表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/388

第79話「扉」(2)

「あれ?俺は一体……」


 アローシャが引っ込み、ベルが意識を取り戻した。今回もベルは扉の外の様子が見えていなかったようだが、アローシャが目醒めたことは何となく分かっている。


「アローシャが出て来てくれたおかげで、良いことが分かった。取り敢えず、お前は本物の悪魔と戦う必要はねえよ」


 アイザックは満面の笑みを浮かべながら、サングラスを再び掛けた。


「⁇それ、どういうことだよ?」


 ベルは唖然とするばかり。アローシャに意識を奪われた時、これまでは必ず誰かが傷つけられて来た。だが今回は違う。目の前にいるアイザックには、傷一つない。


「全てはナイトが解決してくれるはずだ。ちょっとそこに座って待ってろ」


 アイザックはそそくさとアーチェス教会を去ってしまった。現在発生している状況が一切理解出来ていないベルは、しばらくそのままフリーズする。


 アイザックの居なくなった礼拝堂(チャペル)は急に静かになった。

 お喋りマシンガンが去った後、音を発するものは何も無い。これまでと違う出来事の連続に思考停止したベルは、30分近く固まったままだった。


「………………」


 しばらくして動き始めたベルは、近くの椅子に腰掛け、目の前に広がるステンドグラスを眺めた。


 すでに陽が昇り始めたようで、アーチェス教会のステンドグラスは、より一層輝きを増している。壁面を埋め尽くすステンドグラスは朝日の光を全身に浴びて、ベルの顔を美しく照らす。身体は疲れ切っているはずなのに、ベルは全く眠気を感じていなかった。


「綺麗だ…………」


 そう言えば、リリとアレンはどうしているのだろうか。そんなことをベルは思っていた。2人と離れ離れになって、もう随分と時間が過ぎた気がする。あれからベルは1度死の危険を味わった。生を感じられないあの時間は、とても長く感じられた。

 早く2人に会って無事を伝えたいが、まだアイザックが帰してくれそうにない。それに、2人とは真夜中に(はぐ)れた。か弱い女の子と小さな少年を、たった2人で大都会の中心に置き去りにしてしまった。ベルはそのことを強く後悔していた。彼らはちゃんと元気にしているのだろうか。


 ベルがそんな考えで頭をいっぱいにしていると、すぐにアイザックがナイトを連れて戻って来た。連れられて来たナイトは、心なしか不機嫌そうな表情をしている。仮眠しているところを起こされでもしたのだろうか。


「で、さっきの続き。何でナイトさんがいればアローシャの力を制御出来るんだ?」


「ナイトは夢の世界を支配する幻想(レグロ)“ドリーマー”の使い手。これを利用するんだよ!」


「それが、アローシャの力の制御とどう関係してるんだよ?」


「お前の中には、不完全な鬼宿の扉が存在する。偽物の扉がな。そして、その扉は不定期にわずかに開く」


「………………」


 身体の自由を奪われたり、奪われなかったりする理由はそこにあった。長年の疑問が解決したはずのベルだったが、表情は全然晴れやかではない。


「だから、次に扉が開くそのタイミングを狙ってアローシャがお前の意識を奪う。そうすれば準備完了だ」


「は?何でそうなるんだよ‼︎大体何で黙ってアローシャに身体を奪われなきゃならないんだよ‼︎」


 これまで悪魔に身体の自由を奪われることをずっと恐れて来たベル。何が悲しくて、自ら進んで身体を明け渡さなければならないのか。


「まあ落ち着けって。そのタイミングで、ナイトがお前とアローシャを夢の世界へ送る。そっからは、ナイトが説明してくれるだろ」


「君の中の鬼宿の扉は、不規則なタイミングで開く。今回のトレーニングは、その扉が開いていることが極めて重要なんだ。扉が開いているその時だけ、君とアローシャを同時に夢の世界に送ることが出来る。アローシャが君の意識を奪う必要はないかもしれないけど、念のために出て来てもらう。すまないけど僕を信じてくれ」


