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8 軍を強くする方法(軍1/2)

 始まりは小さな石。

 しかしそれがひとたび放り込まれたなら、波紋がどこまで広がるかは誰にも予想できない。

 そして、石はすでに投げられていたのだ。


「みんな、ちょっといいか」


 会議後の打ち合わせ時間。

 宰相の執務室に集まっていた面々は宰相の言葉に顔を向けた。

 宰相、宰相補佐官、彼らの秘書に加え、普段は事務室で仕事をしている宰相付書記官たちの姿もある。


「王国軍を強くするにはどうすればいいと思う」


「装備を増やせば良いのではないですか」


 宰相の問いに書記官の1人が声を上げる。


「大砲の発射速度を上げれば良いと思います」


「マンパワーを増やすことです。強さは数に比例します」


 初めの1人につられたのか他の書記官たちも意見を出す。

 宰相の覚えをめでたくして出世の足掛かりにしたい彼らは意欲的だ。


「セバスはどうだ」


「今いる者を鍛えるべきだと思います」


「セバスさん、王国軍は既に成長が頭打ちになってます。これ以上鍛えてどうなるっていうんですか」


 セバスの意見に書記官が呆れたように言う。

 宰相はそれを取り上げず、サラにも聞いた。


「私も軍の方々を鍛えるべきだと思います。軍の皆様はまだまだ強くなれます」


「俺も同意見だ」


 頷く宰相に書記官たちが黙る。


「なんで俺がそう思ったかわかるか」


 首を横に振る面々。

 しかしセバスだけは宰相の言いたいことをわかっているかのように表情を変えない。


「俺は小娘の成長をこの目で見た。だから分かったんだよ。この国の軍は……たるんでいるってな」


「宰相、それは違います。軍がたるんでいるのではなく、うちのサラが努力馬鹿なだけです」


「と、トーリ様?!」


「でも、小娘は成長してみせた。20そこそこの娘っ子に出来て王国男児ができないわけがないだろう」


 サラの瞬間移動を見たことがある書記官はなんとも言えない顔をし、見たことのない書記官は不思議そうな表情を浮かべる。


「小娘、軍事大臣のとこに書類持ってったことがあるだろう。その時に……まあ、移動が速すぎたってことで目に留まってな。これから半年、セバスと一緒に訓練教官をやってくれと頼まれた」


