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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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スタジオミュージシャン

次の日は、先崎さんに会った。彼は日コンで俺と同じ、3位入賞。で、もうプロとして活動してるそうな。申し訳ないが、俺は、コンクールで初めてその名前を知った。


 先崎さんとは、ちょっとオシャレなワインバーで待ち合わせ。店はそう広くなく20名も入れば満員だろう。俺は、財布を確かめてみた。1万5400円あるのでなんとかなるか。


 先崎さんが、フリーランスのトランペッターということで、俺は、聞いてみたくなったんだ。もし、それで自立できるのなら、冒険も悪くないと。


 オーダーは先崎さんにお任せ。ハウスワインのハーフ、赤と白。それに、ちょっとしたつまみ。先崎さんはというと、天然パーマでいかつい顔が、音楽室にあるベートーヴェンの肖像画にそっくりだった。


「じゃあ、改めてお互い”3位入賞おめでとう”、村井安奈ちゃんは、別格だったね」

先崎さんの言葉から、二人でコンクールの話しや、トランペットの話しに花が咲いた。純粋に楽しい。もちろん、辻井とか冴木とかと話しのも楽しいけど、社会に出た人との話しは、また別だ。ためになる。




「で、先崎さんは、すでにプロで活躍されてるとか。どこかに所属されてるのですか?」

音楽事務所みたいのがあって、仕事を探してくれるのならありがたい事だけど、安奈ちゃんのようにマスコミでも話題になる天才でないかぎり、音楽事務所に所属するのは難しい。


「まあ、オケには入ってる。プロではない。セミプロといった処か。管弦楽団では弦楽器はオーケストラのオーディションやエキストラ待ちの奏者が多いから、レベルは高いけど。吹奏楽団にもはいってるが、ここ数年来、希望者が多く入団にはオーディションをうけなければいけない。こっちもセミプロといった処かな」


 実は都市部にはアマシュアオーケストラ、吹奏楽団があり、それぞれレベルによってすみわけているようだ。プロ顔負けの人から、大人で楽器を始めた人まで。楽団のレベルもピンからキリまである。


「この間、僕が行ったアマチュアの楽団は、下手でした。初心者が多いし、練習量も少ない。

ハイドンのソロを吹かせてもらったんですけど、別な意味で苦労しました。」


 ”リズムがぶれてる””パートがあってない””タイミングがつかめない”

なんて事を心配しながら、殆ど、向こうに合わせながらメトロノームのような単調な旋律になったけど。


「まあさ、それもいい経験だよね。私は卒業と同時に、最初、フリーランスになったけど、正直、食べていけなかった。時折はいるオケのエキストラや、スタジオミュージシャンのバイトが、うれしかったよ。今、思えば、卒業時の私の見通しが甘かったのかな。なんとかなると、自分を過信してたのかもしれない・」


 先崎さんが、赤ワインを飲みながら、苦笑いしてる。それでもプロでやってる。それはすごい事だ。


「はい、これ名詞。今は、スタジオミュージシャンとして音楽事務所に登録してる。ピアノもやっていたから、キーボード出来るし、少しならアレンジも出来るから、重宝されてなんとかなってるさ。基本、時給だから不安定なのはフリーランスの時と変わらないけどね」


 聞くと、CMやTVドラマの音楽、劇やミュージカルの音楽を スタジオで演奏し録音するのが仕事なそうな。時給1時間8000円以上というのが、魅力だ。聞くと、録音は2時間ほどが平均で、一回で18000円稼げる。技量が高くなればそれ以上、稼げるそうだ。ただし、仕事のないときは、無給。基本給とかある会社とは違う。いうなれば演奏家の派遣みたいなもの?



「ただな、JAZZやPOPの知識や技量がないと、まあ、やっていけないな。トランペットだけだと仕事はたまにしかこないだろうし、会社から”使えねえ奴”と烙印おされたらお終い。だから私も大分、勉強したんだ。今回のコンクールは、”プロの楽団に入ればもっと収入が安定する”と思い、箔付けに行った。もちろん優勝を狙いさ。で、敗退したと・・・」


 そういって、先崎さんはクラッカーを少し食べては、赤ワインをグっと飲み の繰り返しだった。察するに、月の収入が決まっていないという事、仕事がその時でないとわからない というのは、不安なんだろう。きっと。俺は、桜か丘音大院生という肩書と、仕送りという月収(?)がある。思えばお気楽な身分だ。


「でも、先崎さん、すごいですよ。本選の時のジョリベはさすがでした。やはりJAZZもちゃんと学んでおかないと駄目ですよね。」


「そりゃそうだ。最近の作曲家の曲は JAZZぽいからな。まあ、バーンシュタインなんかもそのくちだな。」


 先崎さんの話しはためになったし、楽しかった。留学の話しには、エールをくれた。そして向こうではいろんな音楽に触れてくるべきだと激賞してくれた。


*** *** *** *** *** *** ***

 留学の出発の日は、1月の10日になった。それまでに手続きを済ませないと。パスポートはなんとかなる。わからないのがビザ。森岡先生に相談すると、クラウス先生と連絡をとり、インターシップの資格で行く事になった。数か月単位の研修制度で、まあ、弟子入りするのだから、ぴったりといえばぴったり。問題はドイツ語の能力が必要な事。


 という事で、俺は午前中はびっちりドイツ語の勉強、午後から練習。夜はドイツ語の復習、というように、ドイツ語づけになった。頼みのセリナちゃん、昼休みとかみてくれるけど、彼女の出す課題が、結構厳しかった。


 そんな時、エキストラのバイトが入った。さっそく森岡先生に報告すると、ちょっとだけ顔を曇らせて、”人間関係には気を付けること”と帰りしなにボソっと言われた。


 トラに行くのは、都東。あの、オケ内で揉めてるって噂が流れてる所だ。実際、その緊張感のあふれるオケの雰囲気を味わう事になった。

更新は、週一、土曜日深夜(日曜日午前1時ごろ)です。

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