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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
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本選に残れるのか。

 コンクール一次予選。俺は一日目の、最後から2番目。1日目の最後は、昨日、宿で俺にイチャモンのようなアドバイスをくれた、ドイツ人のヨゼフ・シュミット。彼の演奏は、”これがドイツ人ヒンデミットだ”というような、堂々とした演奏だった。


 最後のシュミット君の演奏が終わり、俺は今日のコンテスタントの演奏の録音が、上手く出来てるか、階段のスミで確認していた。音は小さいのに、関係者らしき人から”ウルサイ”と追い出しをくった。二日目の人が練習するのに邪魔だそうだ。聞こえないはずだけど、出番が明日のコンテスタントには、目障りで苦情がでたのか?


 ホールを出たには、夜の6時時すぎで、外は薄暗かった。若干、心細い。まさか迷子にはならないよな。ちょうど交差点の処で道を確認してると、声をかけられた。コンテスタントの、シュミット君だ。宿が同じだから、俺はちょっとホっとした。迷子にならずにすむ。


「hi ! ええとカイト・シンドウ。今日は、いろいろ大変だったよね?」

「あの、たしか7番目の、ヨゼフ・シュミットさんですね。演奏、すばらしかったです。」


 ちなみに、俺が独りなのは、演奏が終わるとすぐに、エドは宿をひきはらい、そのまま最終の列車で帰ったから。”やれやれ、今回の伴奏は綱渡りだった。コンクール、最後までいたいけれど、明後日は仕事が入ってるのでね”エドは残念そうにしてた。ちなみにシュミットさんの伴奏者は車できたとかで、やはりすぐ帰ったそうだ。


 お互い、一日目が終わり、体は疲れてるはずなのに、今日の事を話しだす止まらなかった。頭がへんに覚醒してるというかハイテンションだ。もう夕食の時間が近いのに、途中、立ち止まったりしながらの帰り道。本当はライバルなんだろうけど、なぜか打ち解けで話しをする事が出来た。本番が終わり、ホっとしたからかな。


「さっきの話しの続き、気になるだろうから教えてあげるよ」

いや、全然。俺は今まですっかり忘れてた。今日は練習・リハ・本番と、めまぐるしく時間がすぎてったので、逆に本番も緊張をあまりすることがなかった。

空いてる時間は、他のコンテスタントの演奏をゆっくりききたかったけど、なにせ課題のヒンデミットのソナタは、普通15分くらい。舞台袖で聴くのが、やっとだった。


「気にはならなかったよ。それより、本番前の事務局の不手際にふりまわされ、それどころじゃなかった」

 海外コンクールってこんなもの?俺はあと3つ、コンクールにエントリーしてるけど。少しかは慣れるだろうか。


「このコンクールって最近、始まったばかりだしね。いろいろ不慣れなんだろう。資金ぐりも大変って噂も聞いたから、そのうちなくなるかもしれない。てっとりばやくスターを生み出そうと懸命だってさ。コネを使ってエントリーする人を集めてるんだ。私の先生は、ドイツでもかなり有名な先生。審査員の一人とも顔見知りだから参加を決めたんだ。先生が。」


 先生が決めた ってとこが笑える。俺と同じだ。

 

 シュミット君”有名”ってとこを強調するあたり、子供っぽいというか。俺より一つ下なんだけどな。体つききは大人だけど。


「俺の先生はバイエルンフィルの...」と言う途中でさえぎられた。

「知ってるよ。クラウス・シェーンバッハ氏だろ。実力はあるからそこは認められてるけどね。ただ指導力は君の成績にかかってる、ってとこかな」


 ちょっとまて。先生の指導力のレベルは、俺にかかってるのか?責任重大じゃないか。2次予選で落ちたら、顔をつぶすことになるのか?まずいな。本選に残れるかなって、動揺してきた。実は今までは、先生の”腕試しに”という言葉をうのみにして、2次の合格、不合格を真剣に考えてなかった。いや、演奏の終わったいまさら遅すぎなんだけどさ。