「でも宰相様、私にはトーリ様という主がおります。大臣様のご命令は受けかねます」


「誰が大臣の命令だと言った? これは王命だ」


 愕然としたサラはトーリの顔を見上げ、トーリはそれを頷きで返す。

 あらかじめ宰相から聞かされていたのだろう、トーリの顔に戸惑いはなかった。


「サラ、王命に従って軍を鍛えて欲しい。この国を『守る』ために」


 守る。

 サラにとってのマジックワードを繰り出され拒否できるはずがない。


「かしこまりました、トーリ様」


 お辞儀をするサラの頭上で、「ってことで半年間俺と補佐官の秘書が抜ける。おまえら、書記官の底意地見せてキリキリ働けよ!」と宰相の鼓舞する声が聞こえていた。



 王国軍には王宮警護部隊である衛兵と騎士団以外に、歩兵を中心として砲兵や騎兵、戦車隊など多くの兵が所属している。

 その歩兵のうち、小隊長から連隊長までの隊長クラスが集められた訓練場には物々しい空気が漂っていた。


「今日集まってもらったのは他でもない、諸君を鍛えるためである」


 大将の言葉に階級が上の方の隊長たちがざわつく。


「王は我らに更に強くなるよう望んだ。セバス、サラ、前へ」


 フロックコート姿のセバスとメイド服姿のサラが大将の横に並ぶ。


「今日からこの者達が教官である。半年間訓練を行い、王国に絶対の勝利をもたらして欲しい」


 ざわめきが大きくなり、暴動でも起きかねない空気が漂う。

 それもそのはず、何年、何十年にわたり訓練を行ってきた誇りある軍人たちに今にも折れそうな一介の使用人が訓練を行うと言うのだ。

 受け入れられるはずがなかった。


「みなさん、私は宰相補佐官の秘書をしております、サラと申します。こちらは宰相秘書のセバスです。私達がみなさんの教官となったのは理由があります」


 サラは可愛らしい小柄な見た目を裏切り、落ち着いた低い声で語る。


「今もっとも近づいている戦いは帝国とのものです。帝国はご存知の通り有数の鉱山を保持し、作られる武器は大量かつ高品質です。そして、帝国は東の島国と同盟を結び、我が国を挟み討とうとしています。東の島国の特色はその技術力。高飛距離で軌道のブレの少ない大砲、最大連射数が20を超えると言われるライフル銃。事実を申し上げますと、我が国の武器は量質ともに彼らに劣ります」


