第93話「謁見」(1)
任務が終わっても、騎士に休み無し!!
任務を終えたベルとロビンを待っていたのは…⁉︎
改稿(2020/10/14)
ベルを背に乗せて、ロビンは砂漠の隅に佇む飛空艇まで舞い戻っていた。遠くの空から羽ばたいて来るのが見えたのだろうか、マリス艇長はすでに飛空艇の外で2人を待っていた。ロビンはベルを降ろした途端人間の姿に戻り、何事もなかったかのように歩き出した。
「カフカ。お前にしては遅かったじゃないか」
「案の定、この新人に足を引っ張られましてね……」
「そう言う割には満足そうな顔してるじゃないか」
マリス艇長は、ロビンの言葉の裏に隠された想いを見透かしていた。文句を言っている割には、その顔は晴れ晴れとしている。
「気分が良い事は否定しません。ですから、今回は俺1人で帰らせてもらえませんか?せっかく気分が良いのに、飛空艇に乗って気分を害したくない」
珍しく今回ロビンが威張る事はなかった。どうやらマリスの見立て通り、ロビンは本当に気分を良くしている様子。ヴァルチャーはこのまま自らの翼でエリクセスまで帰ろうとしていた。
「その言い方じゃ、まるで私のせいみたいではないか。傷つくぞぉ?私だって人間なんだから傷つくぞぉ?」
「あ、あははは……艇長のせいではありませんよ。それでは……俺はこれで」
すぐさまこの場を去ろうとしたロビンを前に、マリス艇長はこれまでに見せた事のない顔を見せた。
常に厳しい顔をして、冗談も通じなさそうなマリス艇長。騎士の間でも厳格な人物として知られている彼だが、今日は何か様子がおかしい。
このままマリス艇長と話しているのに耐えられなかったロビンは、すぐさま鳥に変身して飛び去ってしまった。
「まったく……いけ好かない奴だ」
「……そうですね〜」
マリス艇長は拗ねていた。目上の人物のおふざけに、ベルはただ愛想笑いするしかなかった。1番まともだと思われていたマリス艇長だったが、彼は彼で個性が強いらしい。
ほどなくして、マリスとベルを乗せた飛空艇は、ロビンの後を追うようにアムニス砂漠を飛び立った。
この頃すでに空の裾は黄昏に染まり始めていた。もうすぐ日が暮れる。オレンジの太陽に照らされながら、飛空艇はエリクセスに向かって飛行している。復路は往路よりも短く感じられるもの。ベルは退屈することなく、セルトリア王国の中枢にある大都市に舞い戻った。
「早かったなカフカ」
「艇長が安全運転過ぎるんですよ」
マリスがベルを連れて飛空艇を降りると、シップ・ポートにはすでにロビンの姿があった。ロビンはずいぶん前に到着していたようで、人間の姿に戻って落ち着き払っている。
「ご苦労だった……と言いたいところだが、そうもいかない。帰る途中に連絡が入った。今からお前たち2人には、ソロモン城に向かってもらう。セルトリア国王エノク・ソロモンⅢ世が、是非お前たちに会いたいそうだ」
ベルとロビンが簡単に解放される事はなかった。
「は?」
「何で国王が俺たちに?」
当然ベルとロビンは驚きを隠せない。ロビンはまだしも、国王はベルの事をほとんど知らないはずだ。ついこの間騎士団に入ったばかりの新人に、何の用があると言うのだろうか。
「セルトリア王国がリミア連邦と共に、アムニス砂漠に関する協定を結んでいる事は当然知っているな?」
「はい。セルトリア王国とリミア連邦、2国間を塞ぐアムニス砂漠に安全な通行路を確保しようと、近年両国の活動が活発になっている。それは承知です」
現状、セルトリア王国とリミア連邦を行き来するのには、航路が使われる。そのため、両国の国際的な活動に際しても何かと不便が多かった。そのために、両国が取り組もうとしているアムニス砂漠の通行路の確保。国王がベルとロビンに会うのには、この問題が関係しているらしい。
「その通り。今回の任務は、その足掛かりとなるものだった。もしこの通行路が無事に確保出来れば、両国の関係はより強固なものとなる。アムニス砂漠の現状を見て来たお前たちから、国王は直接報告を受けたいそうだ」
ようやく国王エノク・ソロモンⅢ世の思惑が明らかになった。ベルとロビンが遂行した任務は、セルトリア王国とリミア連邦にとって重要な役割を担っていた。
「2人ともお疲れ様。そう言うことだから、さっそくソロモン城に行こうか。僕が案内するよ。王室にも顔が通っているからね」
3人が話していると、シップ・ポートにナイトが姿を現した。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
光溢れる夜のエリクセスの街の中を、3人の騎士が歩いている。いくら人が多い都会の大通りと言えど、騎士団着を着た男が3人も揃っていれば、嫌でも目立つ。しかも、そのうち1人はM-12隊長と来た。街行く人々の視線は、3人の騎士に集まっていた。夜の大通りには、騒めきが絶えない。
