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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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‎アマチュアオーケストラと一緒に (改)

練習は、夜7時開始ということで、辻岡と俺は、30分前に

練習会場になる音楽ホールについた。

アマチュア・オケのメンバーは、数人が管楽器奏者の席を作ってる。

ホールは、200席の小ホール。

俺は、手を叩いて、残響を調べてみる。・・あまり響かないなホールだ、、ここ。


「まだ、団長さんも指揮者さんもきてないな。

そうそう、簡単にこのオケの説明をしておくわ。

名前は、カンマー管弦楽団、出来て3年目。

市内の音楽祭とかでの演奏経験はあるけど、定期演奏会は今回が初めて。

指揮者さんは、市内の吹奏楽団の指揮者をしてる人だそうだ。

レベルは、まあ、出来たばかりだから・・」


マスクをした辻岡は、そこんところは、はっきり言いたくないらしい。

って事は、つまりは、ヘタ なんだな。

席に座って出番を待つ間に、団員がポツポツでてくる。

仕事帰りに、まっすぐこっちに来た人もいるようだ。


「まったく、前歯2本、差し歯にするんだろ?

本番前の練習とはいえ、仮歯をなくすなんて、うっかりにも度がすぎる。

しかも、コンクールをひかえて、自分の練習そっちのけで、

協奏曲のソリストをひきうけるって、

よっぽど自信があるか」


俺は冗談で言ったつもりだったけど、辻岡にギロっと睨まれた。


「ここの団長がさ、俺の恩師でね。頼まれて断れなかったんだ。

確かに練習にはなるけど、ホール自体小さいからあまり参考にならないかもしれないし。」

辻岡は、はぁ~とため息をつきながら、ガックリしてる。


「悪ぃ。俺もさ、コンクールの課題曲、まだまだ、これからなんだ。

ちょっとアセってるんだ。伴奏者も変わったしね」


二人の間の微妙な空気だな。同門でライバル。これからお互い、

しのぎを削る戦いに入るんだ。そう気がつくと、余計気が重くなってきた。


なんとか雰囲気をかえようと

「コンクールの課題曲だからこそだ

オケとあわせるのは、いい勉強になる・・はず」


なんだその”はず”て語尾は。辻岡の奴、目をそらしてるし。


団長がやってきて、挨拶する。辻岡の前歯がない事について

前もって、メールで説明したそうだけど

辻岡の恩師という団長は、高校時代の部活の顧問だそうで、今、

前歯の事について、説教されてる。理由が理由だからな・・同情できないし。


ちなみに辻岡は、今は笑わなければ、”ちょっとかわいいイケメン”だ。

すこし染めた髪を、無造作にカットしたようなヘアスタイル。178cmの俺より

少し低い身長。女子もうらやむスレンダー。コンパではお酒を飲まなければ、

女子にもてる。辻岡はアルコールがダメな体質だそうだ。


指揮者との打ち合わせが始まった。本番の指示だけど俺も聞かないと。

打ち合わせのため、ステージにあがった。



定期演奏会、最初は弦楽四重奏と木管アンサンブル、

次がハイドンのトランペット協奏曲、メインはモーツァルトの交響曲40番。


俺は所詮、今日だけの代役、演奏プログラムに口をはさむ気はないけど、


ハイドン、モーツァルトは難しい。

これは、俺が学生オケに入ってた時に、しみじみ身に染みた。


ある定演で、オール・モーツアルト プログラムになった時があった。

バロックや古典派の曲は、管楽器はあまり華々しく活躍しない。

弦楽器奏者のほうからの、熱心な提案に押された。

モーツァルトがやたらはやっていた年だった。


結果、俺たち団員は、演奏で汗をかくというより、冷や汗をかいた。

音が少ない上に、和音も単純で調和がとれてる。

すこしのズレも許されない雰囲気にのまれてしまった。

結局、この定演はあまり成功しなかった。


「モーツァルトが、綺麗じゃない。和音が揃ってない」

なんて、アンケートに酷評をいただいたりもした。

(学内のホールだったので、聴衆は主に音大生)

