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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
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慈善演奏会旅行、実は田舎まわり

 金管アンサンブルグループ”フロイデ”。先生がトランペット、オケのホルン・フランク、トロンボーン・ヨゼフ、チューバ・ユンディ。それに俺がオマケだ。小型マイクロバスでの演奏旅行。実際は、演奏旅行は、移動時間が長かった。


 ミュンヘンを出発、アウトバーンを乗り降りしながら、周辺の村落の教会でのミニ演奏会。演奏会を開きながらフランクフルトでゴール、帰りは直帰。聞けば、ある教会に、ミニ慈善演奏会を個人的に頼まれたのが始まり。毎年、オケの有志が担当。手分けして回る事もあれば、今回のように、要請の半分を受け持つこともあるそうだ。


「カイト、家で留守番しててもよかったんだぞ。特に仕事もないし。」

「いえ、いい機会なので、”ヨーロッパの雰囲気”を存分に味わいたいです。」


 ドイツは北海道と空気が似てるといわれてるけど、やはり歴史の重みが違う。普段は感じないが、本拠地の宮殿でのオケの本番で、古典の曲を聞いた時、俺は、その雰囲気に圧倒された。”すごい、映画の世界だ。”と感じた。ひたすら練習はするとしても、雰囲気になれると、少しはあの世界に近づけるかもしれない。そう思って、この演奏旅行についてきたけど。人家のない処での車窓は”北海道の田舎道”だ。


 俺は何もすることがないわけじゃない。ちゃんと仕事がある。この演奏旅行はオケから派遣されたわけじゃない。個人的なものだ。それでも事務局からしっかりバイエルンオケ演奏のCDを渡された。販売してこいって事だ。後は、オケメンバーの自作CD(実費のみで3ユーロ。)の、販売もお願いされた。いや、必死に売る必要性はないのだけどね。

ただ、頼まれた以上、CDの枚数と売上高は記録しないと。俺は、出発直前に渡され、慌ててCD枚数と種類の確認。売り上げ一覧表を作った。どうもこの4人のメンバーは、そういうことには、大雑把そうだ。


 一日目の午後、ブリュネルリンゲン?(読み方、よくわからない)という村の教会で、最初の演奏会を行う事になってる。農家が近辺にちらばり、その真ん中に小さな町があった。その街の中心にあるのが教会。演奏会場となるところだ。午後のせいか人通りがない。ここの教会は、特に観光化してるわけじゃなく、比較的新しい建物だそうだ。せいぜい、80年くらい前?w


「先生、演奏会の後にCD販売の許可、教会にとってありますか?」

 俺たちははここに来る途中で買ったパンやサンドイッチを、ほうばってる。これが昼食。俺は、演奏の予定もないので、唇の状態を気にする必要もないので気軽な昼食になった。演奏後、CD販売許可を教会からもらってるか、先生に聞いてみた。


「CD販売って、あは~。事務局と団員からおしつけられたな。面倒なら売らなきゃいいよ。ああでも、事務局のほうからのは、まずいか。カイト、一応アシスタントだからな。販売許可は、とってない。駄目って言われたらやめればいいさ」


 とても役に立つアドバイスありがとう。トホホ。多分、駄目なんて言い出しづらいんじゃないかな?それに言われたら雰囲気まずくない? っとまてと。ドイツ人は、遠慮なく言ってくるんじゃないかな。日本と違うのだから。


「自作CDはいいよ。面倒だろ。」

「いえその、ホルンのフランクとボーンのヨゼフから頼まれてますし..」


”あいつらチャッカリしやがって”という顔で先生が、平然とした顔の二人に呆れてた。


 教会責任者へCD販売の許可をお願いすると、”販売の売り上げのいくらかを、教会に寄付してくれると嬉しい”と言われた。さすがに事務局から委託されたものは、俺の一存で出来ない。

