第84話「花と棘」(1)
無事に再会を果たしたベルたち。3人はジュディに連れられて、ロコのいる家に帰っていた。
改稿(2020/10/10)
それから程なくして、ベルたちはロコのいる家に戻っていた。玄関にたどり着いた瞬間、ベルは電池の切れたロボットのように、倒れてしまった。溜まっていた疲労が限界を超えたのだろう。
ベルは不眠不休でベンジャミンと戦い、アローシャと試練を乗り越えた。加えて、多くの出会いもあった。目まぐるしく移り変わる状況も、ようやくひと段落した。ベルは安心したかのように、爆睡したのだった。
爆睡しているベルをジュディは乱暴に引きずって、ソファーの上に寝かせた。ジュディはなぜか自分のソファーではなく、ロコのモフモフのソファーの上にベルを運んだ。
「あらら、ファウストさんはどうされたんでしょう……」
乱暴に扱われても一向に眼を覚ます気配のないベルを見て、ロコは心配そうに苦笑いしていた。
「知るか!他人ン家着いた瞬間寝やがって、起きたらタダじゃおかないわ」
物腰の柔らかいロコに対し、ジュディはベルにトゲトゲしい態度を取り続けている。そんなジュディの性格は、部屋の内装に表れていた。パリッとしていて、トゲトゲしい。それとは反対に、ロコが選んだ内装からは、ふわふわとした印象を受ける。
「……カッコいい」
「何か言った?」
「いえ、なんでもありません!」
ジュディに話しかけられたリリは、恥ずかしそうにしていた。周りに一切影響されることなく自分を貫くジュディと、そのファッションを見て、リリは思わず声を漏らした。ジュディはリリの憧れる女性だった。
「あの……私全然状況が理解出来てないんですけど、一体ベルに何があったんですか?」
リリとアレンは騎士団に匿われているのだが、詳しい事情は一切知らされていなかった。リリが知っているのは、ジュディとロコが騎士団員であり、ベルが無事だったということのみ。
「知らねぇよ」
「ブラック・サーティーンであるファウストさんは、騎士団にとって貴重なヒューマン・リソースなので、騎士団に所属することになりました。ここに来るまでは、悪魔の力をコントロールするために特訓されていたみたいです」
素っ気ないジュディの代わりに、ロコが事情を説明した。彼女はただのドジっ子ではない。
「へ〜コイツ、ブラック・サーティーンだったんだ。ちょっとナメてたかも」
「お姐様もディッセンバー隊長から聞いたじゃないですか〜」
「え〜そうだっけ?忘れちゃった」
「なんか、私の知らない間に色々あったんですね……でも取り敢えずベルが無事で良かった」
リリが知らない間に、ベルには想像もつかないほど様々な変化が起きていた。
「お嬢ちゃん、もしかしてこの男のこと好き?」
唐突に、ジュディはリリに顔を近づけた。
「はい?え?それは、ええと、人間として!友達としてと言うことですよね⁉︎」
予想だにしない質問をぶつけられたリリの顔は、一瞬にして真っ赤に染まる。取り乱した彼女は慌てふためいていた。何かしらベルに特別な想いを抱いているのが、バレバレだ。
「好きなんだ〜。ウチが寝取っちゃおうかな〜」
「えぇぇぇ⁉︎本気、ですか?」
ジュディの発言が、リリには信じられなかった。何と大胆な女性なのだろうか。
「よく見てみるとイイ男じゃん、コイツ。ウチは全然アリだわ」
ジュディは寝ているベルの顔とリリを、交互に見比べてニヤニヤしている。
「……………」
あまりにも大胆なジュディを前に、リリは黙り込んでしまった。心の叫びは口を出ることはなく、リリはただもじもじしているだけだった。
「よし‼︎ロコ、2人で襲うか!」
「えぇぇぇぇぇっ⁉︎」
またもや、ジュディの口からリリの予想だにしない言葉が飛び出した。もうリリの頭はパンク寸前だ。
「じょ、じょ、冗談ですよねお姐様……お姐様?」
ロコは頰を赤く染めて、たじろいでいる。常識的なロコの反応を見て、リリは一安心する。もしもロコまでもがジュディのように大胆な性格だったら、この先はとんでもない展開になっていたはずだ。
「ったくロコはつまんないね。ウチは結構本気だったんだけど」
リリは信じたくなかったが、どうやらこの女は本気でベルの寝込みを襲おうとしていたようだ。
「お姐様、小さい男の子の前でする話じゃないですよぉ」
「そのうち勉強することになるんだから、それがちょっと早くなったって思えばいいじゃん」
「お姐様……」
ロコの言う通り、ここにはアレンがいる。彼女たちはアレンの目の前で、実に破廉恥な会話を繰り広げていた。その間も、ロコの顔は赤く染まったままだった。
「?」
一方のアレンは、さっきまで繰り広げられていた会話の内容を全く理解していなかった様子。なぜロコが顔を真っ赤にしているかも分からず、アレンはポカンとしている。
「そ、そそそうですよ!もう冗談キツいな〜あはは」
「だから冗談じゃないってば……まあいいわ。揃いも揃ってつまんないね。リリちゃんだっけ、そんなんじゃ誰かに取られるよ」
ジュディは残念そうにしている。どうやら、ジュディは至って本気だったようだ。ジュディは、リリとロコの想像を超えるほど大胆な女性だった。
「取られるって……?」
リリは頭が真っ白になっていた。思い返せば、一緒に逃亡するようになってから、ベルにはいつも美しい女性がそばにいた。特にエミリア。リリは彼女が、ベルに少なからず好意を寄せていたことを理解していた。それに今だって、ベルの周りには美しい女性たちがいる。
世間を知らないベルが、誰かのものになってしまう可能性は十分にあった。リリが子どもなだけで、実はベルはリリより遥かに大人な体験をしているのかもしれない。彼女の想像は膨らみ続けていた。
「本当に好きなら、しっかり捕まえて離さないこと‼︎分かった?」
「べ、べべ別に好きなんて言ってません‼︎」
恋のアドバイスをするジュディに対し、リリは再び顔を真っ赤に染めた。まるでリリがベルに恋をしているかのような話になっているが、彼女は1度もそれを認めてはいない。
「ふ〜ん…じゃあ襲っても問題ないよね?」
「ももももも、問題ですっ‼︎」
リリは、今にも壊れそうになっていた。彼女は完全に、ジュディに振り回されていた。ジュディはリリを弄んでいる。
「……ん?」
あまりにも周りが騒がしかったため、ベルの意識は覚醒し始めていた。深い眠りに落ちた人間の意識を呼び戻すほど、3人の声は大きかった。その中でも、特にリリの声が大きかった。
「べ、べべベル⁉︎」
「お?何だ?」
すっかり目を覚ましてしまったベルは、慌てふためくリリの様子を見て、首を傾げた。今まで死んだように眠っていたベルには、さっきまで繰り広げられていた破廉恥な会話を知る由もない。
「フフ……」
ベルとリリの様子を見ていると、ジュディは笑いを堪えられなかった。ジュディは精一杯笑いを我慢していたが、どうしたって口許が弛んでしまう。
「ベル‼︎一体何があったの?」
「何があったって……何が?」
「何がって…エリクセスに着いてから今までどうしてたのってこと!」
「あ、あぁ……」
どんどん大きくなって行く恥ずかしさを紛らわすため、リリは無理矢理話題を変えることにした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
悪戯なジュディに、リリはたじたじ。ベルたちが出会う新たな仲間たちは、皆強烈な個性を持っています笑




