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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
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俺の身分@ミュンヘン

ヨハン君親子が帰った後、俺はシェーンバッハ先生に、簡単なレッスンを受けた。


「カイトの音、丸くて心地よいけど、時々、微妙な音が混じるな」


 俺の音階練習を聞きながらの指摘、”微妙な音”って処がわからなくて、苦労した。最終的に先生の出す音と自分の出す音を聴き比べて、納得した。言われてみると確かにそうなんだ。俺の音階練習で、たまに、ほんの少し音程がずれてる って処があった。練習不足のせいかな。それとも、俺の耳が 本気出してないとか。俺は楽器を拭きながら、今日は曲を見てもらうのは無理かもしれないと、ちょっと落ち込む。


「多分、楽器のせいもある。明日、知り合いの楽器店に行こう。カイトの楽器は、吹きこなすのが難しそうだ」


 それからは、音階と分散和音の自主練習。音を注意深く聞きながら、チューナーを見て。針がぶれないようにする。神経使うのは当然。夜、遅くになって先生が音楽室に顔を出し、「ちょいと小腹がすいちまったぜ。サンドイッチねえか」と...今度は下町言葉を覚えたんだ。

覚えた言葉は、すぐ使いたいよな。うん、気持ちはわかるけど、ホームベースのような顔で、もじゃもじゃの茶髪、ホリの深い顔の先生だ。何か、口調が怒られてるふうだ。


「あいよ、10分くらい待っておくれな」と下町の女衆の言葉で返したが。少しは先生の時代劇で覚えた言葉を使いたい気持ちを、かなえないとね。大事なのは、その言葉を今の時代の日本語に変えて覚えてもらう事。夜食は、ピザトーストをやいた。食パン、チーズ(溶けるタイプ)、ピザソースに、ピーマンとタマネギのスライス。パンの上にのっけてオーブントースターでやけば、出来上がり。夜食には若干脂っこいと思ったけど、俺が食べたかったから。


”香澄はこれ、作ってくれなかった”なんてボヤいてる。香澄って奥さんの名前?多分、ご主人の体を思うなら作らないかもね。栄養がある反面、脂肪もおおいから。

*** *** *** *** *** *** *** ***


 それから1週間、俺は目が回るほど忙しかった。


 まず、先生と一緒に楽器店に行った。古い商店街にある金管楽器を中心にとりあつかってる店だった。俺は腹をくくった。楽器店のご主人は、ひげ面のもっそりした初老の男性。商店主というより楽器作り職人のような印象だ。俺にあう楽器とマウスピースを選んでくれた。俺としては、使い慣れた今のマウスピースでいきたいんだけど、と、店主に相談した。


 何度か、試し吹きすると、B&Sのトランペットのほうが、俺の愛器より数段上というのを実感、喜んでお買い上げした。60万。+消費税。これでコンクールで成果が上がらなければ、俺、泣いちゃうかも。


 あと他にいろんな手続きが残っていた。まず、ミュンヘン市の滞在許可。これは市役所でとるのだけど、火曜日以外は午前中だけなんで、さんざん道にまよったあげく、閉まる時間の1時間前に市役所に到着(朝早く出たのに、降りる場所を間違えたとか、いろいろやらかした)


 車の国際免許も日本領事館へいって、面倒な手続きをしてきた。インターネットの手続きをし。携帯も買った。これまでのスマホでは、俺のように長期滞在すると、高額料金になる。


 ついでに日本食も少し仕入れた。パンもいいけど、やっぱり米の飯が食べたいときがある。本当は炊飯器で炊くといいのだろうけど、そこまで、お金を使うのはイヤだ。レンジであたためて食べるご飯をみつけ、買った。ただし、高いので”どうしても米の飯が食べたい”時だけにしよう。


*** *** *** *** *** *** ***


 やっと諸手続きが終わって、オケの本拠地のヘラクレスザールへ行くと、ドアを開けるなり、事務局長によばれた。


「カイト君、休むのなら期間と理由を事前にいってくれ。君は一応、アシスタントの身分とはいえ、事務局に属してるのだから」


「は?」

と、俺は固まってしまった。まず、言われた事を必死に理解するまで1分。俺の予定は、先生に一覧にして渡した。見落としがないか、何か注意点がないか、見てもらうためだ。特に何も言われなかったけど。


 事務局長は、頭が鳥の巣のようで、中肉中背のがっしりしたおじさん。その鳥の巣頭をグシャグシャとかき混ぜ

「ヘル・新藤、君はこのオケの事務局見習いという事で、インターシップの手続きをしてある。ほら、ネームに書いてあるだろう?」


 ネームを自分でとりあげ、よく見てみると、確かに研修生 と書いてある。俺は、先生の弟子でインターシップをとったんじゃなかったのか?俺は事務局には行動予定は言ってない。でも、俺は事務見習いなら、無断欠勤した事になる。おそらくシェーンバッハ先生は、こういうフォローはしてくれないというか、気がつかないのだろう。


 俺はとにかく謝った。そして自分の立場を知らなかったと弁明した。かなりたどたどしいドイツ語だけど。事務局の部屋に他のみんなのため息が蔓延した。


”おい、クラウスは言ってなかったみたいだぞ””しょうがない、アイツのやることは、先走ってばかりで、周りは尻拭いだ””この子、どのくらい続くかしら”


「カイト君、君の先生のクラウスは、大雑把な人だから、どうか怒らないでほしい。」事務局長の諦め顔に、俺は不満をぶつける事も出来ない。


「わかりました。事務のアシスタントですね。なんでも言って下さい。ただ、俺、まだドイツ語が出来ないので、まだ英語のほうがわかります。あと、エントリー予定のコンクールの日には、お休みが欲しいのですが?」

当然だと思ってたら、後で困るから、なんなら書類にして確認しようかと思った。


 今日は夜から、オペラ「フォルスタッフ」が始まる。学生は安い料金で観劇できるので、見るつもりでいたけど、仕事があるなら、そっち優先だ。



土曜深夜(日曜午前1時ごろ)更新します。週一のペースです

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