第三話 怪我も大怪我
……廊下……また……夢……。
教室に入って……僕の机に群がってた取り巻きは散り散りに……。
……机は……もちろん、汚れてて……ラクガキだらけ……。
僕が何をしたんだっけ……。
学校にある荷物……なんにもない……。
消えた……じゃなくて、消された……って言った方が正しい……。
……こんなの拷問だって……。
だから、考えたくなかったのに……。
夢の中でも、またこのイジメが再開されようとしてる。
……もう勘弁してって……。
生きることに焦がれないからさ……。
楽しくなくていいからさ……。
せめてさ、静かに……何も考えさせずに、いさせてよ……。
「……き……さい……」
突然、僕の体は揺れる。
……というより、誰かに揺さぶられてる。
「……起き……さい……!」
段々と聴覚の調子が取り戻されていく。
「起きなさい!」
「う……ん…………」
「大丈夫!? しっかりして!」
「……は……い……?」
……目を少しずつ開ける。
目の前には……女の子……?
僕と同じ位の背丈、でもその服装はまるで……中世ヨーロッパ辺りにいた兵士そのもの……。
頭を守る、丸っこい兜を被り、動きにくそうな鉄製の鎧を身にまとっている。
体はボロボロ、土で汚れた顔……。
でも、僕を心配してくれてるみたいな……表情……。
……この人は誰だろう。
「……どちら……さん?」
「凄い怪我……立てる!?」
「う……うん……痛……ッ!」
女の子に言われて、立とうと力む。
でも、足も腕も動かそうとするとズキッと痛む。
「痛む!? ってそうだよね……! うん、ちょっと待ってて!」
「えっ……ちょっと……」
女の子は僕を横目に見て、駆け出してしまった。
……そういえば、今自分がどこにいるかが分かる。
周りを見渡すと、さっきまでいた石造りの部屋がボロボロに、原形が無いほどに壊れきっている。
……僕は瓦礫の下に埋まっていたみたいだ。
「僕の体……は……」
次に自分の体を見た時、言葉が出なくなってた。
……自分の腕も血だらけに、足だって血塗れ……。
どうやら額からも汗のように血は流れ出てるみたいだし。
……重傷ってやつかな。
「これは……動けないハズだよ……」
全身が血塗れだという事を自覚して、少し頭がフラフラする。
って……駄目だ駄目……また気絶とか有り得ないから……!
「お待たせ! 連れてきたよ!」
……さっきの女の子の声が聞こえた。
連れてきた……?
連れてきたって……何を?
「アイちゃん! 怪我人を救護室まで連れてって!」
「あ……い……ちゃ……ん?」
誰……?
……ちゃんって女の子……?
なんで女の子を連れてきた――――。
「お願い!」
……僕は見た。
筋骨隆々のその体……。
鎧なんか必要ないと、武闘着を着こなしている達人のような風格。
歴戦の名将と謳われそうなその顔……!
「御意」
「!?」
ブッと口から吹き出る唾。
予想外の人物像に吹き出してしまった。
いや待って、これはない。
こんなベタベタなオチはない。
だって、こんな……大男のような体格で女の人ってどういう事だって!?
「……なんだ? 私をそんなに見て」
「ヒッ……!?」
見られただけで背筋は凍る。
何とも言い難い恐怖……強いて言うならゲーム序盤で主人公に立ちはだかるラスボス……と言った方が良いのかな。
いや、とてつもなく分かりづらかった。
でも、その位怖い。
「いや……えっ……と……ぼ、僕……殺されるんです……かね……!!」
「面白い事を言う奴だな」
フッとアイ様が笑う。
いや、面白くない……!
何にも……!
僕の体はガタガタと震えて、顔も苦笑い状態だ。
い、嫌だ……!
死にたくない……!
こんな死に方、嫌だ!
「大丈夫だよ! アイちゃんが何とかしてくれるから!」
「案ずるな」
案じますぅぅうううッ!!
何とかってぇ!?
何をする気なんですかぁッ!!
アイ様が軽々と僕の体を持ち上げて、歩き始める。
何処行くの何処連れてくの何処で殺すの!?
僕は巨人兵に連れられて、何処かへと輸送される。
本当に……何処行くんだ……!?