リビングは汚部屋一歩前
ミュンヘンについたその夜、俺にしてはは珍しく眠りが浅かった。いつもバタンQなんだけどな。さすがに、飛行機で寝たり起きたりしたのが、まずかったかもしれない。
シェーンバッハ先生から提供された部屋は、明かりをつけると、部屋の中の惨状に力が抜けてしまった。ほぼ物置状態なのだ。子供用のベッドやら机・タンス、家具にダンボールが上に投げ込んだように上に乱雑に置いてあった。家具類の下の床も、なにやらガラクタっぽいもので一杯だった。幸い、ベッドだけは布団も新しかったけど、地震がおきたら、俺はあの家具につぶされるのは間違いないと、恐怖だった。(ドイツもフランスも地震のない国であるけど)
ここは静かな郊外にあるようだった。とても静かな夜だった。
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スマホのアラームで起きると、まだ暗い。現地時間の設定を間違えたのかと思うと、大丈夫、ちゃんと朝、7時だった。日の出時間をググってみると、8時35分だった。信じられない。それでも、札幌より暖かいのが不思議だ。
「おはようございます、グリュースゴーット」
リビングに行くと、シェーンバッハ先生は、大型のソファでいびきをかいて寝てらした。
まあ、確かにまだ暗いけど、普通の勤め人なら、そろそろ準備するべき時間と思うのだけど。
スマホをもう一度みて、俺は大勘違に気づいた。今日は日曜日なのだ。
もう一度、寝ようか、それとも荷物の整理の前に部屋の片づけでもしようか迷ってると、ソファで寝てた先生が、むっくり起き上がった。すこぶる機嫌がわるそうだ。それに猛烈に酒くさい。リビングには、お酒の瓶が転がっていた。後、ビールの樽と。
「おはようございます、先生。今日は日曜でした。起こしてしまってすみません」
先生は大あくびをして、頭を拳でたたく。二日酔いかも。
「すまぬが、水を所望いたす」
だから、そのくらいは、英語でも通じるって。クラウス・シェーンバッハ殿下!
奇天烈な日本語の訳を追求したいけど、今はやめとく。まじ、機嫌わるそうだし。
俺は、適当なグラスをさがして、水道水をいれて渡す。そういえば、ヨーロッパの水って、硬水とかで飲料に適さないとかじゃなかったっけ?じゃあ、冷蔵庫にエビアンでもあるかな。
俺はグラスを持ったまま、冷蔵庫を開けていいか聞いたが、その水でいいというので、渡した。”かたじけない”というお礼が、かえってきた。はは...まず、何から話せばいいだろう。
先生は、ノソノソと筆記用具を持って来た。うん、俺も最初の話し合いは大事と思った。森岡先生からの話しでは、いわゆるバツ1、奥さんは日本人だったそうだ。
シェーンバッハ先生は、もってきた紙にいろいろと書きだした。
それは先生の今日の予定らしく、午前中は休み、午後からは公園を散歩、夜には家で俺の歓迎会。って、この家で?俺は”この汚部屋一歩手前ですがいいのですか”と、目力で訴えたが、通じなかった。”そうか、喜んでもらえて嬉しい”といって、俺の頭の撫でた。
いや、確かに俺の身長は先生の180cm超には届かないですけど、もう23歳だ。子ども扱いは勘弁してほしいが。175cmの俺が小さく見えるのだろうか。
ところで、リビングルーム、そろそろゴミで床が見えなくなってきている。俺の部屋には(多分、そうなるだろう)、台所の設備もシャワーもない。きっとそこの処は共有になるのだろう。
リビングも俺の生活圏に入るだろうから、最低でも”床が見えるくらい”は、掃除したい。後は台所だ。水道も使いづらいくらい使用済みの食器がたまってる。
俺の歓迎会とやらは、どこか客間ででもするつもりなのかもしれない。そういう部屋があるとすればだ。
「まだ少し、上で寝てるから。ヘル・新藤は、どうする?」
「よかったら、台所の洗い物と、リヴィングの空きビンを集めておきますけど」
もしかして、余計なお世話とばかりに、怒られるかもしれない、言ってしまってから後悔した。
日本の大学にいたときの俺は、健人もセリナちゃんも遊びに来たけど、学校に近いせいか、学生オケ関係の友人のたまり場になっていた。(ついでに打ち合わせもしたりして)だもんで、人が来ても、最低限、座れる程度には、いつもかたずけてあった。おかげでこのくらなら苦にならない。
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で、今、掃除というより、ゴミの分別に取り組んでるのだけど、クマ先生は本当に寝てる。俺はもしかして家政夫として、日本から呼ばれたとか?掃除のプロと間違われたとか?
今日1日は、掃除で終わるというか、終わらせ、練習は明日からって事になりそうだ。
そういえば、ガラス瓶は、きれいに洗わないといけないんだっけ。中学・高校と、俺は家ではゴミ出し係で、分別は母さんに厳しく教えられた。エコのさかんなドイツではもっと厳しいだろうから、最終的な事は先生に聞いてみないとな。
瓶を洗おうをして、台所の使用済みの食器の山にを思い出した。まずは、ここからか...
体を動かしだしてお腹がさすがに空いて来た。どこかコンビニを探してパンでも買ってくるか、と思った処でガイドブックにあった注意書を思い出した。
<ドイツには日本のようなコンビニはありません。閉店時間も早いです。日曜日は法律で店は休みと決まっています。どうしても必要ななものがあるときは、ガソリンスタンドに小さい店があります。土曜日は買い出しでまとめ買いする人も多いです>
今日、日曜日じゃん!ガソリンスタンドってどこ?やっと日の出になったのか、あたりをみてみても、ガソリンスタンドは見当たらない。
だめだ、もう俺、お腹すいてエネルギー切れ。コンビニがないと思い出した瞬間、気力がうせた。リビングのソファにぐったりと、沈み込むように座った。
マシに腹へった~これが、ミュンヘンでの最初の朝の感想になるのかな。俺がヘタレてるとき、階段を降りて来る足音、クマ先生がやっと起きて来た。
「ああごめん、朝飯な。冷蔵庫の中に昨日のピザの残りがあるから、それ食べて」
よかった。食べ物にありつけそうだ。
土曜日深夜(日曜日午前1時ごろ)更新します。週一のペースです




