お仕事の時間
二話目えええ
ㅤこの時までは。
ㅤお店を出た瞬間、女性の声が聞こえた。
「お仕事頼めるかしら」
ㅤ振り向く。と、同時に暗転。しばらく暗闇の中をさ迷うが、体に衝撃。
「ぐえ」
ㅤカエルが潰れたような声を出す。誰だ、こんなことしたやつは。
ㅤ伏せていた顔を上げる。
「おはろー」
ㅤこちらを見る金髪の女性。口元に扇子を当てていて、ふわふわ浮かんでいる。
「妖怪か」
ㅤ抑えて入るものの、溢れ出る妖気を感じ取る。……相当なものだな、俺なんかと年季か違う。
ㅤ震えてきた体にムチをうち、虚勢を張る。
「大妖怪様が俺に何の用?」
ㅤこんな妖怪が、俺なんかに「お仕事頼めるかしら?」だって?ㅤ何かあるに決まってる。
ㅤ気を緩めず、ただまっすぐに女性を見る。最悪の場合、何時でも逃げられるように……。足は震えているが。
「仕事を頼みたいのよ。……外に馴染んでる貴方位しかできないお仕事があるの」
「だから?」
「だからって……やってくれない?ㅤ報酬は出すわよ」
ㅤ……何を言っているんだこいつは。勝手に仕事しろって、報酬出すからって、訳が分からない。そもそも誰だ、初対面だぞ。
「初対面? そうねぇ……幻想郷の賢者といえばわかる?」
ㅤ幻想郷……聞いたことある。中部の山奥に、こことは違う別の空間があると。そこは現実と結界できりはなされていて、現在となってはあまり見ない妖怪達が沢山暮らしていると。
「俺にしかできないってなんだよ」
「外のことをよく知っていて、昼間でも難なく行動ができ、妖気があふれてしまうほど年季がない妖怪。あなたぐらいしか知らなかったのよ」
あなたしか「知らなかった?」…………。
「ああっ!! おまえ、子供の頃店に入り浸ってた金髪か!!」
四百五十年ほど前の話である。
俺は、とある歌舞伎役者と狼妖怪の間に生まれた子供(半人半妖として生まれた)であった。歌舞伎役者の息子として、小さいころから歌舞伎を叩き込まれていた訳だが、その時、よく屋敷に来ていたのがこの女だったのだ。
その頃は、金髪ではあったが短髪で、こんな雰囲気や妖気はなかったはず。
「金髪……数百年ぶりだな。容姿も妖気も変わったから分からなかったよ」
一気に緊張が解ける。力が抜けて、変に笑ってしまう。
「よかったわ、気づいてくれて。……でも私、そんな変わったかしら」
地面に降り立ち、くるりと回って見せる。なんだろう、服とか顔とか、髪とか、雰囲気とか、いろいろ変わっていた。
久しぶりに会う知人に対する喜びもほどほどにし、金髪に疑問をぶつける。
「ところで金髪。俺にしかできない仕事って?」
「うん、今から説明するわね」
金髪は、お仕事の内容を話し始めた。
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「金髪、気になってたんだけど俺の屋敷に入り浸ってた理由って? なんか特別なことでもあったり……」
「そんなことないわ。あの頃は、歌舞伎にただ夢中だっただけよ」
「なるほどな」