その後、このプログラムへの批判から、弦楽器と管楽器で仲たがいする

という、イヤなおまけつきだ。


カンマーの皆さんは大丈夫だろうか・・


演奏が始まり、待機してる俺の耳にリズムも音程も不揃いな弦楽器の音が

入ってくる。ああ、やっぱりな。

俺は自分の演奏の前に、指揮者にかけよった。

途端、団員が不安そうに顔を見合わせてる。


後でわかった事だけど、それは、

”自分らの演奏の未熟さ”を心配してではなく、

”団員が少ない事にソリスト(俺)が、怒ってるんじゃないか”って

心配だったそうだ。


そうそう、演奏してる団員は、最初は歯抜け状態。

弦楽器は、ボロボロ人がいない。例えばビオラは一人だけ。コンバスは0.

管楽器も、フルート0、ホルンも一人たりない。

仕方ない。土曜といえど、仕事で遅くなる、どうしても抜けられない、

そんな事はよくあるだろう。


「今日は、ソロとオケのタイミングをつかむ練習ですね。

だから、もう少し、テンポを遅くしてリズムだけは揃えましょう」


若干、背が低く小太りの指揮者さんは、温厚な性格のようだった。

俺の”テンポを遅くする”って、提案に 喜んでのってくれた。


俺がプロのトランペット奏者になれなくて、普通の会社に勤めたとする。

せっかくだから、オーケストラに入る。で、こういうレベルだと

さすがに、(ばからしくて)やってられないかもしれない。

それとも貴重な演奏の場と わりきれるか・・


ー・-・-・--・-・-・--・-・-・-・--・-・--・-・-・-

練習後は、慰労会をかね居酒屋で飲み会。(ちなみに、辻岡の実家で一泊)

俺は最初に辻岡に

「お前、今日、酒、禁止」


”え~そんな無茶な”って声は無視。

団員さんとと話しをするうちに、俺は自分が、オーケストラや吹奏楽団

にいて、楽しかった事を思い出した。

費用をなんとかやりくり、チケットやポスターも自分たちで作った。


俺はビールを飲みながら、ちょっと思い出に浸っていると、隣に指揮者さんが

やってきた。おっと失敗。こういう時は、指揮者、団長の側にいるべきだったんだ。


「いやはや、代役、本当にありがとうございました。

やはり、テンポは遅くした時のほうが、揃ってましたが、本番はもう少し速く演奏です」

「そうですね。でも本来、アレグロの速度指示ですから、でも難しいっすね」


それを最初に、俺は指揮者さんの”お悩み相談係り”になってしまった。

いや、確かに俺はオーケストラの経験はあるけど、

指揮者の経験はそちらのほうが上なのに。

そのうち、お酒のピッチが進むうち、指揮者さんはからみ酒になってきた。

あわてて、指揮者お世話係(?)の人が、相手をかわってくれた。


指揮者と団員さんの話しによると、このカンマーオケは、ある大きな

アマチュアオーケストラを、退団した人達が作ったそうだ。

そこでは、練習が厳しく、定期演奏会も年に3回。しかも大きな曲ばかり。

たとえば、ベルリオーズの幻想交響曲、マーラー「巨人」

確かに管楽器は、めちゃめちゃ疲れる曲だけど、弦楽器のほうは、音大卒でないと

そうそう短期間に習得てきる曲じゃない。


で、そういう方針・レベルについていけない人が、退団と・・

で、バロックや古典の曲がメインになってる。


今日はまだいい。練習だから。

本番では、ハイドン、バッハ、ッモーツァルトがいかに難しいか、

身に染みるはずだ。



辻岡は、あ、やっぱ飲んだな。お酒、飲むからだ。

熟睡してる。口が少しあいて、2本の前歯のないのが丸見え。

女性団員が、その顔を見てクスクス笑ってる。

せっかくだから、寝てる辻岡の周りを女性で囲んで、記念写真を撮った。


フ・・これ、後で森岡先生に送ってやるか。


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