第五話 踏んだり蹴ったり
ちょっと待ってぇぇえええ!
いやいやいや!
なんで僕が転移しちゃったわけ!?
他にもいるでしょなんで僕なの!?
「……ねぇ、包帯巻くよ?」
「はい、巻いてください。出来れば、帰れる位に」
異世界転移って……!
なんでそんな面倒臭いものに巻き込まれてるんだ僕は!?
ただでさえ、生きる事自体面倒臭いのになんだっていうんだ!
「ぐるぐるぐるー」
そもそもさ、なんで転移するわけ!?
意味不明なんだけど!
だってさ、異世界転移だよ!?
勇者様お願いしますー! とか他力本願のやつだよ!?
召喚とかいきなりする連中だよ!?
悪魔とか言って国中で罵ってくるんだよ!?
「ぐるぐるー」
「……メデカ、巻きすぎじゃないのか?」
「大丈夫、大丈夫」
それに、ライトノベル知識だけど、現代知識でこの世界で無双してやるぜ! とか言うのあるけど僕は無理だから!
化学とか国語とか数学とか、学問っていう分野で特化してるのとかないし! むしろ知らない方だから!
「ぐるー」
「……」
……思考を巡らせてばかりで、全然気づかなかった。
体中が包帯で巻かれて、自由に動くことすらできない事に。
それどころか、息をするのも困難だよ!?
「――――! ――――!!」
「メデカ、ソイツが苦しそうだが」
「後少しだよ。還れるよ」
「何処に」
「土に」
顔に巻かれている包帯を噛みちぎり、口から空気を精一杯取り込む。
「そんな所帰りたくないからッ!!」
「冗談だってばー」
ケラケラと笑いながら言ってくる。
あのままだったら、確実に死んでたよ!
「あー……もう」
「それじゃあ、安静にしててね。私は今日はもうお休みー!」
「お、お休み?」
メデカさんは、机の上をガサガサと荒らしたと思ったら、何処からともなく鞄を取り出して、テントを抜け出してしまった。
……はい?
「では私も行くとしよう。安静にしているんだぞ」
「えっ」
アイ様まで、テントから抜け出して、この中には僕一人になった。
「え……何これ」
異世界来てこの仕打ち……なんだこれ。
「えっと……すみません、僕はどうすれば元の世界に……」
独り言だけが、虚しく空気に伝わる。
……いや、どうすればいいの。
ホントに何をすればいいの。
「……あのー? 誰かいないの――――ッ!?」
僕が立とうとすると、足がズキィッ! と尋常じゃないくらい痛んだ。
「イッ…………!!」
痛い!?
かなり痛い!!
もうヤバイくらい痛い!!
「だぁぁあああ……! いったい痛いッ! ぁぁあああ……!」
痛む足を、抑えようと手を動かそうとする。
……足と同じように、腕がズキィッ! と痛む。
「うっ――――!?」
嘘だぁぁあああッ!!
腕まで超痛いぃぃいいいッ!?
「ぎゃぁぁ………………!!」
これは死ぬ……絶対死ぬ……!
さっきまで何とも無かったのに……!
魔法とかそういう奴で治ったハズなのに……!!
「ぉう……っふぅ……!?」
落ち着け……!?
落ち着け……!!
痛いって思うから痛いんだ……!
「痛くない痛くない痛くない痛くない……やっぱり痛いぃぃいいいッ!!」
駄目だ本当に駄目だ……!
痛い……全身に激痛が走ってるみたいだ。
正確には片腕に両足だけど……!!
「どうしたの!?」
僕が悶絶してる所に、誰かがテントに入ってくる。
「ってきゃぁぁあああッ!? 魔物ッ!!」
「ぎゃぁぁあああッ!?」
突然、現れた人にとんでもない強さで蹴られたのを最後に、僕の意識は飛んでった。
意識が飛んでく前に思った事は、踏んだり蹴ったりだ……だった。