表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界で学ぶ、生きる意味  作者: まっつー
第一章 この世界で生きる難しさ
7/8

第七話 町の様子

 テント生活一日目。

 僕は脱走した。

 急展開ごめんなさい……!

 本当、あの人嫌だ……!


「……安静にしてなさーいッ!」

「い、嫌だッ!!」


 僕は町の中を全力疾走で駆け抜けている。

 今、追いかけてくるのはリリさん……!

 手には真剣をぶん回しながら、コチラに追いかけてきている……!

 ちょ……ぶん回すのはナシでしょぉ!!


「あっ……滑ったッ」


 後ろからフォンッ! という、音が聞こえたと思ったら、目の前に真剣が突き刺さってる。

 ……リリさんは真剣を持っていない……つまり……。


「また……投げてきたァ……!!」


 血の気が引いたのを自覚して、僕は更に走る速度を早めた。

 死ぬ……死ぬ……ッ!


「またドジやっちゃった……じゃなくて、待てぇッ!」

「無理無理無理ッ! 武器をぶん回したり、どっかへ吹っ飛ばす人に見られてたんじゃ、命幾つあっても足りませんッ!」


 さっきも、テントの中であったのだ。

 リリさんは何処から持ってきたのか分からないけれど、剣やオノ、ヤリ等の武器を持ってきて、あろう事かテント内で武器の手入れをし始めていたのだ。

 それだけならまだ分かる。

 大丈夫なんだ。

 でもね……頻繁に武器を落としたり、「滑った」とか言って目の前に真剣が刺さっていたり、挙句には、横腹をカスって服が破けたりしたんだ。

 ……誰があんな所いくかッ!?

 そんなの無理だ無理ッ!!


「待ってよ……! ちょっと……疲れてきちゃった……!」

「嫌ですッ! そのまま倒れて下さいッ!」


 無我夢中で走っていると、後ろからズシャァァアアアッ!! という豪快な音が響いた。

 ……ゆっくりと走る速度をゆるめて、完全に止まった所で振り返る。

 うつ伏せで倒れてる。


「……ヒクッ……」

「……嫌な予感」

「……ヒグッ……グスッ……」


 リリさんが、女の子座りしながら、泣いてる。

 ……うん、泣いてる。


「……」


 僕のせいなの!?

 これって……ねぇ!?


「あ、あのー……」

「うぅ……うっ……」


 リリさんはゆっくり立ち上がって、片手をコチラに伸ばし前かがみになってゆっくり追い掛けてくる。


「ま……でぇ……! おねがい……だがらぁ……!」

「……」


 まるで、幼児が追い掛けてくるみたいで、微笑ましい。

 ……もう片方の手に真剣持ってなければッ!!

 なんであの人武器持ちながら追い掛けてくんの!?

 なまはげなの!?

 それともどこぞのチャッキー人形なの!?


「武器置いてッ! お願いだから! そうしたら待つよッ!」

「……本当?」


 リリさんは立ち止まり、ズズッと鼻をすすると涙を拭いてコチラをじっと見てくる。

 そんなリリさんを見ながら、僕はブンブンと頭を上下に揺らして肯定した。

 リリさんの様子は普通に絵になるよ。

 武器なければ。


「ホントホント! ほら、武器置いて」

「分かった……はい」


 その瞬間、真剣はクルクルと回転しながら、僕の頬を掠めていった。

 ……ピッ……と血が出て、再度血の気が引いた。

 ……リリさんはまるで投擲したようなスタイルをとった後、顔を擦って、こっちに歩き始めた。


「……置いた……よ……?」

「置いたって言うんですか今のは……狙ったと言うんじゃないですか……!?」

「……えへへ……捕まえた」

「つ、捕まった……はは……は……」


 僕はリリさんに腕を掴まれる。

 リリさんは軽く掴んだつもりなんだろう。

 実際に僕の腕は千切られる事も、ましてや潰されることもなく、ただ触れられているという感触だけ感じた。

 ……でもしばらく、体の震えは止まらなかった。


 リリさんに連れられて、今はテントへ帰るところだ。

 ……だけど、テントの外を見る機会なのでキョロキョロと見渡してみる。

 ……一言で言えば、酷い有様……だった。

 舗装されている、レンガ調の道は亀裂が入り、所々に断層が出来ている。

 まるで地震でも起こったかのように、至る所にある。

 それだけじゃない。

 木造建築の家だって、石造りの家だって、殆どが半壊していたり全壊しているのだ。

 更に、この町の大きなシンボルであろう、町の上空に架かる大きなレンガ橋も所々落とされていて、落ちた所は瓦礫の山が積み上がり、復興には時間がかかりそうだった。


「……どうしたの?」

「……酷い……ですね」


 この町並みを見て、率直な感想を言う。

 その言葉を聞いて、リリさんが口を開いた。


「そうだね。私も、こんなに酷いの……初めて」

「……という事は、最近こうなったの?」


 僕の言葉にリリさんはコクッと頷く。


「……二週間くらい前かな……いきなり、魔物の軍勢が押し寄せてきて……今日まで戦争してたんだ」

「せ……戦争……!?」

「うん……そうなの」


 魔物とここの人達が戦争していた……。

 だから、この町が荒れてしまっていたんだ。

 辺りから土埃があがっていて、激戦があった様を残している。


「……今日までって……もう終わったの?」

「うん、なんでか分からないけれど魔物達が退いていったの。この町から一匹残らずね」

「なんでか分からないの?」


 普通に、魔物の軍勢より強かったから……とかじゃ無いのかな。

 それか、魔物のリーダーを倒したとか……?


「そうなの……明らかに私達の方が劣勢で、もう少しでお城も落城しそうだったのに、魔物は逃げ出したの」

「……じゃあ、晩御飯の時間だったとか」

「それで帰るなら、二週間の攻防戦がご飯だけで休戦になったんだ!?」

「お腹すいてたんでしょ」

「絶対違うと思う……!」


 僕の言葉にリリさんは頭を抱えている。


「……はぁ……こっちがシリアスになってるのに、なんでススムは変な事言うの?」


 ため息を吐き、僕の言ったことについて突っ込んできた。


「……? そんなに変な事かな?」

「変だよ!? 自覚なし!?」

「変だったんだ!?」


 僕は、ちゃんと頭の中にある可能性の一つとして言っただけなんだけど。

 幾つかあるんだけれど、次に有力だと思ったのは、飽きたから。

 後は、魔物が何か目標を達成したのかなぁ。


「……まあ……お話もこれ位にしよう。もうすぐテントだから」

「テントって……会話禁止なの?」

「ううん今、夜だし仮設テントにいる人達に迷惑だから」


 ……あ、月明かりでこんなに明るいんだ。

 さすがに太陽程ではないけれど、家の中で蛍光灯をつけてる位の明るさだ。

 要するに、殆ど見える。

 でも、月を見ても不思議と目は痛くならないし……って月が幾つもある……。

 ……三つだ。

 これが、明るくなる原因なのかな。

 僕が入っていたであろう、テントの目の前にきた。

 その後ろには多くのテントが建てられていて、どれも明かりはついてないみたいだ。


「テントの中で安静にしててよ」

「武器の手入れしなければ約束出来ます」


 リリさんが、武器なんか持ち出さなければこうならなかったんだって……!

 その事を自覚して欲しいかな……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