 それは中等兵以上であればみんな知っている、いや下等兵であっても訓練を重ねたものであれば知っている事実だった。


「ですから申し上げます。私達にこれ以上鉄の武器は要りません。王国軍の武器は2つ、頭脳と己の肉体。それだけで十分です」


 このメイドは何を言っているのだろう。

 銃剣を捨てて生身で戦争に行けというのか。

 前線に出ない者の戯言、そんなものに振り回されて命を捨てろと言われるくらいならこの場でこの娘を潰す方が余程簡単だ。

 怒りざわめく軍人たちが動き出そうとした時だった。

 それまで黙っていたセバスが口を開く。


「メイドの言葉を信じられないのに無理はありません。ですので、模擬戦を行いましょう。皆様総力で向かってきてください。私達2人が相手をします。本気で来てください」


 壇を下りるセバスとサラ。

 大将はそうなることをわかっていた様子で軍人たちに準備を促す。

 それぞれ能力が認められてきた軍人たちは上に従い練習用の武器を取る。

 北に立つ敵2人に正面から突破する方向性を固め、彼らは位置についた。


「練習用の弾丸は着色弾ですね? 貴方達の勝利条件は私達二人共に致命傷となる場所に着弾させること。もしくは、剣を急所にあてることで宜しいですか」


「良いだろう。ならば貴殿らの勝利条件は今作戦の指揮官である連隊長5人全員を戦闘不能にすることでどうだ」


「構いません」


 セバスと大将がルールの確認をする。


「連隊長……?」


 困ったような声を出すサラに大将は


「おい嬢ちゃん、もしかして連隊長の顔知らないのか?」


 と連隊長らに挨拶をさせようか考える。しかし


「うーん、記章が派手で司令を出してるっぽい人でいいですか? もしかしたら間違えて余分に倒しちゃうかもしれないですが」


 のほほんと言うサラに親切心はかき消えた。


「倒せるもんならやってみろ。……怪我しないようにな」


 そのやりとりが聞こえていた軍人達はいらだちを募らせ、張り詰めた空気が漂う。


「では、用意」


 風向きは北向、北の敵を倒すには良い風だ。

 薄曇りのため太陽光に目がちらつくこともないだろう。

 構えた銃は確かに2人を捉え、弾が打ち出されるのを待つばかり。


「初め!」


「撃てーい!」


 大将の声に続く指揮官たちの声。

 撃ち出された弾丸は確かに執事とメイドに当たったはずだった。

 しかし。


「いない……?!」


 目の前にいたはずの対象者は二人とも消えており、最高指揮官は他の指揮官に向けて警戒と前進、散開を指示する。

 いや、指示しようとしたはずだった。

 東西に分かれた5部隊の指揮官のうち、端の2部隊の指揮官は射撃命令最中に白目を向いて真後ろに倒れ、内側の2部隊の指揮官は射撃音が消える前にうつ伏せに伏していた。

 そして中心の最高指揮官も、新たな指示を出そうと手を挙げたその姿で、どさりと倒れ伏したのであった。


「ごめんなさい、指示を出しててくれると分かったのだけど、指示を出した後の隊長さんはみんな同じに見えちゃって」


 申し訳なさそうに言うサラの服は汚れ一つなく、白のエプロンは新品のように輝いている。

 それと対照的に東側から二つめの部隊の状態は深刻だった。

 中心にいた十人ほどが指揮官と共に顔を下に伏せており、起き上がる様子を見せないのだ。

 どちらが勝ったのかは明らかであった。


「当たらなければどんな武器を持ち出されても勝つことが出来る、そう思いませんか」


 白い手袋を輝かせるセバス。


「化け物……」


 そんな呟きが誰からともなく漏れ聞こえ、セバスは楽しげに笑う。


「私達はあなたがたをその『化け物』にしようというのです、お覚悟はよろしいですか」


 そうして王国軍の楽しい走り込みが始まった。

 サラも行った王城十周である。

 5時間から7時間という記録を出した彼らに、セバスは「7時間なら10代の少女と変わりませんね」と冷たい言葉を飛ばし、翌週には「サラは初日こそ7時間かかりましたが二週間後には3時間で走りましたよ」と追い打ちをかける。

 セバスに言われて食材調達や炊き出しを行うサラは先生に褒められて嬉し恥ずかし、軍人たちに笑顔で接し続けることでそれなりの友好関係を築き始めていた。

 飴と鞭の鞭をセバスが、飴をサラが担う形である。

 

 走り込みが終われば筋トレ。

 これもセバスがサラを引き合いに出して叱咤するせいで軍人たちからサラに向けられる目が化物を見る目と尊敬の眼差しの両極端に分かれたが、とにかくセバスのしごきは続いた。

 その間、サラは後ろから応援したり、セバスレシピのスペシャルドリンクを手渡したり、食材を求めて山へ向かったり、ちょっとした害獣を倒して村人から感謝されたりしていた。

 王子とトーリの食事の毒見については初めは通っていたがセバスから「同じ釜の飯を食べるのも教官の役目です」と言われ、半年だけの約束として夜の目に依頼した。

 王子は初めのうちは日替りで現れる所属不明の者達に戸惑っていたようだったが、すぐに慣れたらしい。ただ、彼らが食べる姿は美味しくなさそうだといって食欲が落ちてしまったそうだが。



「サラ教官はなぜ秘書をされてるんですか」


 組手の練習中、中隊長の一人から聞かれたサラは首をかしげる。


「なぜ、というと?」


 繰り出される拳をするりと避けたサラはその勢いのまま中隊長のみぞおちに拳を入れ、それを腕ではじかれる。

 良い動きだ。


「教官であれば傭兵等でも活躍できるはずだと思いました」


 上段蹴りを頭を下げてかわすサラは下段蹴りで応える。

 中隊長はそれを引きで避けた。


「実戦ではパフォーマンス以外では上段蹴りは使えないでしょうね。放った後の隙が多すぎますし、食らってくれる相手なら後ろから落とした方が楽です。そして私が秘書をしている理由ですが、学校卒業時に求職があったから……とでも言いましょうか」


 実際、最終学年になっても自分が何になりたいかは決まっていなかった。

 誰かのもとで働き、雇い主や依頼者を守ることができたら良いとは考えていたが、希望する業種や職種があったわけではなく、ピンとくるものもなかった。

 卒業式の二か月前、ディファイン侯爵家からお茶会の招待があるまでは。


「卒業前に宰相補佐官のご実家のお茶会で偶然ご当主とお話しさせていただいたんです。それでトントン拍子にメイドになることが決まって、メイドになって数ヶ月で王城勤務に変わったんですよ。そうしたら役職名がメイドから秘書に変わっていました」


