間の悪い時はとことん悪い
シングルマザーは大変。まだ恋人<遠距離恋愛中?>しかいないカイトには、肩の荷が重い問題が起きます。
間が悪い時はとことん悪いもんだ。
クラウスが明日には帰って来るという日、又、俺はフェリックスの学校から、呼び出しの電話を受けた。本選まで、オケ事務局でのパシリ程度の仕事はお休みをもらい練習してる時だったので運よく時間はあった。俺は慌てて学校へ直行。
なんの事はない。フェリックスが同級生にからかわれ、軽い喧嘩でひざに擦り傷を作っただけだった。こういう事でも呼び出しがかかるんだ。
学校側の説明を聞くと、膝以外に怪我した処はなく、頭とかも打ってないとのこと。じゃあ、大丈夫じゃん。しかも学校で、スクールナースが本格的に消毒してくれたので、もう心配ない。
エドの奥さんのエリザベトさんは、不在だったそうだ。香澄さんがいない時は、彼女に連絡がいくようにしてあるって、彼女に聞いたんだけど。
まあ、仕方ない。そのまま児童館へ、フェリックスを送っていった。念のため、香澄さんの携帯をならしたけどつながらず。エリザベトさんに連絡すると、”ちょっと相談したい事があるので、来てほしい”との事。ひょっとしてマズったかも。
明日にはクラウスが戻るんだけどな。二人とは直接、話したくないとかかな?
エドの家はクラウスの家より小さいけど、音楽室は少し大きめだった。エドの子供達は児童館に行っていなかった。かわりに就学前の3,4歳くらいの子供が一人いる。あれ、エドにこんな子いたっけ?
「ごめんなさいね、カイト君。まきこんじゃって」
エリザベトさんは、申し訳なさそうにして、俺にコーヒーを出してくれた。さっきの子供は、彼女に、猫のようにべたべたくっついてる。
「その子、エリザベトさんが新しく面倒を見る子ですか?」
「そうなの。アリサっていって、まだ4歳。本当は後、二人ほど未就学児の面倒を頼まれてるんだけど、ちょっと待ってもらってるの」
彼女は、”保育ママ”(自宅を小さな託児所にする人の事)さん。ごく小規模の保育所といった処かな。働く母親のために、子供をだいたい午後6時ごろまで預かる。
ドイツは休日が法律で決められているだけあって、だいたいは、午後6時~7時で終わる。
シフト制の仕事の人はどうするんだろうなと、チラっと思ったけど、とにかくエドの奥さんの保育所は午後6時まで。
ここで鈍い俺も気が付いた。この間、フェリックスを迎えにいったとき、児童館は午後4時~6時まで。香澄さんの仕事は、夜の10時まである。フェリックスは、彼女が帰ってくるまで一人で家で待ってるという事かな?
エリザベトさんは、預かってる子をプレイルームで遊べるよう、おもちゃを並べたり絵本をだしたりと、忙しくしながら、”フェリックスの事が少し心配なのよ”と話しを切りだしてきた。
「このあいだ、エリザベトさんたちがいなかった時、香澄さんは熱で職場で寝込んでたそうです。俺に学校から電話があって、最初、途方にくれました。その時彼女の仕事のスケジュールを聞いたんですけど。朝から晩まで仕事してるそうです。もっとクラウスに頼ればいいと言ったんですけどね。」
「あやっぱりね。私には6時に迎えに来たためしがないのよ。だからフェリックスを家まで送るんだけど、その後、あの子一人きりでしょ。ちょっと心配でね。香澄は可愛くて妹のように思ってるし、注意したいだけど、言葉がキツクなりそうだし...夕食を一人で食べさせるなんて、無責任。もちろん、フェリックスを我が家で面倒みる事も出来るけど、毎日だとそれはそれで、問題がおきそうで。クラウスにも言いづらくて。」
つまり、言いづらいので俺に伝えてほしいとの事。香澄さんとクラウスとに両方だ。せっかく上手く離婚出来たのに、また揉めるかもしれない。
それから、フリードとフェリックスが帰ってくるまで、エリザベトさんといろいろ話した。クラウスと違い、エドはフリーランスの伴奏者だ。それは決まった収入じゃないということで、エリザベトさんが、保育ママをやってるのも、家計の助けになればとの事。
”ところでカイトは日本が恋しくないの?”から始まって、いつのまにか俺の恋人との現状を洗いざらい話す事になった。主婦は誘導尋問が上手いんだな。参った。
両想いの恋人のはずなんだけどな。セリナちゃん。メールでは2次予選通過とあった。(健人のメールでは余裕で通過だったそうだ)お祝いのメールを送ったけど、まだ、あっちには3次予選があるんだな。じかも演奏時間も長い。人数が多いピアノコンクールは、激戦なんだ。
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フェリックスを連れて家にもどり、大急ぎで夕食の準備をした。エリザベトさん曰く”子供は体も内蔵も成長してないので、夕食時間も寝る時間も早めに”との事。
代わり映えのしないポトフに、フェリックスはいい顔をしなかったけど、我慢してもらうか。
オヤツに、日本のオセンベを出したら大うけ(バカウケ?)香澄さんには、今日はこっちにいる事をメールしたけど、午後9時になっても返事がない。そろそろフェリックスが眠くなってきたようで、さきから本を読みながらウトウトしてる。
そんな時、突然、玄関があき、ドタドタを物音がする。”おいカイト”の大声がした。
クラウスって、帰りが明日じゃなかったっけ?俺は慌てて彼の処へいって、フェリックスがいる事だけを話した。途端、満面の笑顔で俺の部屋に走って行き、フェリックスを連れて来た。
また玄関があき、今度は香澄さんが入って来た。あちゃ~。まだ鍵を持ってたんだ。
「カイト、なるべくこっちに連れてこないでよ」
いきなり怒られた俺は、さすがにキレそうになったけど子供の前で我慢した。君子、危うきに近づきすぎた。俺は”もう寝る時間だから”とフェリックスをとりあげると、自室に引き上げた。
事情を説明するのも怖い。クラウスもなんで帰りが今日なんだ?
案の定、二人の口喧嘩が始まり夜中まで続いた。
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更新、遅くなってすみませんです。