しばらくすると、3人の目には荘厳な城が飛び込んで来た。この街に来る時、遠くの丘から眺めていた城が今は目の前にある。ベルは城の姿に見惚れていた。生まれてこの方、ベルは城と言うものを見た事がなかった。
城と呼ばれる建造物は、他のどの建造物とも様相が違う。天まで届きそうな尖った屋根に、どんな攻撃にも耐えられそうな、要塞のような壁。壁の上部にある見張り台には、砲台が設置してある。
城の周りには、水を湛えたお堀があった。城は360度を水で囲まれていて、大通りから渡された橋だけが、唯一城にたどり着く道だった。
ただ、この時橋はまだ降ろされておらず、ソロモン城への道は繋がっていなかった。ソロモン城側の人間に連絡して、橋を渡してもらう必要がある。
「2人とも、騎士団証を貸してくれるかい?」
ソロモン城の入り口付近のお堀の端まで来た時、ナイトが言った。どうやら、この先に行くためには、騎士団証が不可欠なようだ。もちろんベルもロビンも、躊躇いなく騎士団証をベルトから外し、ナイトに渡した。
「…………」
2人から騎士団証を受け取ったナイトは、自分の騎士団証もベルトから外し、突然お堀に向かってそれを投げた。それを見て一瞬叫びそうになったベルだったが、ここは様子を見てみる事にした。
ナイトが投げ捨てたと思われた3つの騎士団証は、お堀の水溜まりに落ちる事なくソロモン城の方へ飛んで行った。それは、磁石で引っ張られているかのような動きだった。ユラユラと浮遊しながら、3つの騎士団証は向こう岸にたどり着いた。
ソロモン城入り口には、石畳の大きな橋が立っている。その端が降ろされて初めて、向こう岸に渡る事が出来る。
その橋の周りには、石の防壁があった。注目してみると、橋のすぐ右側には何やら不自然な3つの窪みがある。それは、ちょうど黒魔術士騎士団の騎士団証がすっぽりとハマりそうな大きさだった。
飛んで行った3つの騎士団証は大方の予想通り、スッと吸い込まれるようにその窪みにはまった。
その直後騎士団証は紫の輝きを放ち、大きな音を立てた。
やがて、橋の上部にある鎖が動き始める。この時鎖は巻き揚げ切った状態になっていたが、騎士団証が光ると、鎖はゆっくりと降ろされる。ゆっくりと大きな音を立てながら、橋はベルたちがいる方へと降りて来る。しばらくすると、橋はしっかりと向こう岸に渡された。
3人が橋を渡り切ると、自動的に3つの騎士団証は壁から剥がれ、浮遊して持ち主の元へ戻って来た。騎士団証はグレゴリオと団員の魔力により形成された、この世にたったひとつしか存在しない身分証明書。
騎士団と王室は関係が深く、騎士団員が出入りするためのシステムはしっかり整っている。逆に言えば、しっかりとした身分証明と許可が無ければ、ソロモン城に足を踏み入れる事は出来ない。この城は、当然騎士団本部と同等かそれ以上のセキュリティを備えていた。
城内の敷地に足を踏み入れても、まだソロモン城は先。橋を渡った先にあるのは、広大な庭だった。全面を防壁で覆われた外観からは想像も出来ないが、中には緑豊かな庭が広がっていた。
すでに辺りは暗くなっているため詳しくは確認出来ないが、そこには色とりどりの花が咲き、たわわに実った果実まで見受けられる。国王は自然を愛する人物なのだろうか。
広大な中庭を30分ほど歩くと、ようやくソロモン城の入り口が見えて来た。要塞のような建造物が幾つも並ぶ中、中心部にそれはあった。白を基調としたソロモン城は、気品に満ち溢れていた。外観の至るところに凝った装飾があるものの、建物の構造自体はシンプルで、絶妙に美しく見える。
そして何よりも特徴的だったのが、城へ続く中央階段だった。城の入り口は、かなり高い位置にあった。
ベルには気になる点があった。この城には明らかに窓が少ない。光を取り入れるための窓が少なからずあって良いはずなのに、正面からはほとんど窓を見つける事が出来なかった。少し違和感を覚えながらも、ベルはナイトの後に続いて中央階段を登り始める。
3人の騎士が中央階段をほとんど登り終えた時、王室へと繋がる扉が突如として開かれる。突然の出来事に、ベルは思わず身構えた。
扉から現れた人物は1人ではなく、ベルたちと同じように3人だった。
「これはこれは。黒魔術士騎士団の皆様。ようこそお越しくださいました。さあ、こちらへ」
王室の扉を内側から開いて現れた3人。それはセルトリア王軍の人間だった。彼らは全員深緑色の軍服に身を包んでいる。
この時口を開いたのは、ナイトもよく知る人物だった。シド・ウェスカーマン。彼はナイトと共に国王から勲章を授かった男だ。その両隣には、女性が立っていた。左側の女性は水色の長髪、そして右側の女性は燃えるような赤い短髪だった。彼女らもまた、ウェスカーマンと同様に王軍の将官なのだろう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
王城に到着したベルたち。そこで待つのは、国王ソロモン。