 青葉が目に眩しい、五月の爽やかな日だった。

 久しぶりに会うディファイン侯爵は昔のまま、いや、昔よりも白っぽく光る金髪に深い青色の瞳を携えてサラの近況を問うた。

 進路の決まっていないサラに「それなら、うちで働いてみるのはどうかい」とメイド長を呼んだ侯爵はサラを執務室に案内し、その場で契約書を差し出した。


 ーー私はもう引退する身だけど、ちょうど危なっかしいのがいてね、それを守って欲しいんだ。


 まるでサラの内心を知ったかのような勧誘文句だった。


「あら、ごめんなさい。やりすぎちゃいましたね」


 思い出に浸っている間に潰してしまった中隊長を起こす。

 そうして次の相手に向かったときには昔のことは頭から消えていた。



 訓練が終わっても教官の仕事は終わらない。

 その日の訓練内容と教え子たちの出来を日誌に記録し、場合によっては訓練内容を見直さなければいけないためだ。

 教官用作戦会議室と化したセバスの私室で一人一人の進捗や体調について書き上げていると、セバスがサラの前にホットミルクを置いて座った。

 訓練で張り詰めた精神を少しでもほぐそうというセバスの気遣いを有り難く受け取る。


「あなたはなぜメイドになろうと思ったのですか」


 唐突な問いだった。

 訓練中に聞かれたのと似た、しかし少し違う質問。

 ペンを止めたサラにセバスが続ける。


「ずっと気になっていたんですよ。あなたは強くなること異様に執着しています。そして、何かを守ることにも。なぜですか」


「それは訓練に……彼らの強化に必要なことですか」


「いいえ。私的な質問です」


「そうですか」


 ホットミルクはほんのり甘い。

 爽やかな甘さは花の蜜を使っているのだろう、その甘さには覚えがあった。

 昔、大人達が巨人に見えていた頃、こうしてホットミルクを入れてくれた人がいた。

 つい最近喚起したばかりの記憶がそっと歩み寄って来る。

 目を閉じれば、深まる緑としっとりとした土の香りがサラを包んだ。



 あれはサラが6歳、狐狩りに適した爽やかな秋の日のことだった。

 狐狩りのホストとして狩場へ出て行った父親を見送ったサラは暇潰しに森の中へ散歩に出ていた。

 兄は観戦兼勉強のために父について行ってしまい、姉は妹と刺繍をし、母はお客様をもてなすための準備にかかりきりになっていてサラを構ってくれる人がいなかったのだ。

 お目付け役のメイドはサラが女性らしい趣味に向いていないことを十分わかっていたし、サラの両親もそれを許容していた。

 相棒は最近ヒューズ家にやってきた黒鹿毛色の馬。

 優しい目をした彼は体があまり大きくなく、まだ小さいサラでもなんとか自力で乗ることが出来たため、サラは積極的にこの馬と仲良くなろうとしている最中だった。

 サラの家であるヒューズ子爵家の領地は山と湖のある自然豊かな領地だ。

 適度に間伐をしている明るい森にはリスやキツツキがいて、たまに狼や熊が出るとは聞くが人を襲ったという話は聞いたことがない。

 そのためサラはハイキング気分で森に入り、怪しげなキノコや木の実を持ち帰ってくるのが趣味になっていた。

 そしてその日も、お目付け役であるメイドを後ろに乗せて楽しく過ごしていたのだが。

 異変は水場へと道を曲がった時に起こった。

 突然現れた黒い影。

 後ろ足で立ち上がり、2メートルを超える姿で威嚇したそれは成年の熊だった。

 初めて見る野生の「獣」に慌てて馬を止めるも、もはや距離は限界まで近づいている。

 後ろのメイドの悲鳴が森の中に響く。

 馬を回れ右させようと指示を出すも、サラの手も声も震えきり、言うことを聞かない。

 挙句、熊の咆哮に恐慌状態に陥った馬は前脚を高く上げたかと思えば尻を上げて暴れる。

 ドンッ

 肺の空気を全て奪うような衝撃。

 体中を襲う痛みに落馬したのだと気付くも、目の前が暗く走り去る馬の蹄の音しか捉えられない。

 自分の身長よりも高い馬の背、そこから勢いよく落とされた衝撃は感じたことのないものだが、痛みにうずくまっていては熊の餌食になるのを待つようなものだ。

