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第88話「砂塵に潜む影」(2)【挿絵あり】

 ホーンド・キャメルに乗って進む2人の視界には、様々な生物たちが飛び込んで来た。グレゴリオやロビンの言う通り、この砂漠には独自の生態系が築かれている。


 体長3メートルはあろうかと言うほど巨大な亀。大量の釘が打たれたバットのような、トゲトゲの尻尾を持つトカゲ。大きな耳を持ったネズミや、飛び跳ねる小さなネズミ。


 それから、身体が透き通っているヤモリ。その身体は鮮やかに彩られているが、向こうの景色が透けている。その身体はまるで水のようだ。もしかすると、本当に水で出来ているのかもしれない。


 最後にベルの目に留まったのは、1羽の鳥だった。この鳥は大きな翼と尾を持っているのに、大空を羽ばたこうとしない。羽ばたくことはせず、砂漠の中を駆けている。その姿を見て、ベルはロビンの異名を連想する。飛べない禿鷹。まさにそうだ。走るよりも、大空を飛んでいた方が確実に暮らしやすいはずだ。


 その直後、ベルは目を疑った。何と、その鳥の走る速度が目にも留まらぬほど加速したのだ。その鳥はあっという間にベルの視界から消えてしまった。確かに、あれだけ速く走れるのなら、飛ぶ必要もないのかもしれない。この鳥のように、何か驚くべき力がロビンには隠されているのだろうか。


 絶え間なく現れる砂漠の生物にベルが目を奪われていると、突然先頭を走行していたロビンのホーンド・キャメルが足を止める。


「どうした?」


「前を見てみろ」


 2人の黒魔術士(グリゴリ)騎士(ナイト)の目前に広がるのは、視界を覆い尽くしてしまうほどの砂嵐だった。彼らの行く手には凄まじい砂塵が吹き荒れ、このままでは一切前に進む事が出来ない。


「お前の黒魔術(グリモア)で吹き飛ばせねえのか?」


「俺はそんな黒魔術(グリモア)は持ってない」


「じゃあどうすんだよ⁉︎」


 と言う事は、やはりさっきの強烈な砂風はロビンが起こしたものではなかったと言う事。何にせよ、このままでは、この先に待ち受けているマンライオンの所までたどり着く事が出来ない。


「⁉︎」


 その時、突如として荒れ狂う砂塵がピタリと動きを止めた。それはまるで、何者かの意思によって動かされているかのようだった。これで無事先に進む事が出来るが、形容しがたい不気味さを2人は感じ取っていた。この先に、何か罠が仕掛けられているような気がしてならなかった。


「進まないのか?」


「……進むしかないだろう」


 2人とも何かがこの先に待ち構えている事を理解していたが、この状況では進む以外に選ぶ道はない。2人が手綱を引っ張ると、2頭のホーンド・キャメルが動き出す。


「何⁉︎」


 その直後、周囲に異変が起こった。やはり罠が仕掛けられていたのだ。2頭のホーンド・キャメルが前進すると、ベルとロビンを囲むように砂塵が舞い始める。2人は、見渡す限りを砂塵の壁で囲まれてしまった。360度どこを見回しても、見えるのは黄色い壁のみ。唯一の抜け道は、頭上遥か高くに空いた天井の穴だけ。


 砂塵の壁に閉じ込められたのは、業火の黒魔術士(グリゴリ)と飛べない禿鷹。まず空から逃げる事は不可能だろう。だとすれば、周囲を囲む砂塵の壁をどうにかして突破しなくてはならない。

 そんな中、2人の視界にあるものが飛び込んで来る。


「騒がしい奴らが掛かったな」


 その直後、低く図太い声が2人の耳に届いた。どうやら、何者かが2人に罠を仕掛けたのは間違いないようだ。2人を罠に掛けた何者かは、他の砂漠の生物と違って人語を操る。


「何だお前……?」


 突如として目の前に現れた謎の存在を前に、ベルは息を呑んだ。見たところそれは人のような形をしているが、それが人だとはまだ断定出来ない。


挿絵(By みてみん)


「おやおや……これはこれは。かの有名な脱獄犯ベル・クイール・ファウストではないか」


「誰だ⁉︎何で俺を知ってる?」


 ベルは分かりやすく動揺していた。目の前に現れた人物は頭部に長い布をぐるぐる巻きにしているため、その素顔を確認する事が出来ない。

 目の前にいる男はおそらく盗賊。砂漠に現れた盗賊でベルの存在を知っていると言えば、ベルには1人しか思いつく人物がいなかった。


「私か?私はただの他所者だよ」


「他所者?」


 謎の男は他所者だと自称するが、ベルには全くその意味が理解出来なかった。ベルへの復讐を目論む男ガランは、他所者と呼ばれる盗賊に救い出されたのだが、ベルにはそれを知る由もなかった。


「そうだ、他所者だ。故郷も居場所もない他所者だ」


 男は続けてそう言った。故郷も居場所もない他所者。そんな人間たちが集まったのが盗賊なのだろう。


他所者(アルグリバー)。アムニス砂漠に出没する有名な盗賊団だ。そうだろ?」


 話を聞いていたロビンがここで口を挟む。どうやら、彼ら盗賊団は他所者(アルグリバー)と名乗って活動をしているようだ。


「我らも有名になったものだな……嬉しい限りだ。我が名はイシャール・ババリ。他所者を束ねる者だ」


 素顔を隠した男は、高揚した声でそう言った。彼は人間だった。それもただの人間ではない。アムニス砂漠で大暴れする盗賊団アルグリバーの王イシャール・ババリ。

 一体彼は何の目的で2人の騎士の前に現れたのだろうか。まさか黒魔術士(グリゴリ)騎士(ナイト)から、追い剥ぎをしようとでも言うのだろうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


マンライオンを探し出す前に、ベルたちは盗賊王と遭遇してしまいました!!盗賊王イシャールは、ベルの命を狙っている様子。このピンチをベルとロビンはどう切り抜けるのか?

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