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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
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ミュンヘンについてからが、大変だった夜

雑事をこなして、やっと今はミュンヘン行の飛行機の中にいる。


 結局、部屋は契約したままガスと電気と水道を止めてもらった。健人には鍵紛失事件の時に作った、俺の部屋の合鍵を持ってるので、空気の入れ替えを頼んでおいた。自由に部屋を使っていいという事にして。


 持ち物は楽器と楽譜だけはもれなく持っていったが、本は最低限にした。服は、向こうも冬なので、冬物を少し多めに。札幌よりかは少し暖かく雪が少ない気候らしい。荷物を作るにあたって、部屋の大掃除もかね、余分なものは処分(読んでしまった小説、音楽雑誌等)、冷蔵庫の中身は健人と一緒に、必死に食べ、中を掃除してプラグを抜いた。PC関係の契約は一旦、切った。


 学校のほうは、休学という形をとった。ちょっとムダにも思えるけど、学校側のほうから、是非残ってほしいと言われた。(森岡先生に言わせると、俺が何かのコンクールでいい成績を収めた場合、籍がある事が学校にとって都合がいいらしい。そう上手くいくかどうかは自信がまったくないが、その事は黙ってた)


 17時に羽田を離陸。 約12時間の間、考える事は一杯あった。一つはセリナちゃんの事。俺を見送りに来てくれたセリナちゃんへ、俺は”恋人にしたいほど好きだ”と、色気もロマンもない告白をした。搭乗がせまってる時間だった。これって反則だろ。俺。


 セリナちゃんからは”ありがとう。私も海人の恋人になれるよう、ピアノ頑張るから”という答え。これって、フラレたの?脈あり?よくわかんねえ。


 俺のほうがセリナちゃんより、悩まないでまっすぐきた分だけ、音楽的に劣ってると感じてる。特に知識の広さとか。要するに、セリナちゃんは、ピアノ一直線特急に乗ったのだ。康子先生の元、休んでいた分を取り返すべく、今も猛特訓してるだろう。


 考えるうちにウトウトしてきたとき、機内サービスがやってきた。さっきも食べたのだけどな。何か時間の感覚が狂う。機内食は期待しなかったけど、パンがぱさぱさだった。それでも、飛行機代のうちと、がっついて食べると、腹がふくれ、また眠くなってきた。思うに機内食は、乗客を寝かせないために出すんじゃないかたっけ?


 そういえば、恩田先生や他の先生方、友達、先輩、激賞のメールをもらった。どうせなら、福沢さんつきがうれしかったけど。


 先崎さんからもメールがきてたので、ついでに、この間の都京フィルでの経緯を教えた。彼に余計な期待を持たせてしまいそうだけど、もし都京フィルがペット奏者を取るとなったとき、やはり早い者勝ち、経験者勝ちだ。それに先崎さんには、スタジオミュージシャンについていろいろ教えてもらった恩もある。


 先崎さんからは、都京フィルの経営があぶないという返信がきた。なんでも、大口スポンサーが業績がふるわない事に不信をもち、降りるかもしれないって事だ。


 確かにあのリストラのやり方は、どうなのかと俺も感じた。その運営への不信がつもりつもって、演奏に響いた事も考えられる。リストラする前に給料をカットさせられるのも、ツライだろう。


 いろいろ考えるうちに、俺はグッスリ寝てしまったようだ。10日土曜日夕方に羽田をたち、ミュンヘンにつくと、前の日の21時ちょっと。ううむ。わけわからんな。時差ってのは。タイムスリップした気分になった。


 ミュンヘン空港には、シェーンバッハ先生が迎えにきてくれてるはず。ガタイがよさそうで、里中先生よりいかつい顔。ちょっと厳しそうだ。


 空港ではNONEUのほうで、パスポートコントロール。荷物を受け取り、出口で待っていてくれるはずだった。1時間待った処で、先生にメールを送る。一応、このくらいのドイツ語は出来るようになった。返信がかえってきて、<そうだ。今日でした。すっかり忘れて自宅にいます。これから迎えに行きますので待っていてください>との返信。


 がっくりきた。森岡先生は、時間をキチっと守るほうで、兄弟子でしかもドイツ人だから、俺はすっぽかされると思わんかった。ちょっと心臓がドキドキする。昼間なら、駅までシャトルバスにでも乗って、そこから訪ねていけるかもしれないけど、もう暗い。迎えをおとなしく待つ。しばらく、ドキドキして待っていた。もう一度、待ち合わせの場所を設定。今度は”エアブロイ”というレストランの入り口近く。ミュンヘン空港にあるビール醸造所兼レンストランなのだそうだ(あわてて調べた)待つ事50分あまり、茶髪で背の高い女性が俺の処に近づいてきた。


「あなたは海人・新藤ですか?私はマリエッタ・グランドル。クラウス・シェーンバッハの友達です。彼の代わりに迎えにきました。」


 と、シェーンバッハ先生と彼女が一緒に写ってる写真をみせ、身分証を見せてくれた。バイエルン・オケの団員のようだけど。”こっちに来い”とう言葉とジェスチャーで、俺はカルガモの子供のごとく、彼女の後をついていった。大丈夫なのかな?このまま人買いにさらわれるとかあり?


 空港横の駐車場にとめてあった赤い車で、シェーンバッハ先生の自宅(多分)で車はとまり、彼女は玄関をあけいきなり「=★♪~!」と大声でどなった。ドイツ語だろうけど、”つれてきたわ””彼がついたわよ”とか、言ってるのかな?


 階段を降りる足音がする。と、玄関の左側のドアがあいて、やっとシェーンバッハ先生に俺は会う事が出来た。先生、かなり酒臭い。泥酔一歩前かな。俺を見て、何か早口で言ったのだけど、聞き取れなかった。先生は、頭をふって、言いなおしてくれたんだけど。。。


「遠路はるばる、ご苦労である。こちらで、とくと休まれよ」


 右側の部屋のドアをあけ指さしながらの先生の言葉に、俺はぶっとんだ。確かに日本語だから意味はわかるのだけど、これってなんの冗談?俺は、”お心遣いかたじけない”とでも言えばいいのか?ミュンヘンに到着した早々、いろいろあってパニくってる所、俺の頭は真っ白になった。


 大丈夫か?この先生。

土曜日深夜(日曜日午前1ごろ)に更新します。週一の更新ペースです

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