 ナイトは、一方的にトレーニング・プランを押し付けるアイザックとは違う。


「つーワケで、アローシャが出て来るまでお前は黙って座ってろ」


 それから、アイザックはベルの隣に座り込んだ。


「…………近くね?」


「悪いか?」


「………あぁ、悪い」


 アイザックは必要以上にベルに近づいて座っており、ベルはそれに不快感を覚えている。


「⁉︎」


 すると次の瞬間、アイザックがさらに距離を詰めて、ベルと肩を組んだ。


「いや〜良いね〜弟子っつーのは‼︎何でもっと早く弟子作らなかったんだろうな!段々お前が可愛く見えて来た!その左右で違う目もイカしてるじゃないの!」


 アイザックは間近でベルの顔を凝視している。アイザックは、人との距離の詰め方が変わっていた。まだベルとアイザックは出会ったばかり。それなのに、何十年も付き合いのある友達のようだ。アイザックと出会ったすべての者は、この独特なペースに巻き込まれてしまうのだろう。


「何すんだ気持ち悪りぃ!離せよっ!」


 ベルは反射的にアイザックの腕を振り払おうとする。今まで出会った人物の中で、アイザックは肉体的にも心理的にも、1番急接近して来た人物だ。


 パーソナルスペースに土足で踏み込んで来るアイザックに対し、ベルはある種の拒絶反応を示した。全身でアイザックを拒絶しているのだが、ベルは心のどこかで少なからず喜びを感じていた。この男とは、仲良くなれそうな気がしているのだ。


「アイザック。アローシャが表に出てくるまで待つんだよね?」


「あぁ、そうだけど?」


「それっていつになるか分からないんだよね?」


「あぁ、そうだけど?」


 アイザックはわざとらしく、同じ言葉で受け答えしている。また、彼のおふざけタイムが始まったようだ。


「これ以上ふざけたら怒るよ、アイザック。僕の眠りを妨げた罪は重いよ?」


 ナイトは、珍しくアイザックのおふざけに苛立ちを禁じ得なかった。やはり、彼はアイザックに眠りを妨げられていたようだ。

 騎士団を統括するM-12のトップに立つナイト。ただでさえ忙しいはずの彼は、真夜中まで働いている。当然眠りたいはずだ。


「お前だってベルの教育係だろ?ソイツの師匠が俺なんだ。それに、俺は元々こういう人間。今さら変わることなんて出来ねーよ」


「…………僕の負けだ」


 ナイトはこれ以上、アイザックに反発することを諦めた。これ以上アイザックに構っていても、ストレスが増えるばかり。全てを諦めたナイトはアイザックの隣に座って、アローシャの出現を待った。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 十数分経過し、ナイトの瞼も重くなり始めた時。ベルが突然俯き、いつもとは違う表情で再び顔を上げた。ようやく扉が開き、アローシャが表に出てきたのだ。


「今扉は開いている。どうするつもりか知らんが、やるなら今だ」


 アローシャはベルの口を借りて、ナイトとアイザックに合図を出した。アイザックとナイトがベルに作戦を話している間は扉が完全に閉ざされていたため、アローシャは彼らの作戦を知らない。


「それじゃあ始めようか」


 ナイトは立ち上がって、ベル=アローシャの目前に立つ。


 そして目の前に立ったナイトに、アローシャが目を合わせる。しばらく悪魔と見つめ合ったナイトは無言のまま、ベル=アローシャの頭を右手で掴んだ。ナイトはベルの目を覆い隠すように、頭を掴んでいた。


「眠れ!」


 その言葉と共にナイトが右手に力を込めると、突然ベルの身体の力が抜けて、ガクリと肩を落とす。その瞳は閉ざされていて、ナイトの言葉の通り眠りに落ちてしまったようだ。


 次にナイトはアイザックも同様に眠らせ、終いには自らも眠りについた。礼拝堂(チャペル)にいる全員が眠りにつき、夢の世界へと飛ばされた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


夢の世界に飛ばされたベルには、一体どんな試練が待ち受けているのか⁉︎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