 茶色に髪を、きれいにまとめ、とび色の目をいたずらっ子そうに動かし、ズケズケものを言うヨゼフ・シュミット。悪気はないのだろうけど、ちょっと疲れる。


 歩いてるうち、やっと宿が近くなり、湖からの風で少し体が冷えた。はやく部屋に戻ろう。確か、宿では一人部屋を用意してくれてるはず。


「結局さ、このコンクールって、一次の書類とDVD審査で大部分、落とされてるんだ。審査員の顔見知りの先生の弟子、他のコンクールでの成績の有無でばっさりきられるんだ」


 俺はさすがにビックリした。つまり、コネでつながらない人や、コンクールでいい成績を収めてない人は、1次は通らないって事だ。どおりで、記念参加のような”あまり上手でないコンテスタント”が、いないはずだ。


 でも、それってどうなんだ?DVDでは、録音の技術で音の良しあしが変わるし、才能があって上手でも門前払いされる。


 俺が考え込んだのをみてヨゼフは


「うんうん、わかる。hr・シンドウの考えてる事。ショパンコンクールだって、書類審査がなくなったって、姉さんが言ってた。ただ、1次である程度きらないと、審査員のほうが大変なんだ。日程が長くなれば、コンテスタントの金銭の負担も増える。しょがないよ。」


「すごいな、なんでも知ってるんだ、俺の事はカイトって呼んで」

「君が無知すぎだ、カイト。私の事はヨゼフでいいよ」


 明日は2次予選二日目と結果発表。その後、一日おいて3次予選だ。明日はコンテスタントの演奏を聴くか、練習するか。正直、トマジのトランペット協奏曲は、生のオケと合わせた事がないし、エドともあまり合わせられなかった。CDにあわせ演奏してたりしたけど。あと部分的に難しいところ(っていうか難しい処だらけ)は、ピックアップして特訓した。


 俺がトマジの曲についての不安をもらすと、ヨゼフと曲についての話しになり、ちょうど宿についた。


 食事は一緒に取り、その間もトマジの曲の話し。食事後は、ふたりで、楽譜広げてミニ研究会だ。コンクールで競う相手なんだけど、なんだかなごやかムード。個人的な事もいろいろ話した。ヨゼフは、大学4年で、すでにコンクールにもいろいろ出てるとか。俺のエントリーしてるコンクールでも会えそうだ。俺が1次予選でオチなければだけど。アイツは、ヨゼフは大丈夫だって気がする。彼の音は音色がキラキラしていて、発声がいい。1次は通るだろう。


 それよりだ。俺は2次予選通るのか、正直、”大差で悠遊通過”ではないだろう。

*** ******  **** **** **** ****


 二日目は迷ったけど、俺は練習に専念する事にした。事務局経由で街の教会が、平日だからと場所を練習場として無償で貸してくれた。そこへヨゼフと向かう。一日目のコンテスタントは全員、練習をしてる。


 正直、教会だと響きすぎ、とか思ったけれど、実際の建物には、お御堂の他にホールがあって、そこで練習する事が出来た。そこも残響が長いところだったんだけど。


「トマジの協奏曲って、忙しいよな。ミュートをとっかえひっかえで、しかもテンポもはやい」


 そうなのだ。しかもトリッキーで自由そうに演奏出来そうで、拍子がかっちりしてる。俺はこの1楽章で大事なのは、”間”だと思う。トランペットのファンファーレのようなフレーズのあと、まるで打楽器のように弦楽器パートがピッチカートをいれる。もちろん、楽譜では休符は書いてあるけれど、ポンっとあいの手のように入る。


 休憩を入れながら必死に練習。明日は休みでその分、今日練習頑張っても、本番に影響しない


 練習を終え、宿にもどると部屋の電話がなった。

 ”2次の結果が出ました。コンテスタントの皆さんはホールへどうぞ”


 ホテルのこんなサービスで、俺とヨゼフがあわててホールに向かったのは、夜の9時をすぎていた。俺とヨゼフは合格、本選出場が決まった。


 とりあえず、最低限の面目はたてることが出来たようだ。 


土曜日深夜(日曜日午前1時ごろ)更新します。週一のペースです

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