第一話
昨夜のお通夜から降り続いた雨は午後になって上がって、3月の春の暖かな日差しが高橋家のリビングに注がれてきました。
新婚早々の新妻の死はたくさんの弔問客が生前の彼女の親しみやすかった性格と交友の広さを表していました。
昨夜のお通夜から降り続いた雨は午後になって上がって、3月の春の暖かな日差しが高橋家のリビングに注がれてきました。
新婚早々の新妻の死はたくさんの弔問客が生前の彼女の親しみやすかった性格と交友の広さを表していました。
火葬場から家に戻ると張り詰めていた緊張感が程なく緩み、ソファーにもたれかかるように座り込んでしまった父・雄二は母・葵から差し出された熱いお茶の入った湯呑みに一瞬のやすらぎと、今は亡き娘・美樹を偲ぶゆとりもなかったこの数日間を振り返ってため息をつきました。
「孝君もこの数日はほとんど寝てないんだろ。今日はうちでゆっくりしていきなさい。」
雄二からそう言われた美樹の夫・孝は義父からの気遣いに応え、二階にある独身時代の美樹の部屋をそのまま使っていた義弟・裕貴の部屋で休むことにしました。
結婚して1ヶ月しか経っていないせいか、姉・美樹の使っていた部屋の使用を殆ど変えずに自分の部屋として使っていた裕貴は仲の良い義兄・孝に自分の部屋で休んでもらう為に一緒に二階へと上っていきました。
ピンクや水色など淡い色使いの多い姉の元部屋を裕貴は好んでそのままにしていました。
そんな裕貴の部屋の使い方に孝も何かを感じ、結婚してから何度かその裕貴の部屋へと足を運んでいました。
実の兄弟のように仲の良い孝と裕貴。
部屋に入るとそれまで我慢していた涙を流し始める裕貴を優しく両腕で抱きかかえて自分へと向き直させ、裕貴より10cmは身長の高い孝は自分の胸に義弟の顔を抱くような形で慰めていました。
柔らかい髪質を肩の辺りまで伸ばしていた裕貴が孝に抱かれて泣いている姿は遠めからみれば、亡くなった美樹が孝と抱き合っているかのように見えました。
そして孝自身もその錯覚に戸惑い、その裕貴に対して特別な感情を抱いてしまうのでした。
裕貴は男性にしてはやや小さめの167cmの身長と62kgの細身の体つきで、女性にしては大柄な美樹の体格とそっくりでした。
それ故に二人はTシャツやトレーナーなどユニセックスな洋服を着回していたほどに仲がよく、また綺麗な容姿も程よく似ていました。
孝がそんな裕貴と仲良くなるのは必然で、ともすれば男女間によくある考え方の違いが少ない弟の裕貴のほうが一緒に居てラクに感じられるほどでした。
そして、優しくしてくれる義兄の存在は裕貴にとって自分にはない男らしさみたいなものへの憧れでした。