第五話
「最近顔立ちが優しくなったね?お肌もつるつるだし。」
裕貴はそんなことを彼女のめぐみに言われてドキっとしました。
姉・美樹を亡くし、悲しみにくれている義兄・孝のために、美樹を装い通い妻の様な生活をするようになって2年が経ちました。
最初はメイクだけ。それが、美樹の洋服を着るようになり、下着まで着けて、言葉も女言葉で、週末は孝のマンションで妻として孝の身の回りの世話をして過ごすようになった裕貴も最後の一線だけは越えないようにしていました。
それも彼女のめぐみの存在があったからでした。
男としての尊厳みたいなものをわずかに残せていたのかもしれません。
しかし、だんだん受身でいる「ゆうこ」としての生活が浸透し始め、めぐみとの間にも少しギャップが生まれてくるようになってきました。
そのことをめぐみにつっこまれ、裕貴はつまらない言い訳をしますが、めぐみは追い討ちをかけるかのように何度も鋭い突っ込みを入れてきます。
「そういえば、日曜日に裕貴のおうちに行くことって今までなかったよね?今度行ってもいい?」
と、めぐみが言ってきました。
裕貴が土日に孝との時間を作るためにめぐみとは会わないようにしていたことに対して明らかに不審に思っているのがわかります。
(たとえうちに来るとしても実家のほうなら問題ないし、いつも孝さんと一緒っていうのも傍からみたら変だよね!)
裕貴はそう考え、簡単にめぐみの誘いをOkしました。
そして、土曜日
「で、彼女が来るから実家に帰るんだ。このオレには君の身体を拒み続けて・・・。彼女とはしちゃうんだ!」
怒って自分勝手な言い分でそう言う孝に裕貴は
「無理言わないで・・。そもそも、ここまでこうなっちゃったのもどうかと思っていた矢先のことなんだもん。それに私はあなたとは結婚できないわけだし・・。これから自分の人生についても考えなくちゃいけないし・・・。」
裕貴がそういい終えると、孝は裕貴を後ろから抱きしめ
「最近ゆうこ冷たいよな?またオレを一人にしないでくれよ・・」
といいながら少しだけ膨らみかけている裕貴の胸を揉みながらそう言いました。
裕貴は最近女性ホルモンの強い植物性サプリメントを毎日服用していました。
そのせいかAカップくらいに胸は膨らみ始め、めぐみの痛い視線を感じ始めている最近でした。
孝の最後の一言「また・・・・」は今回初めて言われた言葉ではなく、「なんとか孝の傍に居てあげなくちゃ・・」と裕貴にそんな思いに至らせるのでした。
落ち込んでいる孝をなんとかふりきり、実家に向かいながらケータイを取り出す裕貴はいつも通り悩み事を相談するお相手に電話し始めました。
「もしもし?ゆうこ?どした?」
電話に出たのは亜紀でした。
裕貴がこんなとき悩み事を相談できる相手はいつも亜紀でした。
それは女性としてよりも男性の立場からアドバイスしてくれるものでした。
亜紀は裕貴にとってまさに本当の意味での異性でした。
そして的確なアドバイスに癒され、ますます亜紀に頼り勝ちになってしまう裕貴でした。
「そっか〜。でも、兄貴のことばっかりじゃゆうこもだめになっちゃうから、それでよかったんじゃない?・・けどね」
「・・けどなんなの?」
亜紀の前では女言葉になってしまう裕貴がその先の言葉を尋ねると
「ゆうこにとって純女の彼女がふさわしいとは思えないな〜!なんて思っちゃったりして・・・。」
「どういう意味?」
更に聞く裕貴に亜紀は
「やっぱりゆうこには男の人がふさわしいってこと。でも、純男じゃゆうこには重いのかもね・・・。」
「・・・どういう意味よぉ?」
亜紀はそういう裕貴に察してほしそうな顔をして自分の顔を自分の指でさしました。
「亜紀が私の彼氏?!にふさわしい・・・ってこと?」
しばらく間をおいて、裕貴が答えました。
すると、亜紀はにっこり笑って首を縦に振りました。
なんともさわやかな愛の告白に裕貴もただただ笑っていました。
(亜紀は僕にとっても大切な人。でも、彼女じゃなくて彼氏になってくれるなんて・・・。)
「ゆうこがうじうじしているのなら、私が彼女さんにゆうこのほんとの姿をばらしてもいいんだけどな〜!・・・ハハハ冗談冗談」
「亜紀のばか・・」
裕貴はそういいながらも亜紀の自分に対する愛情を真正面が受け止めたいと考えるようになっていました。
亜紀は裕貴にない男らしい決断力・行動力のようなものを持っていました。また、裕貴は亜紀には足りない女らしさや身を呈して支えてあげる行動を持っていました。
二人が付き合うようになれば、結婚も可能になり、相性もぴったりの恋人になれるのでしたが、亜紀の実兄の孝とは対立することになってしまいます。
亜紀はそれを避けるべく、本心をわざと隠しながらも裕貴に近づいていくのでした。
(ゆうこを私のお嫁さんにしたい!)