表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
58/147

海人のカは家政夫のカ、汚部屋で飲み会。

 音楽室でいろいろ話した後、”歓迎会はリビングでやるから”と、簡単に言ってくれちゃってる先生に、驚きを通り越して ある意味感心した。まあ、本人が大丈夫というなら、ほうっておけばいいと少し思ったが、内弟子(住み込みの弟子)って、掃除とかする。マンガに、そういうシーンがあったのを思い出した。


 昼食後、俺はリビングの掃除を決行する。床の見えないリビングをなんとかする。

ちなみに、昼はパンとソーセージを焼いたもの。俺が焼いた。後、野菜がないので、先生に聞くと、”マッシュポテトが食べたいと。”しらねえよ俺。そのマッシュなんたらっての。ジャガイモをゆでただけでいいだろうと、それにバターを添えてだしたら、喜ばれた。


 午後は先生との不毛な会話で始まった。


「あのリビング、ソファ以外、座るとこないじゃないですか。ダイニングセットも、物であふれていて使えませんよ、テーブルは、飲みさしのボトル、食べかけのピザ、新聞。見事なまでに、隙間がなく、雑多なもの(多分ゴミが殆どとみた)山もりになってます」

ソファは大きくて、つめれば6人は座れるだろうけど。


「大丈夫だ、なんとかなる。ひさびさに私の家で飲み会が出来るので楽しみだ」


「なりませんよ。リビングで飲み会は無理です」

ソファのそばのローテーブルも、ダイニングテーブルと同じく、その機能を果たしてない。


 英語とドイツ語、時々侍語をまぜながらの会話でも、意志疎通がうまくいかなかった。

公園(雪がちらついて寒い)へ散歩へ行くという先生を、押しとどめ、リビングと台所の片づけを始めた。


 まずは片づけ途中だった空き瓶・空き缶拾いから。ここは室内なのに。脱ぎっぱなしの衣服などは、ひとまとめにして、ソファに置いておいた。新聞と雑誌は、リサイクルゴミで無料でだせるようなので、ひとまとめにした。食べ差しのものは、”まだ食べる”という先生の主張を無視して、ゴミ箱行。先生は、カビのはえたパンは、平気らしい。これって、ブルーチーズのアオカビとかで、平気になったのかな。書類っぽいものや、手紙はまとめておいて渡した。中に、日本語で差出人が書かれた手紙を見つけた。封は切られてなかった。


 先生はソファでその書類をみて、必要のないものは床に落とした。せめてゴミ箱にいれるか、俺に渡すかしてほしい。鷹揚で何もいわない先生が、急に無表情になった。手にはあの未開封の手紙をもってる。しばらく開封するかどうか迷って、結局、戸棚の引き出しにそのまま入れた。こういうのは、俺は興味を持つ事自体、NGの事項だろうと思う。手紙はもっとも個人的なものだからな。


*** *** *** *** *** *** *** ***

 「家にみんな来てくれて、今日は楽しかった。みんな、最近、うちに寄りつかなくなった。きっと私に気を使ったのだろうと思う」


 飲み会が終わり、先生はそういってたようだけど、俺は別の意見。正しくは、先生の家に来たくても来られなかった、だろう。なぜなら、ゴミが一杯あふれてて居場所がないからだ。


 飲み会では、なぜか俺は台所で、ソーセージ茹で・焼き係になった。それと明日の朝と昼の食事の事を考え、ニンジンとか手あたり次第、野菜をたくさんゆでて出した。味付けはなし。残るだろうと思ったのに、殆どなくなってしまった。ワインは、この家にワイン貯蔵庫があるようで、飲み会メンバーは勝手に地下室へいっては、何本かもってきては遠慮なしにガバガバ飲んでた。


アゴヒゲをはやした大男さんから”すばらしいハウスキーパーだ”って言われ、”家政夫じゃねえし”と否定するが、笑って背中を叩かれた。マジに痛かった。オケ団員だそうだ。”銅鑼ドラ叩きます”の風情のその男性が、実はフルート吹きと聞いて、俺は飲んでたノンアルコールビールを噴出した。



 当然の事だけど、俺はまだ皆のドイツ語会話がわからない。ところどころ聞き取れるぐらい。その中で、空港まで迎えにきてくれた女性(名前は忘れた)が、


”クラウスにとって、あなたが10人目の弟子ね。なるべく長くいてね。”とクスっと笑われた。

飲み会は、俺以外は、盛り上がった。俺は盛り上がるどころか、台所仕事で忙しかった。

*** *** *** *** *** ***


 飲み会の後片づけ(当然なように、俺一人でかたしてる)しながら、彼女にいわれた10人目の弟子に関して、先生に質問した。


「先生、家に住み込みの弟子が、俺で10人目なんですか?」


「うん、そうだよ。音楽室で教えてるのは入門レベルか初級レベルのアマチュアだけなんだ。

それもいいけれど、同時に自分の処から著名なトランペッターを出す事に、魅力を感じた。で、弟子を取る事にしたのだけど、どういうわけか、みんな短期間で辞めていった。短い弟子は2日で出ていった。まあ、その彼は特別に神経質だったようで、なぜだか私はだいぶその子に怒られたよ。だらしなさすぎると」


 と、俺は頭の中で右往左往しながら、なんとか理解した(気がする)。そして二日で出て行った人の気持ちもよくわかる。今日のリビングの掃除で、かびたパン。賞味期限切れの牛乳、色がかわったあやしい肉、鳥の骨、食べかけのカップヌードル。これらがリビングで発掘されたら、だれしも悲鳴をあげるだろう。


 リビングには楽譜は一つもリビングになかった。きっと音楽室にあるのだろおう。そこは、賞賛すべきかもしれない。(賞賛のハードル低!)

 

 片づけが終わり、ソファで俺はバテてた。午前1時になると、さすがに眠い。時差ボケで午前中は少しだるかったけど、今は疲労困憊してだるい。夜はぐっすり眠れそう。

 

 アルコールは、俺は誰からもすすめられもしなかった。飲み会の仲間は、いわば手酌で好き勝手で飲んでた。こういう気づかいのなさが、かえって俺は楽な事に気がついた。


俺の歓迎会という名の”飲み会”は、俺と先生を入れて15人。夜の8時ごろから4時間くらい続いた。”明日は仕事に出ないといけないから”と、みな、お酒は控えめだったと聞いたが、そこははなはだ疑問だ。運転手役の人以外は、みなデロデロに酔ってた。お酒に弱いわけじゃなく飲む量が半端じゃないのだ。せっかく片づけたビールの空瓶が、あっというまにリビングで増殖してしまった。


「カイト、明日、オケの事務局に君を紹介するから、朝、起こしてくれ。どうも寝坊しそうだ。楽しくて飲みすぎたようだ。」


 俺、我慢だ。俺は内弟子ってやつだ。でも、これから音楽以外の事でキれる可能性大だ。


 



 


 




 

土曜日深夜(水曜日、午前1時ごろ)に更新します。週一のペースです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