口が見えて来た。要塞のような建造物が幾つも並ぶ中、中心部にそれはあった。白を基調としたソロモン城は、気品に満ち溢れていた。外観の至るところに凝った装飾があるものの、建物の構造自体はシンプルで、絶妙に美しく見える。

 そして何よりも特徴的だったのが、城へ続く中央階段だった。城の入り口は、かなり高い位置にあった。


 ベルには気になる点があった。この城には明らかに窓が少ない。光を取り入れるための窓が少なからずあって良いはずなのに、正面からはほとんど窓を見つける事が出来なかった。少し違和感を覚えながらも、ベルはナイトの後に続いて中央階段を登り始める。


 3人の騎士が中央階段をほとんど登り終えた時、王室へと繋がる扉が突如として開かれる。突然の出来事に、ベルは思わず身構えた。

 扉から現れた人物は1人ではなく、ベルたちと同じように3人だった。


「これはこれは。黒魔術士(グリゴリ)騎士団の皆様。ようこそお越しくださいました。さあ、こちらへ」


 王室の扉を内側から開いて現れた3人。それはセルトリア王軍の人間だった。彼らは全員深緑色の軍服に身を包んでいる。

 この時口を開いたのは、ナイトもよく知る人物だった。シド・ウェスカーマン。彼はナイトと共に国王から勲章を授かった男だ。その両隣には、女性が立っていた。左側の女性は水色の長髪、そして右側の女性は燃えるような赤い短髪だった。彼女らもまた、ウェスカーマンと同様に王軍の将官なのだろう。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


王城に到着したベルたち。そこで待つのは、国王ソロモン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