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第82話「魔法奴隷と女騎士」(1)【挿絵あり】

ベルがアーチェス教会を訪れる前、教会の扉を叩く謎の人物がいた。


改稿(2020/10/08)

Episode 4 : Gligoli Sisters/グリゴリ・シスターズ


 ベルが訪れる半日前のアーチェス教会。いつもと変わらない平凡な日常。昼間のアーチェス教会 の礼拝堂(チャペル)では、アーチェス魔導学院の授業が行われていた。


 ドンドンドンドン‼︎


 そんな平凡な日常を壊すかのように、誰かが教会の扉をもの凄い勢いで叩き始める。

 扉を立ていている者の様子は明らかにおかしい。扉を必死に叩くのは、10代の少年。ベルよりも少し幼く見えるその少年は、ボロボロの衣服を身に纏い、身体中が汚れている。一体この少年に何があったと言うのだろうか。彼は力の限り教会の扉を叩き続ける。


「誰だ⁉︎」


 少年が数分間扉を叩き続けた後、ようやく扉を開いたのは、ナイトだった。最初は怪訝な表情をしていたナイトだったが、少年の姿を見た途端、慈しみがその瞳に浮かんだ。


「助けて………」


 少年は、ひとことそう言った。彼が助けを求めていることは、その言葉がなくてもナイトには分かっていた。


「どうしたんだい?」


 ナイトはアーチェス魔導学院の授業を中断して、少年の話を聞くことにした。アーチェス教会に集まっていた生徒たちは、次々と文句を言いながら外に出て行った。

 憔悴しきったこの少年は、しばらく身体を震わせて、まともに口を利くことが出来なかった。


 しばらくすると、少年はようやく自らについて語り始めた。


 彼の名はノーイ・ゾイダス。魔法奴隷だ。魔法奴隷とは、簡単な黒魔術(グリモア)を使うことの出来る奴隷のこと。生活もままならない貧困層の黒魔術士(グリゴリ)は、富裕層の元で奴隷として働くことが少なからずある。


挿絵(By みてみん)


 ノーイもそんな魔法奴隷の1人。奴隷となる黒魔術士(グリゴリ)は大した黒魔術(グリモア)を使うことは出来ない。ノーイも例外ではなかった。そのため、奴隷生活に嫌気がさしても、簡単にそこから抜け出すことは出来ない。魔法奴隷を買うような富裕層はほとんどの場合、用心棒として腕の立つ黒魔術士(グリゴリ)を傍に置いている。逃げ出そうとして抵抗しても、制圧されて捕まるのがオチだった。


 ノーイ・ゾイダスは、主人から逃げ出してここに来た。主人の仕打ちがあまりにも酷かったのだろう。来る日も来る日も酷い扱いしか受けてこなかったノーイは、このままでは死んでしまうと思い、ついに主人の元から逃げ出したのだ。


「それにしても、君はよく逃げて来れたね」


 ナイトは、ノーイの話を聞いて関心していた。ノーイは、どこからどう見ても普通の少年。聞いた話によると、獣化(キメラ)黒魔術(グリモア)しか使えないらしい。それも猿人の片腕を得ると言う黒魔術(グリモア)。それは比較的簡単な魔法だった。


「それが…………僕にも分からないんです」


 ノーイは自ら主人の元を逃げ出して来たと言うのに、なぜ逃げ出すことが出来たのかが分からないようだ。


「ところで、君はどうしてアーチェス教会に来たんだい?」


「それは………僕、強くなりたいんです。もうボロ雑巾みたいにこき使われるのは嫌だ‼︎だから、だから僕はアーチェスの学生になりたいんです‼︎」


 ノーイは俯き、感情を爆発させた。彼がアーチェス教会を訪れた理由、それはただひとつだった。強くなって、2度と魔法奴隷には戻らない。それが彼の強い意思。


「そうか……分かった。君はきっと強い黒魔術士(グリゴリ)になれる。さっそく新しい力を身につけようか」


 ナイトは、ノーイのその強い意思に感銘を受けた。明確な意思を掲げている者には、明るい未来が待っている。


「でも……」


「大丈夫。契約に必要なオーブは用意してある。君には特別にこのオーブをあげるよ。今まで大変だったね」


 ノーイが戸惑っていると、ナイトが徐に1本の瓶を差し出した。それはペットボトルほどの大きさの瓶で、中には複数の光る球体が浮遊している。ナイトの話からするに、その中に入っているものはオーブなのだろう。


「いいんですか?」


「もちろん。だけど、そのオーブで得られる黒魔術(グリモア)は限られてるよ。召喚(サモン)獣化(キメラ)。申し訳ないけどこのくらいしか契約出来ない」


 ナイトは申し訳なさそうにそう言った。瓶の中には少なくとも5つ以上の魂が入っているようだが、それでも手に入るのは下級の黒魔術(グリモア)のみ。この事実から、超化(バイス)など、中級以上の黒魔術(グリモア)を得るのがいかに大変かが分かる。


「ありがとうございます‼︎じゃあ僕は召喚(サモン)がいいです!」


「よし!ちょっと安心したよ。召喚(サモン)は悪魔じゃなくて、魔獣を呼び寄せれば済むから。悪魔と対面するのって何だか疲れちゃうんだよね」


 ナイトは包み隠さず本音を口にした。そんな裏表のないナイトの態度が、ノーイを安心させる。ノーイの主人とは違い、ナイトは自分を対等な人間として扱ってくれる。ノーイは涙が堪えられなくなっていた。


