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第87話「飛べない禿鷹」(1)【挿絵あり】

2人の騎士はアムニス砂漠に向かうため、シップ・ポートにたどり着いていた。


初めて飛空艇を見るベルが興奮する一方ロビンは…


改稿(2020/10/11)

 強風吹きすさぶ黒魔術士(グリゴリ)騎士団本部屋上に、2人の黒魔術士(グリゴリ)騎士(ナイト)の姿があった。


 すでに屋上には飛空艇と思しき乗り物が佇んでいる。飛空艇と言う呼び名だが、そのボディはスペースシャトルのようだった。数えきれないほどの金属の板を貼り合わせたような無骨なボディは、どこか哀愁を漂わせている。飛空艇は左右に小さめの翼を持ち、ボディの上には飛行船のような形をしたバルーンのような物とプロペラが取り付けられている。

 

 一見するとこの乗り物は到底飛びそうには見えない。それはベルが今まで見た事がない乗り物だった。ボディの下部には銃口のようなものまで見えた。空中での戦いも想定しているのだろうか。


 ベルが飛空艇のボディをじっくりと眺めていると、突然そのボディの一部が扉のように開いた。そこからは屋上の足場まで届くタラップが降りてきて、1人の騎士団員が姿を現した。


「遅かったじゃないかカフカ……そいつが例の新人か」


挿絵(By みてみん)


 そこに現れたのは、恐らく艇長と呼ばれる人物だろう。彼は長い銀髪を風に(なび)かせながらタラップを降りて来る。

 彼もまた騎士団員であるのだが、衣服からは彼の特別さが伺える。艇長はロングコートを着ているのだが、それはまるでM-12の騎士団着と平団員の騎士団着を合わせたようなデザインだった。赤色と鼠色が混在しているのだ。


 彼の最大の特徴は、その顔にあった。彼は右目に真っ黒な眼帯をつけている。50代くらいに見えるその顔には、風格漂うシワが刻まれていて、それが眼帯と相まって彼に凄みを与えている。全身から溢れ出しているそのオーラから、彼がこれまで幾つもの戦いを切り抜けて来た事が感じ取れた。


「はい、この男がファウストです。噂にそぐわぬ青二才ですが」


 ロビンは人前であろうとベルの嫌味を言う。ジュディの忠告した通りだった。ロビンは平気で他人を貶し続ける。


「言うじゃないかカフカ。仮にもそのファウストと言う者はブラック・サーティーンだ。侮らない方がいいぞ」


 毒舌ロビンに対し、艇長までベルを貶す事はなかった。彼はベルに秘められた能力に期待しているようだ。彼の言葉を聞いて、ベルはほんの少しだけ気が休まる。そもそも常に貶してくるロビンが普通ではないのだ。


「ブラック・サーティーンであろうと力が自在に使えないのならば、取るに足らない。俺の足を引っ張らないか不安で仕方ない」


 ロビンが艇長の意見を受け入れる事はなかった。彼はあくまでもベルを貶し続けるつもりらしい。ベルが足手まといにならないかをずっと気にかけているが、そんなにロビンは強いのだろうか。


「フン、まあいいだろう。ファウスト、私は騎士団の飛空艇部門を取り仕切る艇長マリスだ」


「よろしくお願いします」


「では、さっそく出港する。さっさと搭乗しろ」


 ベルが返事をすると、マリス艇長はすぐに飛空艇の中に入り込んだ。マリス艇長が飛空艇に乗り込んだのを確認していたはずのロビンだったが、彼が動き出す気配は一向にない。


「どうしたハゲ?」


 ベルはロビンの様子が普段と違う事にはすぐ気付いた。ずっと貶されている分仕返ししてやろうと、ベルはロビンの欠点をずっと探っていたのだ。ベルは常にロビンの言動を気にかけている。それ故に貶された時は余計にはっきりと聞こえてしまう。


「……………」


 最も嫌っているはずの名前で呼ばれても、なぜだかロビンがベルに反応する事はなかった。


「どうしたんだよ?」


 返事もせず、全く動かなくなったロビンを見て、ベルは急に不安になった。何か様子がおかしい。まさか彼もブラック・サーティーンの1人で、今まさに悪魔に身体を乗っ取られてそうになっているとでも言うのだろうか。


