第七話 町の様子
テント生活一日目。
僕は脱走した。
急展開ごめんなさい……!
本当、あの人嫌だ……!
「……安静にしてなさーいッ!」
「い、嫌だッ!!」
僕は町の中を全力疾走で駆け抜けている。
今、追いかけてくるのはリリさん……!
手には真剣をぶん回しながら、コチラに追いかけてきている……!
ちょ……ぶん回すのはナシでしょぉ!!
「あっ……滑ったッ」
後ろからフォンッ! という、音が聞こえたと思ったら、目の前に真剣が突き刺さってる。
……リリさんは真剣を持っていない……つまり……。
「また……投げてきたァ……!!」
血の気が引いたのを自覚して、僕は更に走る速度を早めた。
死ぬ……死ぬ……ッ!
「またドジやっちゃった……じゃなくて、待てぇッ!」
「無理無理無理ッ! 武器をぶん回したり、どっかへ吹っ飛ばす人に見られてたんじゃ、命幾つあっても足りませんッ!」
さっきも、テントの中であったのだ。
リリさんは何処から持ってきたのか分からないけれど、剣やオノ、ヤリ等の武器を持ってきて、あろう事かテント内で武器の手入れをし始めていたのだ。
それだけならまだ分かる。
大丈夫なんだ。
でもね……頻繁に武器を落としたり、「滑った」とか言って目の前に真剣が刺さっていたり、挙句には、横腹をカスって服が破けたりしたんだ。
……誰があんな所いくかッ!?
そんなの無理だ無理ッ!!
「待ってよ……! ちょっと……疲れてきちゃった……!」
「嫌ですッ! そのまま倒れて下さいッ!」
無我夢中で走っていると、後ろからズシャァァアアアッ!! という豪快な音が響いた。
……ゆっくりと走る速度をゆるめて、完全に止まった所で振り返る。
うつ伏せで倒れてる。
「……ヒクッ……」
「……嫌な予感」
「……ヒグッ……グスッ……」
リリさんが、女の子座りしながら、泣いてる。
……うん、泣いてる。
「……」
僕のせいなの!?
これって……ねぇ!?
「あ、あのー……」
「うぅ……うっ……」
リリさんはゆっくり立ち上がって、片手をコチラに伸ばし前かがみになってゆっくり追い掛けてくる。
「ま……でぇ……! おねがい……だがらぁ……!」
「……」
まるで、幼児が追い掛けてくるみたいで、微笑ましい。
……もう片方の手に真剣持ってなければッ!!
なんであの人武器持ちながら追い掛けてくんの!?
なまはげなの!?
それともどこぞのチャッキー人形なの!?
「武器置いてッ! お願いだから! そうしたら待つよッ!」
「……本当?」
リリさんは立ち止まり、ズズッと鼻をすすると涙を拭いてコチラをじっと見てくる。
そんなリリさんを見ながら、僕はブンブンと頭を上下に揺らして肯定した。
リリさんの様子は普通に絵になるよ。
武器なければ。
「ホントホント! ほら、武器置いて」
「分かった……はい」
その瞬間、真剣はクルクルと回転しながら、僕の頬を掠めていった。
……ピッ……と血が出て、再度血の気が引いた。
……リリさんはまるで投擲したようなスタイルをとった後、顔を擦って、こっちに歩き始めた。
「……置いた……よ……?」
「置いたって言うんですか今のは……狙ったと言うんじゃないですか……!?」
「……えへへ……捕まえた」
「つ、捕まった……はは……は……」
僕はリリさんに腕を掴まれる。
リリさんは軽く掴んだつもりなんだろう。
実際に僕の腕は千切られる事も、ましてや潰されることもなく、ただ触れられているという感触だけ感じた。
……でもしばらく、体の震えは止まらなかった。
リリさんに連れられて、今はテントへ帰るところだ。
……だけど、テントの外を見る機会なのでキョロキョロと見渡してみる。
……一言で言えば、酷い有様……だった。
舗装されている、レンガ調の道は亀裂が入り、所々に断層が出来ている。
まるで地震でも起こったかのように、至る所にある。
それだけじゃない。
木造建築の家だって、石造りの家だって、殆どが半壊していたり全壊しているのだ。
更に、この町の大きなシンボルであろう、町の上空に架かる大きなレンガ橋も所々落とされていて、落ちた所は瓦礫の山が積み上がり、復興には時間がかかりそうだった。
「……どうしたの?」
「……酷い……ですね」
この町並みを見て、率直な感想を言う。
その言葉を聞いて、リリさんが口を開いた。
「そうだね。私も、こんなに酷いの……初めて」
「……という事は、最近こうなったの?」
僕の言葉にリリさんはコクッと頷く。
「……二週間くらい前かな……いきなり、魔物の軍勢が押し寄せてきて……今日まで戦争してたんだ」
「せ……戦争……!?」
「うん……そうなの」
魔物とここの人達が戦争していた……。
だから、この町が荒れてしまっていたんだ。
辺りから土埃があがっていて、激戦があった様を残している。
「……今日までって……もう終わったの?」
「うん、なんでか分からないけれど魔物達が退いていったの。この町から一匹残らずね」
「なんでか分からないの?」
普通に、魔物の軍勢より強かったから……とかじゃ無いのかな。
それか、魔物のリーダーを倒したとか……?
「そうなの……明らかに私達の方が劣勢で、もう少しでお城も落城しそうだったのに、魔物は逃げ出したの」
「……じゃあ、晩御飯の時間だったとか」
「それで帰るなら、二週間の攻防戦がご飯だけで休戦になったんだ!?」
「お腹すいてたんでしょ」
「絶対違うと思う……!」
僕の言葉にリリさんは頭を抱えている。
「……はぁ……こっちがシリアスになってるのに、なんでススムは変な事言うの?」
ため息を吐き、僕の言ったことについて突っ込んできた。
「……? そんなに変な事かな?」
「変だよ!? 自覚なし!?」
「変だったんだ!?」
僕は、ちゃんと頭の中にある可能性の一つとして言っただけなんだけど。
幾つかあるんだけれど、次に有力だと思ったのは、飽きたから。
後は、魔物が何か目標を達成したのかなぁ。
「……まあ……お話もこれ位にしよう。もうすぐテントだから」
「テントって……会話禁止なの?」
「ううん今、夜だし仮設テントにいる人達に迷惑だから」
……あ、月明かりでこんなに明るいんだ。
さすがに太陽程ではないけれど、家の中で蛍光灯をつけてる位の明るさだ。
要するに、殆ど見える。
でも、月を見ても不思議と目は痛くならないし……って月が幾つもある……。
……三つだ。
これが、明るくなる原因なのかな。
僕が入っていたであろう、テントの目の前にきた。
その後ろには多くのテントが建てられていて、どれも明かりはついてないみたいだ。
「テントの中で安静にしててよ」
「武器の手入れしなければ約束出来ます」
リリさんが、武器なんか持ち出さなければこうならなかったんだって……!
その事を自覚して欲しいかな……!