「ぐすん……」


「大丈夫かい?別に契約は今すぐにじゃなくても良いんだよ?」


「大丈夫です…………」


 心配したナイトが顔を覗き込んで声を掛けたその時、ノーイにとある変化が起こる。


「うっ⁉︎」


 突如として、アーチェス教会の礼拝堂(チャペル)が眩いばかりの光に包み込まれた。


「どうしたんだい、ノーイ君‼︎」


 ナイトが目を開けた時、ノーイはうつ伏せの状態で倒れていた。この一瞬で一体何が起こったと言うのだろうか。多少は黒魔術(グリモア)に精通しているナイトでも、今起きていることを理解する事は出来なかった。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 ちょうどその時、アムニス砂漠のどこかに存在する星屑の泉でも異変が起きていた。まるでノーイと共鳴するかのように、謎の老人ブルーセが地面に倒れ込んだ。それも、ノーイと全く同じうつ伏せの状態で。一体ノーイとブルーセに、何が起きたと言うのだろうか。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 その時、ノーイは意識の中をさまよっていた。そこに広がるのは果てしない砂漠。夢でも見ているのだろうか。ノーイは生まれてから1度も砂漠を訪れたことはなかった。人生で一度も見たことのない光景が、辺りに広がっている。


 目を凝らして見ると、その先には緑の生い茂ったオアシスがあった。星屑の泉だ。なぜノーイと言うごく普通の少年の意識に、星屑の泉が現れたのだろうか。彼に星屑の泉を知り得る術はなかったはずだ。


 気づくと、ノーイはそのオアシスの中にいた。彼が立つのは、1年前にベルが訪れたのと全く同じ場所だった。透き通った美しい青の泉があり、そのすぐ近くに奇妙な格好の老人が佇んでいる。彼の頭からはヤギのようなツノが生えている。


「おぉ、よく来たな」


 その老人の視線は長い眉毛で覆い隠されていて分からないが、ノーイの存在に気づいている。老人は、まるで彼が来ることをずっと前から知っていたかのように、話しかけた。


「ここはどこ?あなたは……誰?」


 突然の出来事にノーイは目を丸くするばかりだった。突然現れたオアシスに、突然現れた謎の老人。ノーイの頭はすでにパンク状態。


「ここは星屑の泉。わしはブルーセ。お前さんの意識の中に、お邪魔させてもらっとるんじゃ」


 ブルーセはベルと会った時とは違い、すらすらと分かりやすく話している。なぜブルーセは、わざわざ何の変哲も無い少年の意識の中に現れたのだろうか。


「僕の意識の中?」


「あぁそうじゃ。お前さんの意識の中に入り込んどる。お前さんと1度、顔を合わせたかったんじゃ」


 ノーイは一向に状況が掴めないままだが、ブルーセは淡々と話を続ける。なぜだか、ブルーセの表情はどこか晴れ晴れとしていた。


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「な……ぜ?」


 そう口にしたノーイの前には、すでにブルーセの姿はなかった。意識の奥深くに潜っていたノーイは一瞬にして目を覚ました。目を覚ましたノーイはうつ伏せのまま、床に口をつけた状態で喋っている。


「なぜって、僕が聞きたいよ。一体どうしたんだい?」


 心配そうにずっとノーイを見ていたナイトは、彼が目を覚まして安心している。この一瞬のうちに何が起きたのだろうか。


「え?」


 目を覚ましたノーイは、ようやく自分がもう星屑の泉にはいないことを知る。彼には、ブルーセに聞きたいことが山ほどあった。


 ブルーセと言う老人は、たった一瞬ノーイの意識に現れただけだが、その印象は彼の中に強烈に焼き付いていた。彼と出会った場所、彼の姿、そして彼が言った言葉。そのすべてが、ノーイの頭に焼き付いて離れない。


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 そして現在。扉の試練を終えてアローシャの力を手にしたベルは、なぜかブルーセのことを考えていた。その理由は全く分からないが、ベルは突然ブルーセという男を思い出していた。ノーイの時のようにベルが意識の中でブルーセと相見えることはなかったが、一定時間ブルーセの顔が浮かんで消えなかった。


 ベルはなぜブルーセを思い出しているのか、自分でも分からずにいる。この現象には何か意味があるのか。


「ナイトさん。そろそろ、俺を待ってる奴らを探しに行かないと……ずっと心配だったんです」


 脳裏から消えないブルーセの顔を振り払うように顔を振ったベルは、すぐにリリとアレンのことに考えを移した。エリクセスに着いてからと言うもの、リリとアレンとずっと離れ離れになっている。一刻も早く2人の無事を確認しなければいけないし、ベルを取り巻く環境が大きく変わったことも報告しなければならない。


「あぁ、そうだったね。心配しなくても大丈夫だよ。その待ってる人って言うのは、リリ・ウォレスさんとアレン・レヴィ君のことだよね?」


「え⁉︎何で知ってるんですか?」


「騎士団の情報網を舐めてもらっちゃ困る。君とアイザックがここにいる頃、僕は2人を探していたんだよ。君に余計な心配をして欲しくなかったからね」


 ベルがリリとアレンの安否を心配する必要など、どこにもなかったのだ。結果として、月衛隊(ルナ・ガード)に追われていた時の選択は間違っていなかったのだ。


「でも、今アイツらどこにいるんですか?」


「それも心配いらない。2人は騎士団員の家にいるから安全だよ」


「良かった……」


 ベルは安心して胸を撫で下ろす。


「僕はちょっと急ぎの用があるから、本部に行って来る。これ、2人の居場所が書いてある地図だよ。これを見ながら、ちょっと待ってて」


 折りたたまれた地図を渡すと、ナイトはそそくさと教会を去ってしまった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ノーイ・ゾイダス。彼とブルーセにはどんな関係があるのか。そして、ベルとブルーセの関係は…(ノーイとブルーセの関係が語られるのはまだまだ先です笑)

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