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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
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師匠との生活、一日目は話し合いから

「コーヒー、飲むか?」

 昨日の残りの冷えたピザと、ホットコーヒーが朝食。部屋の中が少し寒く、コーヒーの熱で体が少し温まる。血の巡りが少しよくなったのか、今まで時差ぼけだったのか、俺は森岡師匠からことづかった”シェーンバッハ先生へのお土産”の事を、思い出し、あわてて取りに行った、俺から先生へのお土産は、セリナちゃんが選んでくれた縮緬の紫色の風呂敷。”日本情緒たっぷりで、荷物にならない”だそうだ。


「これ森岡先生からと、こっちは俺からのお土産です。どうぞ」

と差し出すと、先生は風呂敷を、スカーフと思ったのか首にまいて、ご機嫌のようだ。たしかに、頭に巻く事もできるけど。俺は日本での普通の使い方”ものを包んで運ぶ”やり方を実演した。奥さんは風呂敷とか使わない人だったのだろう。


 森岡先生からのは、時代劇を録画したDVDだった。そうか、森岡先生も時代劇のファンなんだ。ドイツ留学中に、二人ともはまってみてたのかな。


 先生は、朝食もそこそこにDVDを見始めた。もちろん、ドイツ語の字幕・吹き替えがないので、俺がいちいち説明するはめになった。電子辞書片手に、ドイツ語と英語に苦闘した。先生が見てたのは女性の忍者くのいちの話だ。しかも時代は幕末。時代背景も説明に入れないとな。

ドイツ語での説明はほぼ無理っぽい。


「これはスグルの好きな時代劇?」

スグル・卓は、森岡先生の名前。俺は先生がこの手の話しが好きなのも知らなかった。


「俺、よくわからないですけど、ごく最近、制作された番組だと思います。出てる俳優が若い人ですし、BSで放送されたものでしょう。」


 後は、「大奥」に「武士の一分」など。ただ、先生が1本目を理解するのに、しばらくかかりそうだ。”女忍者シリーズ”は一話・1時間もなく、俺はなんとか切り抜けた。


*** *** *** *** *** *** *** ***

 それから午前中は、先生といろいろ取り決めをした。一応、内弟子という事だけど、俺は何をしなければいけないのか。


「私は、この家の音楽室で、主に子供を相手にトランペットを教えています。生徒は4人ほどですが。レッスンの時、そのアシスタントをしてくれたらうれしい。特に小さい子供は、私の顔が怖いらしく、よく泣かせてしまうので。」


 シェーンバッハ先生は、ホームベースのようなごつい顔に、広い胸、背も高いし声も大きい。それに、きっといわゆる”武骨者”なのだろう。


「カイトには、週1回、1時間のレッスンをしましょう。ただし、仕事の合間になるので、不定期になってしまいます。レッスンはもちろん無料です。それと、オケの練習はいつでも見学OKのように、手配してあります。公演旅行へも一緒に行けますが、宿泊費は払う事になります」


 

 仕事の合間をぬってのレッスン、1時間はとれないだろうな。先生の意気込みはわかるけど。俺は、ぬるくなったコーヒーを飲み干し、カップを洗うべく、ソファから立ち上がった。


「俺は掃除を担当しましょう。床にゴミがころがってない部屋くらいには出来ます。あとで、ゴミの分別方法を教えて下さい。」


 洗濯はランドリールームの洗濯機で各自で。浴室は1階。と、いろいろ部屋を案内してくれながら、いろいろ細かい事を決めて行った。で、最後に食事と家賃の事。


「実は私は全然、料理が出来ません。カイト、日本料理、何か、作ってください。食費は貰うけど、光熱費と家賃は無料にしますから」

この先生の言葉に、おれは即「無理」と断った。日本料理どころか、俺の作れるものは、ご飯を(炊飯器で)たく、と野菜炒めを作る あとは、卵かけごはん。そうそう、豚肉のすき焼きならできる。料理じゃないけど、イモをゆでる、とうもろこしをゆでる は出来る。


 音楽室まできて、ハタと思いついた。先生は日本料理が食べたいが、寿司とか天ぷらとかいわれても無理だし。しばらく無言で二人で困ってると、


「わかりました。日本料理、あきらめます。カイトの作ってくれたもの食べます。後、買い物、一緒にいきましょう。今日は日曜日休みですが、買いだめしてあります、あとは適当に。なるようになるでしょう」


 いやいやいや、俺、まじに料理できないっすから。こういう処でつっかかると思わなかった。


 トランペットの勉強にきたはずなんだけど、ドイツ語と料理の事で足踏みしてる。先生との会話はまだ、半分、英語、時々、時代劇言葉。ところで肝心の音楽室は?


 音楽室はパーフェクトだった。セリナちゃんとことタイはるぐらいだ。グランドピアノがあり、イスなどの家具もおき、何より綺麗だ。フローリングの床面が見える。まるで別世界だ。


「この音楽室は、週に2回、オケのバイオリニストのザビーネ・マイヤーが、レッスン室として借りてる。時々、仲間内の演奏会もする。使用頻度が高いので、レストルームもつけてある。」


 どうだ、とばかり先生が胸をはってる。確かにちょっとしたソロや弦楽アンサンブルならなんとかなりそうだ。防音よさそうだし、明るい。ただしだ。子供を教えるときは、ちょっとカワイクない部屋に見えるかもしれない。


 音楽室から外を見ると、ここは郊外の住宅街ってかんじで、家がポツンポツンと立っていた。そろそろ午後の1時、粉雪がちらついてきた。先生は”午後は公園を散歩”なんて言っていたけど、無理かも。


「カイト、ここで君のトランペットの演奏が聴きたいです」


 え!!えっと、まだ荷ほどきしてない。俺は慌てて取りに行き、ウオーミングアップをし、音階とアルペジオを吹く。


 ”なんの曲を吹けば”と聞く前に、先生の手がパンパンとなり、止められた。


「...ううm。カイト試しにこっちの楽器で吹いてごらん」

渡された楽器は、B&Sのトランペット、ドイツ製だ。吹いてみると、音程が取りやすい。吹きやすい。俺の愛器よりも、いい仕事をする。


 楽器は音色が命。ひょっとして俺は、楽器に無頓着すぎたか?もちろん、手入れはちゃんとし定期のメンテはかならずしてたが。


「カイト、ドイツ製の新しいトランペットを買いましょう。今度、楽器商に連れて行ってあげます。」


 これで、母さんからもらった虎の子資金、少なくても50万は一気にへるだろう...







 

週一回、土曜日深夜(日曜午前1時ごろ)に更新。週一のペ^スです。


正月なので迷ったけど、普通どおりの更新でいきます。新年最初の更新w

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