自作のCD、一枚4ユーロという事にして、1ユーロ分を寄付という形にした。どうせ売れないだろうと、俺はタカをくくっていた。


 狭い教会のお御堂で、せいぜい60人いるかいないか。俺たちの交通費・食事代・宿泊代は全部、自腹。入場料の8ユーロは教会への寄付となる。


「先生、俺も大学時代、いろいろな場所で慈善演奏会しましたけど、全部、日帰りできるところでしたよ。宿泊代も交通費も自腹なんて、キツくないっすか?」


「いいんだ。この時期、教会はお金集めする時期なんだ。で集まったお金はいろんな慈善団体に寄付される。1年に1度くらいは、このくらいのボランティアしないと天国へいけなくなるかもしれないからな。日本ではどうなんだ?」


 そういわれてハタと困った。日本の教会の事は知らないけど、歳末助け合い運動とか、後、地震や洪水被害のあとには、TVではよく寄付をつのってた。電話をかけるだけのアレだ。ドラエ◎ン募金とかいう。先生にそう説明すると、興味深げに聞いてた。

*** *** *** *** *** *** *** *** ***


 演奏の前、俺は忙しかった。教会担当者と話しながら、イスを並べたり、あと販売コーナーを整えたり、入場料をいただくスペースを作ったり。入場係は教会のほうでしてくれる。


 演奏が始まった。教会での演奏にふさわしい曲目を選んだのか、聞き覚えのある曲から。”主よ、人の望よ喜びよ”だっけ?バッハのカンタータ。俺も昔よくやった。オケでもアンサンブルでも、定番の曲だった。あと、讃美歌が数曲、アベマリア。休憩をはさんで、後半の曲はドイツの民謡・童謡の演奏だった。


 俺はさすがにびっくり。小学校で習った”かえるの歌”が、ドイツの童謡だったなんて。

聞き覚えのある曲が半分のプログラム、最後は曲の日本語の名前が出てこなかった。幼稚園で歌う曲だ。ドイツ語曲名は「さらば冬の日よ」まさしく今の時期にふさわしい。


”お疲れさまでした”ってドイツ語・英語に訳しずらいだよな。good job じゃ上から目線だし。

まあ、演奏会なんで”素敵な演奏でした”くらいの言葉で本番後のメンバーを迎えた。


「おおよ。カイトがMCやってくれると助かるだけどな。まだ無理そうだな」

「四角四面のドイツ語になります。ユーモアとかは無理ですね」


 クラウス先生、ご機嫌だ。まあまあ盛り上がった演奏会だった。

 

 俺のほうは、忙しくなった。演奏が終わり、何人かは茶話会のようにノンビリ話しをしてるし、急いで帰る人でも、CDを見ていていく人が多い。俺はわかりやすいように、CDの値段と寄付の分を紙にかいておいた。


「4ユーロなんて、安すぎない?怪しい。」

さっそく値段を突っ込んできましたか。高くても安くても、疑問はでるんだよな。

「これは、自分でスタジオを借り、自作したCDなんです。だからケースとかカバーとか安っぽいでしょ。本当は3ユーロでは赤字なんですよ。でも教会の慈善演奏会で売ると言ったら、みなさん、1ユーロ分の寄付に協力してくれました」


 あーあ。俺って調子いいよな。


 大忙し、てんてこ舞い。売り上げをなんとか記録し、もちろん、一枚につき1ユーロ、キチっと寄付した。信者の人が寄付のかわりに、自作CDを買っていくパターン。


 教会のほうからは、夕食をご馳走するからとお誘いがあったけど、これから夜の演奏会のある場所にむけて出発。メンバーは上機嫌だ。こんなにハードスケジュールなのに。バスの中でよくみると、寝ていたり、お喋りしたりとメンバーは楽しそうだった。


 これって小学校の遠足気分なのかもな。

土曜日深夜(日曜日午前1時ごろ)更新します。修一のペースです

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