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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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バンドの仕事がはいる

カンマーオケとの練習は、音楽的な収穫は、思ったほどでもなかった。

俺的には、いろいろ収穫があった。


ただ、さすがに疲れた。月曜日になっても、その疲れが少し残ってた。

弦楽器・バイオリンのおばさま方の、お喋りにつきあわされた。無論、お酒つき。

彼女らの話しは、俺についての話しから、オケの身内の噂話、音楽関係の質問、

はては、音大志望の子の進路相談まで、その話題は目がまわるほど、いろいろあった。


”新藤君、背か高くて、がっしりしてて、頼りになりそう。

こういう息子、欲しかったわ。力仕事とかなんでもできそう”

とか、チヤホヤされまくり。ちょっと方向が違うけど。


彼女らは、俺の大ファンになってくれた。

(いつか、ソロリサイタルを開いたら来てくれるかな・・)



例の”辻岡の恥ずかしい写真”は、本人の必死の頼みで、消去した。

まったく。酒で2度、失敗してるのに、懲りない奴だ。

辻岡は天真爛漫でしかも忘れっぽい。


彼のトランペットの音は、明るくてしかも軽いんだよな。

絶対、性格がでてるな。


ー・-・--・-・-・--・-・--・-・--・-・-・--・-・--・-・-・


ところで、本選の曲が 伴奏必要なんだ。テレマンのトランペット協奏曲と

Aジョリベのコンチェルティーノ。

テレマンの曲は、2次予選と同じだけど、ジョリベの曲は難敵だ。


150人の中の6人ほどが本選に選ばれるわけだから、自信はあまりない。

前回は、2次予選で落ちた。

3年たって、少しは上達してるのは、わかる。

でも、才能のある若手の音を聴くたびに、ガックリしそうになる自分を

立て直すのに必死だ。

難しいパッセージを、すぐこなすやつ。やたら音のいいやつ。

周りはそんな奴で一杯だ。


セリナちゃんと別れた後、俺は個人レッスン室を借りにいったけど、満室だった。

今日は、外で基礎練習をしようか。

カフェテリアから外を見ると、生憎の雨。楽器は当然、ぬらしちゃまずい。

もちろん、サイレントをつけて家で練習する手もあるが、

今日は森岡先生に出された課題をの整理かな。


図書室で、ジョリベに関連した本を探し、その日は早めに帰った。

家で、一気に読むぞと意気込んだが、”メシアンと共感覚”なる本で、撃沈した。



メシアンは、例えば、音が色で見えたり、色で音が聞こえたりする”共感覚”

の持ち主だったそうだ。そこからして、俺はわからない。

クラッシック番組で、あるピアニストが、

「バッハのこの曲は、赤い色がみえる」

なんて、電波な事を言ってたのを思い出した。共感覚って、ああいうことかな。

俺も体験してみたいなと、ちょっと勉強してみたんだけど。


面倒な事を考えてるうちに、脳が拒否反応を起こしたのか、睡魔を起動させた。

つまり、俺は机につっぷして寝てたらしい。

スマホの着信音で、起こされた。

へーへー 今でます。俺は よだれを手で拭う。まだ半分、頭がおきてない。

吹奏楽部の先輩からで、TVの歌謡番組のバックバンドで、吹いてくれないか

という、ありがたいバイトの話しだった。

持つべきは、頼りになる先輩。


バンドメンバーのトランペット奏者が、急な胃痛で救急車で運ばれたそうだ。

胃潰瘍で穴が開きかけてるとかで、緊急手術になったとか。

本番前に緊張したせいとか?

俺も緊張するっていうか、本番前に緊張しない奏者って殆どいないと思う。

ー・-・-・--・-・-・--・-・--・-・-・--・-・-・-・


夕暮れ時、仕事帰りの人が多い中、

俺はコンビニでオニギリとお茶を買い、電車で出勤だ。

コンビニ・オニギリ、普段は3個は軽いけど。

お腹すいても、満腹すぎても吹けないから、夕食はオニギリ一個だけにした。


TV局につくと、バンドのマネージャーから、楽譜を渡され、日程の説明があった。

「本番収録は夜10時から。録画で、オーケストラは、ちょっと暗めの場所になるから。

曲は。12曲、曲順とかよく確認しておいてください。

9時から歌手を入れてのリハだけど、曲は途中で終わる人もいるから。

バンマスが、その前に、12曲通しの稽古を一回するそう。

今は他の番組が収録中だから、スタジオへは入れない

から気を付けてね。」


え?初めての曲を、一回の通しだけ?うわーー。

楽譜を慌ててみると、昭和・懐かしの演歌 オンパレードだ。

俺は平成生まれだけど、音大時代、老人ホームの慰問演奏をグループで

やっていた事があって、12曲のうち、3曲くらいは、演奏した事があるし、

3曲は、候補に上った曲で聞いた事がある。

でも残りの曲は、まじ、新曲だ。


「君が、代役のトランペット奏者だね。コルネットは、

今日のリハの音を聴いてみて、使うかどうか、決めるから。

突然だけど、よろしく頼みます」


頭が、若干、バーコードハゲに近くなってる恰幅のいい男性は、バンドマスターで

いわゆる指揮者だ。彼も急な事態であせってる。

もしやと思って楽譜を、もう一度みると、トランペットがソロで吹くところがある。

うわ、まずい。難しくはないけど、さらっておかないと。

俺の心臓は、もうドキドキし始めた。オニギリをお茶で流し込むように食べた。


リハが始まり、俺は緊張の中、演奏した。初見でトップを吹けだなんて、無茶。

新曲の6曲に神経を集中させ、タイミングを無理やり体に覚えこませようとした。

”ここは、たららら~って、バイオリンがおわった後をついで、かるく旋律”

俺は、ブツブツいいながら、楽譜に書き込み。

周りは俺の鬼気迫る様子に、ドン引きだったようだ。


歌手を入れてのリハは、時間より遅れて10時半になった。

前に収録してる番組が、収録が伸びたせいだ。

それでも30分遅れは、収録では、ほぼ時間通り なのだそうだ。


本番では、オペラのオケピットのように、バンドのいる所は薄暗くなり、

楽譜だけを照らすライトだけが、頼りだった。

歌手の人達は、リハと打って変わって、明るく笑い、また、曲の悲しい部分では、

本当に悲しそうな顔をして、しっかり声だけはでてる。

演技も必要なんだ。

バンドマスターは、歌手の歌う癖に合わせ、テンポをゆらす。

時には、歌いすぎてテンポをのばした歌手を、先導するように指揮してる。

俺は経験ないけれど、オペラのオケって、こういうふうに、進むのかも。


緊張の収録も終わり、俺はバンマスからタクシーチケットとギャラをもらった。

もう12時過ぎだ。これでも早くおわったほうだとか。

ギャラは、3万円もいただいた。ありがたや。

バンマスから、またよろしくと、挨拶された。またっていつ??


詳しい説明がないので、社交辞令なのだろうな。




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