表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/388

第84話「花と刺」(2)【挿絵あり】

 それから、ベルは意識がハッキリしていないまま、リリとアレンと別れた後のことを話し始めた。まだまだ夢見心地だったベルが話す内容には、まるで現実味が無かった。


 復讐に燃えるベンジャミンたちと死闘を繰り広げ、レイリーのゴーストと、ナイトにベルは救われた。

 それから導かれるままに黒魔術士(グリゴリ)騎士団を訪れたベルは、さらに多くの人々と出会い、己の中のアローシャと対峙することになった。様々な試練を乗り越えて、ベルはようやく本物の黒魔術士(グリゴリ)へと成長していた。


「え?じゃあついに正真正銘の黒魔術士(グリゴリ)になったってこと?」


「あぁ、まだ全然コントロール出来てないけど」


「こんな短期間で本当に色んなことがあったんだね…ベルはすごいよ!」


「ハハ……そうか?」


 本当に短期間で、ベルには様々な変化が起きていた。彼の言う通り、まだまだ黒魔術(グリモア)の練習や経験は必要不可欠だが、ベルはひとつの目的を達成していた。ひとつの段階を終えて、ベルは着実に次のステージへと足を踏み出していた。


「にしてもアンタ。ブラック・サーティーンのくせに、平然としてられるだなんて、ホント面白いね」


 ジュディはベルの顔を覗き込んだ。自信過剰で傲慢な彼女でも、ブラック・サーティーンは無視出来ない存在だった。ベルは世界でたった13人しかいない黒魔術士(グリゴリ)の1人なのだから。


「確かにそうですね…無理やり憑依(ポゼッション)の契約をさせられたのに無事でいられるなんて。一体ファウストさんの身体はどうなっているんですか?」


「だろだろ?コイツの身体気になるだろ?」


「1回脱がしてみるってのはどう?」


「ちょ、ちょっとお姐様‼︎」


 ベルに興味を示すロコに、ジュディは耳打ちした。アイザックとは違うが、彼女も悪ふざけを止められないらしい。


「なんか全然分かんねえけど、俺の中には“偽の鬼宿の扉”があるらしい。そのおかげで悪魔に身体を乗っ取られずに済んだ。でも、その扉が動かせなかったせいで、今まで黒魔術(グリモア)がほとんど使えなかったんだ」


「偽の鬼宿の扉⁉︎何だソレ」


「興味深いです‼︎」


「鬼宿の扉って、あの鬼宿の扉⁉︎今まではその扉が、アローシャの侵入を防いでくれてたんでしょ?その扉が開くようになったってことは、これからはいつアローシャに身体を奪われても、おかしくないんじゃないの?」


 鬼宿の扉。それはほぼ全ての人間が実際にその目にしたことがない。リリもまた、鬼宿の扉を知っていた。レイリーの家を訪れた際に知ったのだろうか。


「そうね。アンタの話がホントだとすれば、そう言うことになる。その力を手にするために、とんでもない犠牲を払ったことになるんじゃない?」


「鬼宿の扉と言えば、絶対的な隔たりをもたらすもの。それが簡単に開いてしまうのであれば、ファウストさんの身体は常に危険な状態に……」


「ヤバいじゃん‼︎早く鍵掛けて、その扉閉めちまいな!」


 彼女たちの言うことは最もだった。今のベルは、いつアローシャから支配されても不思議ではない。強力な力を手に入れるためとは言え、それは大き過ぎる代償だ。


「アローシャは俺に力を貸す……らしい。意味分かんねーことの連続で、俺も全然分かんねーけど。でもこうなったら、とことんコイツを利用してやる」


 ベルはくすぐったそうにしていた。アローシャの存在は、ベルの中で確実に変化を始めていた。今では、ただ憎しみを抱くだけの対象ではない。利用するための力の源だ。だが、決してベルはこの悪魔を赦しはしない。


「でも、悪魔が人間に見返りを求めないとは思えないな」


「安心しちゃダメですよ!」


 ジュディは、彼女なりにアローシャの考えを探っていた。悪魔が人間に無償で力を貸すと言う話は、まず有り得ないものだった。必ず裏には、何か別の思惑があるはずだ。


挿絵(By みてみん)


「どんだけ甘い顔をして近づいて来ても、絶対心を許しちゃダメだよ。悪魔はいつでもお前の身体を狙ってる……」


「お姐様、手の動きがいやらしいです……」


 ジュディは至って真剣にベルに忠告していたが、その動きが説得力を低下させていた。彼女の全ての指をくねくねと動かして、何やら良からぬことを考えているような表情を浮かべていた。


「あのぉ、気になってたんですけど……ジュディさんとロコさんは姉妹なんですか?」


 破廉恥な雰囲気に耐えられなかったリリは、またも無理やり話題を変えた。


「姉妹?ウチとロコが?」


 思いもよらぬ質問を受けたジュディは、目を丸くしている。


「違うんですか?」


「そんなわけないじゃん!見てみ?ほら、ウチら全然似てないでしょ?姉妹だったらもっと似てるって!まあ血が繋がってないとこ以外は、姉妹みたいなもんだけど」


 ジュディはロコと顔を近づけて、自分の顔とロコの顔を交互に繰り返し指差した。確かに彼女の言う通り、2人は外見的にも内面的にも全く似ていない。その正反対の性格が、磁石のように2人を引き合わせたのかもしれない。


「もともと私、セルトリアの人間じゃないんです。騎士団に入るために引っ越して来たんですけど、なかなか馴染めなくて。でも、ジュディ姐様は私が騎士団に入った頃から、ずっと良くしてくれて。だから、私にとってはお姐様なんです」


 身の上話をするロコは、少し恥ずかしそうにしていた。彼女もまた、黒魔術士(グリゴリ)騎士団に救われた人間のひとりなのだろう。


「意外と良い所あるんだな、ジュディ」


「意外って何よ。ひと言余計なんだよ。少なくとも、アンタよりは良い所あるし!」


「へぇ〜そうなのか。たとえばどんな良い所があんだよ?」


「どんなって……アンタより優しいし、懐が広い!」


「ホントかよ?」


「なんか文句あんのかよ?新人」


 ベルとジュディを喋らせておけば、すぐに喧嘩に発展しそうになる。2人は似た者同士。そばにいれば反発し合うもの。


「まあまあ……お2人とも」


 今にも取っ組み合いの喧嘩が始まろうとしている2人の間に、ロコが割って入る。


 ジュディとロコは、本当に真逆の人間だった。ジュディに欠けたものを、ロコが補っている。ジュディが傲慢な分、ロコは謙虚だった。姉は好き勝手に、想いのまま行動するが、妹は周りへの配慮を忘れない。


 それはまるで、1本のバラ。ジュディは鋭いトゲで、ロコは柔らかな花弁。2人揃って、初めて完璧な存在となる。

 そんな2人の黒魔術士(グリゴリ)は、これからベルたちにどんな影響を及ぼすのだろうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ロコとジュディについてちょこっとだけ掘り下げてみました。個性的な2人に、リリは振り回されてばかり笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