第四話 転移……しちゃったみたいです
「……」
「……」
アイ様に抱えられて数分経った。
僕達の間には言葉で表現しづらい壁が出来ている。
僕が張っているんだけどさ!
「……」
「……」
物凄い気まずいんですけど……!
僕が喋った方がいいの?
僕がなんか言わないと駄目なの!?
「あ、あの……」
「なんだ?」
ギロリと睨み付けられたように感じて背筋が凍る。
駄目だ……話してはいけない……!
「い、いえ、なんでも、ございません」
「そうか……何かあれば言うといい」
なんであなたは女を捨てたんですかって聞きたい。
物凄く聞きたい。
でも、興味本位になんでも聞くと、多分還ることになる。
土に。
「……」
「……」
ちょっと……!
また同じ流れを繰り返すの?
アイ様黙っちゃったよ!
僕もだけどさ!
「……もうすぐだ」
「……!?」
もうすぐで殺される……!
嫌だ……死ぬのは!
待って待って……どうすればいい……どうすればいいんだ!?
叫ぶか……?
叫んだ瞬間、喉元を潰されたら終わりだよ!
だったらどうするか……!?
……。
…………。
駄目だ何にも思い浮かばないー!!
人生の詰みだッ!
あー!
殺されるとかいう、絶対痛い死に方なんかしたくなかったッ!!
「……どうした? 顔色が悪いぞ」
「いや……ちょっと貧血気味で……」
言えない……!
怖いですとか、そんなの言えない……!
叫びたいー……!
物凄く助けを請いたいー……!!
「どうした、汗をかいているが……苦しいか?」
「いや……ちょっと熱くなってきて……!」
「そうか……もうすぐだ。それまで我慢してくれ」
苦しい……!
この人の怖いオーラみたいなのが苦しい……!
誰か……助けて……!
哀れな僕を……助けてくださぁぁあああいッ!!
……連れていかれたのは、仮設で建てられたであろう、テントの一つ……その中だった。
アイ様は、抱いてた僕を丁重に扱ってくれて、ゆっくりと寝転がせてくれる。
……身体中痛いけどさ。
と、とりあえず、殺されるような事は無いだろう……。
「お、ご苦労さん。アイ……って……ありゃあ……これはまたまた酷いの拾ってきたね」
「ああ、メデカ。リリが発見したのを私が拾った」
「ああ……納得……よくあの子も働くねぇ」
……アイ様と一緒に話している人……横になってる状態だから、見えにくいけれど、頭に青い帽子と、緑を主軸にした服装をしている女性がいる……。
背は……僕よりもちっちゃい!?
僕が大体160で……それよりちっちゃいってことは……中学低学年くらい……?
「っと……治療しないとね……ふむふむ」
そのちっちゃい女の子が、僕の体を調べてくる。
その手つきはかなり強引で、傷口まで乱暴に触れてくる。
「イッ……!?」
「痛くない、痛くない。私は」
「僕が痛いんですけど……!?」
「気のせい気のせい」
ケラケラと子供のように無邪気に笑う。
……悪気があってやってそうで嫌だな。
「……あちゃー……もう手遅れだね」
「えっ……?」
「嘘嘘、冗談だって、間に受けないでよ」
またもケラケラと笑ってくる。
本気で心配して損した。
「でも派手にやったもんだねー……魔法が無かったらどうするつもりだったんだか」
「……魔……法……?」
何それ?
ホイ〇とか、ケ〇ルとかそういうの?
魔法と言われて出てきたのがやはり、RPGの呪文とか、魔法とかの類が頭に浮かんでいた。
「ちちんぷいぷいー……」
メデカと言われた女の子が、僕の傷にまた触れてくる。
……と思ったら、淡い緑色の光が女の子の手にまとわりつき、僕の傷口を……暖かくする。
……いや、熱い熱い熱い!?
まるで焼けてるみたいな……!
でも、不思議と心地よさもあって、ジタバタするような痛みは感じない。
「……よし、粉々になった骨は大丈夫で……包帯で巻くよー」
「こなご……!?」
粉々ぁ!?
粉々だったの!?
骨が!?
「どうした? メデカが何かやらかしたのか?」
「嫌だなぁ……今回は割と本当に何もやってないよーだ」
「だ、だって粉々って……! 僕の骨が……」
「そうだよ。粉々だったんだよ」
……僕の事を不思議な奴だとでも思うくらいメデカさんは見てくる。
……えっ……まず、何、魔法って……。
待って……いや待ってよ……。
ここってなんなの!?
日本とか、地球じゃなくねぇ!?
「……おーい? あれ、固まっちゃった」
手を振っているメデカさんよりも、今、衝撃の事実の方がいっぱいで、ツッコミが出来ない……。
……どうやら……僕は……異世界転移しちゃったみたいです。