 これ以上ないくらいに気合いを入れて体を起こす。

 しかし。

 まさか、落ちた勢いでメイドが熊の前に転がっていたことまでは予想外で。

 無残に散らばるキノコとおやつのスコーンの中、倒れたままのメイドに凶悪な爪が振り下ろされる。

 サラの悲鳴は喉の奥でつっかかり声になることは無かった。

 さっきまで後ろにいた彼女は見る間に赤く染まり、尋常でない呻き声と共に人ではない塊にされていく。

 物心ついた時から側にいてくれたメイド。

 それが。

 赤色と土にまみれ、弄ばれている。

 もはやメイドの呻き声は途絶え、獣の低い唸り声しか聞こえない。

 頭の中が痺れる。

 ああ、死ぬのか。

 私もここで、肉塊にされて。

 ぐちゃぐちゃに。


 ズドーン


 響いたのは聞いたことのない衝撃音だった。

 何かが燃えたような、しかし酸っぱさが混じったような臭いが漂う。

 倒れながら吼える熊。

 そして。

 もう一度、衝撃音が響いた。


「大丈夫、そのままで」


 男の人の声だった。

 さらに数回衝撃音がして、熊が動かなくなってから永遠とも思える時間が過ぎる。


「もう大丈夫だよ、おチビちゃん」


 声の主はサラの頭を撫で、動けないサラをひょいと抱き上げた。

 金色の髪がサラの鼻先をくすぐる。

 父親と同じ年頃らしいその人にサラは見覚えがなく、地味ながらも仕立ての良い服を身につけた人間が森の奥にいることに混乱する。

 しかし時折頭を撫でる大きな温かい手はなぜか安心感を抱かせ、サラはその人の名前も聞けないまま森を抜けていた。


 狐狩りのあとに希望者で狩猟をすることになったこと、サラたちの悲鳴が偶然ディファイン侯爵の耳に届いたこと、大物狙いの彼がライフルと共に大型の弾丸を所持していたこと。

 そういった偶然が重なっていたことを聞いたのは翌日のことだった。

 お礼に行ったサラを優しく迎えたディファイン侯爵は落ち着いており、サラは聞いた。

 侯爵のようになるにはどうすれば良いですか、と。

 目を瞑れば黒い暴力の塊と赤色のメイドが浮かび、体が震え出す。

 自分のせいで見殺しにしてしまったメイドを思うと苦しく、口の中に血の味が広がる。

 そんなサラと対照的な侯爵の姿にすがりたかったのかもしれない。


「強くなりなさい」


 侯爵の言葉はシンプルだった。


「強く……?」


「強くなれば守ることが出来ます。多くのことを身につけなさい。武器の数は強さになります」


 その顔は友人の娘に接する男のものではなく、侯爵家を守る領主の顔をしていた。

 サラが受けた初めての大人の言葉。

 守ることが出来れば、もうこんな思いをしなくて済む。

 強くなる。強くなれば、守れる。

 それはサラに取って暗闇の中に垂らされた光の糸に思えた。


 翌年、サラは女子専門の教育機関である下級学校に中途入学する。

 家庭教師に頼るのではなく、あえて学校を選ぶことで「多くのこと」を知ろうとし、知っていったサラは卒業時に上級学校へ進むことを決める。

 富裕層の平民や騎士、下位貴族の娘たちがスキルアップを求め通う上級学校。

 そこに通う娘達は結婚が決まると退学することが多かったが、サラは結婚して家庭を築くのではなく、生涯独身を貫いて誰かの為に働く人となることを決めた。

 それは強くなるためには外の世界にいつづける必要があると考えたためでもあるが、弱い自分が家庭を持つことで更に守るべきものが増えることへの恐怖もあった。

 今から8年前、12歳の春のことだった。



「大切な人を亡くしたんです。だから、もうなくしてしまわないように、守るために強くなりたいと思ったのです」


 思い出から帰ってきたサラはぽつりと言い、ぬるくなった牛乳を一息に飲み干す。

 セバスはそれ以上何も聞かず、2人は黙ってその日の日誌を書き上げた。



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