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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
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次のコンクールにむけての難題

地元でのコンクールが終わるとすぐ、今度はベルリンでコンクール。さすがに練習が大変なようです。

 俺らは、オーケストラをバックに聴衆の前で演奏する栄誉はなかったけれど、音楽祭はその後1週間にわたって続く。


 クラウス師匠からの情報だと、来年からは音楽祭とコンクール(と入賞者ガラコンサート)は、時期もずらし、別立にするという事だ。家で去年の音楽祭のDVD(抜粋)をみせてもらったけど、なんていうか、すごい熱気。J-POPのコンサートのようで、司会者もいて、日本の演奏会のようではなく、まさにエンタメになっていた。


 今年の音楽祭で、コンクールで他の楽器の入賞者で、オケをバックに演奏できるのは、ヴァイオリンと声楽8ソプラノ、バリトン)の3人だけだった。


 本選の終わった夜、もう今回のコンクールの事は、本選に残っただけで素晴らしいんだと、自画自賛で自分に言い聞かせて、次にベルリンで行われるコンクールに向けての練習を始めた。


 今度のメルゲンバーグ国際音楽コンクールは、最初に書類審査(DVD審査つき)で、1次予選は80名ほどだそうだ。その予選の課題曲は、テレマンのトランペット協奏曲とトランペット独奏の Allen vizztti の”cascades”、の2曲。一つは独奏だけど協奏曲のほうは、エドに伴奏をお願いしてある。


 夜も11時になったころ、音楽室にクラウス先生が入って来た。あれ?今日はもう自分の練習はないって聞いたんだけど。


 クラウスもオケのトランペット首席奏者とはいえ、自分の練習はかかさない。加えて、フロイデでの演奏する曲も、さらいなおしするそうだ。


「カイト、ちょっといいか?」

「はい、ちょうど練習を切り上げる所でした」

「フランクフルトでの教会での演奏会で、エキストラを頼まれたって?」


 そうなのだ。夕食が終わった後、自室でメールを開くと、演奏会と練習の日程と楽譜が送られてきてた。曲はヴィヴァルディの”グロリア”。数名の管楽器と弦楽で合唱がメインの曲だ。当然ながら、ピッコロトランペットが必要かも(普通のでも吹けるけど)


「なるほど、ヴィヴァルディか。カイトはピッコロトランペットは持ってきてるんだろ?」

「ええ一応は・・・」


 国内メーカーので、実はそれほど出番がない楽器。去年の音楽セミナーの時に使ったくらいだ。こっちのほうの練習は、正直、さぼってる。クラウス先生は俺のピッコロトランペットをひじっくり見て、少し吹いてみた。


 俺と違う、さすがの音色だった。ピッコロトランペットは、トランペットとは別物と考えたほうが、てっとりばやいかもしれない。俺も大学の時の事、たかをくくって吹いたところ、最初は音がでなかった苦い思い出がある。考えてみれば、当たり前だ。管の長さも違うと吹き込む息の量も違う。音色も当然違う。


「カイト、ちょっと音を出して」


 前はテレマンの曲をやったっけ。それを思い出しながら、ワンフレーズ吹いたのだけど、あれ?って首をかしげる音色だった。音程をとるのが難しい楽器だから細心の注意を払ってるのに、音色がいまいちどころか、全然駄目だ。しばらくサボったせいかな。


「うん、駄目だね。不合格。」


 クラウス先生のダメ押しに、俺は去年の音楽祭ではもっと上手かった。練習不足なんだと言い訳したんだけど、先生の答えは意外だった。


「去年の夏から1年で、それだけ耳のほうも成長したんだ。もちろん練習不足もあるだろうけど。それに断言してもいい。この楽器では無理。楽器工房のレンタルを利用してもいい。それと、ピッコロトランペットの名手に少し手ほどきをうけたほうがいい。」


「え?でも先生いるし、それで十分なような...」


「何か、違う事を学ぶ機会があるときは、躊躇しない。私の知り合いが、ベルリンにいるから、本選が終わった後、教えてもらうといい。こっちから連絡しておくから、本選までいくようまずは頑張る必要があるのは、当然だけどね」


 あはは...自虐の笑いしか出てこないよ。前まえから練習してるとはいえ、ベルリンでのコンクールの課題曲で、今は頭が一杯。大学や院でさらった事のある曲も多いけど、”cascades”だけは、自分で練習してみただけ。前のコンクールの新曲で苦しんだように、この曲に苦しんでる。


 この曲を自分のものにしなければ、1次予選すら突破できない。俺、ピ~ンチ。


「あの、手配、よろしくです。ただ本選、いけないかも。今、ちょっと独奏の曲で、いきづまってて。」


 どれどれと楽譜の覗きこんで、先生が cascades を演奏しだした。もちろんだけど、テクニック・音程はバッチリなのは当たり前(その点は俺だってできる)、問題は音色だよな。先生の音は、なんていうかお手本のような音色だ。悪く言うとあまり変化がない。


 この曲はこの音色で通していいんだろうか?


「カイト、1次の曲だし、あまり深く悩まないほうがいい。2次にむけて人数を落とすための曲だ。テクニック面が重視される。とにかく最初は正確に演奏する事。ちょっと吹いて見なさい。」


 という事で、深夜の1時過ぎまで教えてもらった。すみません、先生。お礼に、明日はおいしい晩御飯を何か工夫します。


 


週一の更新。


更新が遅れました。申し訳ありません。先週は超多忙だったのと、下調べに時間がかかったのが理由です。すみませんでした。

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