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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
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Rustiuqes を練習。養育問題の決着

コンクールにむけて練習がすすみます。9月を前にやっとフェリックス君の、養育問題について決着がつきました。

 2次予選の曲は、2曲。課題曲は主催者から出された新曲(ただいま練習で苦労中)、自由曲は、ウジェヌ・ボザの”Rustiuqes”。ボザは、フランスの作曲家で、室内楽曲を多く作曲した人だ......フランス語は読み方が難しい、いつも思うだけど、コンセルヴァトワールへ行った小百合ちゃん、フランス語で苦労してるんじゃないだろうか?ドイツ語は、英語と同じ仲間なので助かる。単語も似てるのが多いし。


 そのRustiuqes を練習中。エドは技術的に云々といってたけど、確かにピアノは、難しくはない。ただジョリベのような派手な動きはない分、抒情性がもろわかりだ。


 楽章ではないけど、3つの分ける事が出来る。最初はモデラート。序章のようで、最初にピアノが弾くテーマを聞いて、トランペットがそのテーマを木霊のように繰り返す。ちなみに、最初の2小節のあと、他の部分は殆どトランペットオンリーだ。


 さっきから、その最初の部分でクラウスに、細かく注意される。俺も時々は反論けど。


「だから、そこ。違う調の和音なんだから、音色も気分も変えて。」

「はい、ここは若干暗めに吹きたいです」


 が、現実には上手くいくとは限らないだよな。


「カイト、顔は変わったけど気分は変わったかい?」


 この曲は、俺流に解釈は、最初は”望郷”の気持ちだ。例えば、俺が都会で暮らしていて、どこか田舎へ仕事へ行ったとする。そこで、自分の故郷を思い出す感じだ。1枚ベールをかぶったような、感情を抑えた演奏で行きたい。でないと、次と、ガラっ曲想の変わる後半が苦しくなる。


「ここは、山の頂上から見下ろす感じで、私なら吹くけどね。カイトは違うんだな」

「クラウス、この部分は後にしないか?俺の活躍する部分、アンダンティーノとアレグロの部分を先にどうだい?せっかくの合わせの練習なんだし」


 エドの主張に”いや、それは出来ない”とクラウス師匠と俺、意見は一致した。ただ、エドだってヒマじゃない。そこで曲想をはっきりつかむためにも、通し練習を、繰り返す事にした。その後で、考えればいいという事で。


 さんざん、論議しながら、一応の方向性は決まった。7分ほどの小曲だけど、簡単そうなフレーズでも、演奏の仕方を間違えると、そこだけ浮いてたりする。


*** *** *** *** *** *** *** 


 本選の曲、アルチュニアンダンスとモーツァルトのトランペットコンチェルトなんだけど、なんで2曲?と思ったら、ピアノ伴奏での演奏を審査するそうだ。で、入賞したコンテスタントのみが、オケをバックに、どちらかの曲を演奏できる。この時、やっと一般公開だそうで。


 居間でエドと話しながら、今度のコンクールはほとんど音楽祭に近いものだときかされた。


「まあね、音楽で、ある程度以上は、優劣はつける事が出来ないんだな。本当の処はね。だから減点方式になる場合が多い。このコンクールは、ピアノやバイオリン、アンサンブルも出るから、かならずトランペットの入賞が3人ってわけじゃない。逆にいうと、入賞者が出ない時もあったんだ。ちょっと変わったコンクールでね。」


 へ~。コンクールにガラコンサートがついてると考えればいいのかな。俺としては、是非、本選にのこりたいけど、この方式だとかえって難しいかも。まあいい、とにかく2次の曲、練習が足りてない。


エドが帰り際 握手してきた。


「カイト、この間はありがとな。君は本当に子供あしらいが上手だね。うちの子達も大ファンになったようだよ。9月からは、フリードとフェリックスは一緒に学校に通う事になるけど、フリードにも勉強を教えてあげてくれな。」


 いやいやいや、俺は自分のために、フェリックスと絵本で勉強を一緒にしただけ。それに、一緒の学校へ行くって、エドの家はここからは微妙に遠いけど。


 クラウスを見る俺は、頭の上に疑問符が4つぐらいついてたのだろう。わかってくれた。


「カイト、私はフェリックスと一緒に暮らしたいけど、公演旅行とかあるので今は無理なんだ。

で、養育は香澄がする。でもそこで揉めてた事は知ってるよな。」


 そうそう。香澄さんは出来ればイギリスの伯母の処へ行きたかったらしい。フェリックスの言葉の事を考え、それは断念したらしいけど。できればミュンヘンから離れた都市で暮らしたいって言ってたんだけどな。それにしても、彼女は日本の自分の実家には絶対帰りたくないそうだ。面倒なもんだな。女子ってさ。


「フェリックスが、フリードと一緒の学校に通いたいと、香澄に駄々をこねたらしい。で、香澄が折れた。でも、家はエドの家の近くで見つけ、そこから通わせるそうだ。ヤレヤレ。部屋探しが大変なんだけどな」


 急転直下、鶴の一声、泣く子と地頭には勝てない なんて、言葉が俺の頭に浮かんだ。香澄さんは子供のためなら、クラウスと同じ市内に住むのがイヤでも、我慢できる。さすが母親。


 ジョン・ポールの事は、俺からは言うのは筋違い。それに彼に関しては確実ってわけじゃないから。ゲイで少年愛好者だなんて。アメリカのあの有名な歌手が、その疑惑で裁判にまでなったっけ。こっちにきて思う事は、子供の権利がすごく大切にされてるって事だ。


 例えば、俺とフェリックスが二人だけでいたら、警官に職務質問されるかもしれない。なにせ、アメリカでは、車に子供を留守番させただけで、”虐待の容疑”が、かかるくらいだ。



週一更新。更新は土曜か日曜の深夜です。

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