第三話
「こんなことお願いしてよかったのか?」
晴れの日の穏やかな日曜日に孝が裕貴に対して言いました。
「平気だよ。孝さんの落ち込んだ姿見ているのも辛いし、僕に出来ることってこれくらいだから・・」
裕貴は姉の洋服を借りてお化粧をし、姉とそっくりな容姿を生かして孝を励ましてあげようと考えて女装して一日デートをする約束をしていました。
そして、今日日曜日がその日。両親が揃って外出している隙に、二人は孝の車でドライブに出掛けたのでした。
裕貴の眩いばかりの女性らしさは孝にとって見ているだけで最高の慰めとなりました。
そればかりか献身的な裕貴の行動や言葉が生前の愛妻・美樹のことを思い起こさせ、一日の終わりの方には裕貴のことを自然と美樹と呼んでしまうほどでした。
裕貴の方もそんな孝に合わせて恥ずかしくも女言葉で会話をし、亡き姉になりきるように振る舞うことで孝が笑顔になっていくことに嬉しさを覚えていました。
でもそれは、義兄が姉のことを愛してくれていることを弟の立場で自然と喜んでいるのとは少し違うものとも感じていました。
尊敬の眼差しでみていた優しい義兄に自分も姉と同じように女として愛されていることに心から歓びを感じていることに気付き始める裕貴は、半面踏み入れてはいけない領域を感じて戸惑うのでした。
「美樹?どうした?急に元気なくなって・・。あ!ごめん。俺が『美樹美樹』って呼んでいたことって嫌だった?」
「ううん、ちがうの。そんなんじゃなくて・・。ただ、・・・こんなふうにしていていいのかな?って想い始めちゃって・・。だって、私は・・いえ僕は男なんですから!」
涙が出そうになりながらもそう訴える裕貴は混乱していた。
女として孝にその存在を喜ばれる嬉しさのほうが男なのに女として振舞うことの不安よりも明らかに大きいと感じていたのです。
夕方になり、そろそろ家に帰ろうと孝が言い出した時、裕貴は思わず言ってしまいました。
「お姉ちゃんの代わりでもいいの。ただ、こうして孝さんに笑顔でいてほしい。だから、私少しの間は美樹でいてあげる。もちろん、あなたがそうしてほしいのならだけど・・」
「美樹・・」
二人はどちらからともなく自然と唇を重ね合わせていました。
前にキスしたときとは違う求め合うキス。
裕貴は女として男性を受け入れる初めてのキスを素敵なものと感じていました。
孝の舌が裕貴の舌に絡みついてくる男性的なキスなのに対して、裕貴のキスはそんな孝の舌を受け入れ、吸い、流れに身を任せるような動きをする女性のキスなのでした。