「先行くぞ?」


 ベルは不安を拭えぬまま、ロビンを置き去りにして飛空艇に乗り込んだ。


 飛空艇の内装は外装と違い、近未来的で機械的な空間が広がっていた。中はまさに快適そのもの。まるでプライベート・ジェットのように高級感溢れる景色がそこには広がっていた。やはり、内装も黒色に統一されている。


 中は外見から想像するよりは広く、座席数も少なくなかった。中央には2席シートが8列並んでいて、両端には1人掛けの座席が同じように並んでいる。見たところ、1度に最大32名の騎士を輸送出来るようだ。


 艇長室と客室は完全に仕切られていて、座席から艇長室の様子を把握する事は出来ない。また、側壁に並ぶ窓から外の景色を眺める事も出来る。ふと外を覗いてみれば、未だにロビンがそこにいた。


「あの、マリス艇長。なんでアイツずっと動かないんですか?」


 まだ艇長室に入っていなかったマリス艇長に、ベルは声をかけた。


「あぁ、アイツか。カフカは空飛ぶ乗り物が嫌いでな。自分から乗り込む事が出来ないのだ。誰かが無理やり連れて来ない限りは」


 マリス艇長はそう言いながら、ベルの顔をまじまじと見つめている。ここでまたひとつ、ロビンの弱点が発覚した。


「……連れて来ます」


 当然マリス艇長が動くはずもなく、ベルがロビンを連れて来る事になった。


「聞いたぞ。空飛ぶ乗り物が嫌いなんだって?ハゲタカが聞いて呆れるぜ!」


 さっそくロビンを連れに来たベルは、ここぞとばかりに罵る言葉を浴びせた。禿鷹が飛空艇に乗れないとは何事か。大空を優雅に飛び回るのが禿鷹。なぜこんな人物に“禿鷹(ヴァルチャー)”と言う異名がついたのか。ベルには到底理解出来なかった。


「う、うるさい‼︎自分の意思に反して飛ぶのがどうにも居心地が悪いんだ‼︎」


 最初は黙り込んでいたロビンだったが、ようやく口を開いた。もしもヴァルチャーが高所恐怖症なのであれば、その異名は今すぐに取り払うべきだ。


「それでもエリート騎士(ナイト)かよ。自分の都合で任務に支障を来してるのは、お前の方じゃないのか?」


 この時、ベルは初めて優位に立てた気がして高揚していた。ついさっきまでフラフラだったベルはロビンに叱られたが、今度はその逆。空飛ぶ乗り物に乗れないのであれば、飛空艇を常用する騎士団員には到底向いていない。


「クソガキが偉そうに……」


 ロビンはいつもの如く上から目線の発言をするが、その言葉に勢いは全くなかった。彼は明らかに体調を崩しているようだ。


「はいはい、分かったから。さっさと行くぞ!」


 今度はベルが上から目線でロビンを艇内に連れ込もうとする。まだ2人は出会って1時間も経っていないが、その立場は逆転していた。


「ま、待て…まだ心の準備が……」


 ロビンはベルに反発する。引っ張られているのとは反対方向に、全身に力を入れ、全力でその場に留まろうとしている。


「いい加減にしろよな!もう偉そうな口は利かせないぜ!」


 ベルは嫌がるロビンを、全力で艇内に引きずり込もうとしている。この時ベルはロビンの苦しむ顔を見る事を心から楽しんでいた。このような状況で無い限り、ロビンを貶し続ける事はまず出来ないだろう。


「嫌だ〜っ!飛ばさないでくれ〜!」


 すると、ロビンは急に情けない声で叫び出す。


「ぷっ……わはははは‼︎」


 あまりに情けないロビンの醜態を目の当たりにしたベルは、思わず大声で笑ってしまう。自分を見下す人間のここまで極端な醜態を見る機会はそうない。ベルはそれまで抱えたいたモヤモヤした気持ちが全て晴れたようで、すっかり気持ちよくなっていた。


「くっ〜……」


 突然ベルに手を離されたロビンは、そのまま飛空艇とは反対側に倒れこんでしまう。とんでもない醜態を晒してしまったロビンは居た堪れず、顔を真っ赤にして塞ぎ込んでしまった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


毒舌なロビンには、2つの弱点がありました。それは、ハゲと呼ばれる事。そして、自分の意思に反して飛ばされる事。


出発前から醜態を晒したロビンは本当に大丈夫なのか…?

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