第八話 やっぱり、怖い人の前だと緊張して思う様に喋れない
「……ねれない」
さっきまでずっと寝ていたからかな……。
とりあえず、姿勢を起こしてボーッとしてみる。
「さっきまでグッスリだったからね」
隣で本を読んでいたリリさんが言ってくる。
……武器の手入れをしてないと思ったら、読書していたんだ。
「……それ、なんの本呼んでるんですか?」
「読む? 武器コレ」
「……武器コレってなんですか……」
「色んな武器の情報が乗ってる雜誌だよ。月刊武器コレクション。略して武器コレ」
「結局武器に熱中してるんですね……!」
リリさんはどこまで武器が好きなんだろう。
「特にね、このエコマチトウっていう剣がいいの! ほら見てッ! 片刃の武器でこの刃紋が綺麗でしょ!? 多分、朝日とかに照らしたらもっと輝くんだろうなぁ……!」
目をキラキラさせている。
……うん、オタクっぽい。
武器オタク。
でも物騒な感じではない。
少なくとも鑑賞として考えてるんだろうな……。
「それに、読んでみると分かるけれど、スパッて岩でもなんでも斬れるんだって!! これで魔物とか現れても一刀両断ッ! とか出来そうじゃない!?」
「物騒な事、考えてたよ!!」
それに、読んでみるとと言われるけれど、僕なんかにはよく分からない文字で書かれてるし、ヒョロヒョロな文字とかグルグルまわってる文字とかあって、解読不能だよ。
外国語の知識があれば別だろうけれど、そんなものないし、英語の勉強もサボって……エービーシーとかしか出来ないし……ってサボり過ぎてた。
「でも、こんなに綺麗なのにランキング外なんだよね……この武器」
「ランキングとかあんの!?」
「あるよ、アンケート結果で月一に決めるんだ」
「よくそんなのに送る人いるね……」
僕の発言にリリさんがムッとした顔をする。
「そんなのって何よ! 私の密かな楽しみなんだけど!」
「ご、ごめん……」
怒られるとは思わなかった……人の趣味を馬鹿にするものじゃないね……やっぱり。
「もう……」
「ごめん」
「そんなに謝らなくていいけど」
……もう怒ってないかな……。
そう思って気になったけれど、僕から話すのはやめておく事にした。
「でね、ランキングで上位なのが――――」
「話続いてた!?」
この話は、僕がいつの間にか眠るまで続いてた。
多分……体感的に二時間くらいだったかな。
そして、目が覚めたのは朝になってからだった。
「……ん……ここは……」
……ってそうだった。
異世界に来てたんだっけ……。
夢の話だったら良かったんだけれど……。
だって、これから面倒な事いっぱい起きそうなんだもの。
「……異世界だから、このまま寝ててもいいかな」
そう考えると異世界に来て良かったと思うけど……。
「あ、起きてる。よく眠れた?」
僕が寝ようかと考えていた所に、リリさんが来る。
今回は兜も鎧しっかりとつけて、フル武装して来たみたいだ。
「……その格好……どうしたんですか」
「これが兵士の服装だし、いいの。それより、着いてきて」
「え、これから二度寝しようかと……」
「駄目でーす! 着いてきて!」
半ば強引に、リリさんに手を引かれる。
……うわー……面倒なの来ちゃったよ……。
「……多分……お城に連れて行かれるのかな」
昨日、リリさんが話していたけれど、怪我が治ったらお城に連れて行くといってた。
それが、今日になったんだろう。
あ、ならさ……。
「イタタッ! あ、足が痛いー!」
と、怪我が治ってないフリをしてみる。
「大丈夫、三十分くらい歩くだけだから」
「イタイイタイ……! だめだー! 歩けそうにないー!」
ようし……!
このまま行けば、城に行かずに二度寝出来るぞ……!
「……どうかしたのか?」
ゾクッと、後ろから嫌な気配がする……というより、オーラが見える。
壊れかけの人形みたいに首をギギッと回してみると、そこにいたのは……。
褐色の肌に、筋骨隆々の体……金色のショート髪をして、白の武闘着を身に纏っている。
そして顔からは歴戦の名将と思わせる迫力がある。
「あ、アイちゃん!」
リリさんもそれに気づいたようで、振り返って手を振ってる。
「……あああなたは……は……?」
物凄く動揺しながら、僕はアイさんに質問した。
「……そういえば、名乗っていなかった」
アイさんは胸に手を置き、そしてコクッとお辞儀をする。
「アイ・ストロングと言う。リリとは友達でな」
「よ、よ、よろしくお願いします……! あ、アイ様!」
「所でお前の名前はなんだ? 私は分からないのだが」
腕を組みながら、僕の事について質問してくる。
つか、僕がキョドってる場合じゃないでしょ……!
深呼吸を行って、自己紹介を始めようとした。
「この人はムトウ ススムって言うんだって。ススムって呼んであげて」
「御意」
自己紹介の場面を見事にリリさんにかっさらわれる。
「ちょっと!? 僕の自己紹介なんだけれど!」
「怪我してるから、代わりにやってあげたんじゃない」
「ありがとう! でも、要らない気遣いだった!!」
せっかく、自分でしようとしてたのに……!
そう思っていると、アイ様が質問してきた。
「それで、どうしたのだ? 騒いでいたが」
「あー! それなんだけれどね、アイちゃん、ススムが足痛いって言うから……」
待て待て……!
この流れはもしかして、抱っこしてくれって奴!?
まずいって!!
「だっこ――――」
「あ、あれー!? なんか足がラクになったぞ!? これなら安心して歩けそう!」
「……? 大丈夫? 心配なら、アイちゃんに――――」
「大丈夫だって言ってるでしょ!? アイ様も仕事大変だろうし、無理させちゃいけないって!」
「私なら別に大丈夫だ」
「大丈夫じゃないから! ほら、仕事気をつけて行ってらっしゃいませ!! 僕たちは行くんで!!」
僕は足早に、リリさんの手を掴んで歩き始める。
その様子にリリさんが首を傾げていたみたいだった。