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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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トランペット馬鹿・ピアノ馬鹿

「音楽室を占拠されてる?」

「そう、妹が日コンの予選が近づいたんで、毎日猛特訓よ。レッスンも週に2度にしたって」


 セリナちゃん笑って、首をすくめた。練習の合間に練習日程を話してた時だ。

「妹は日コンで予選通過できそうだから」


「妹さんって、高校生だったろう?もう本選に行けそうなんだ。すごいな」


前に、彼女の自宅の音楽室で練習した事があったから期待したけど、今回は、学校で練習するしかないようだ。なにせ、セリナちゃん自身のピアノ練習でさえ、あまり出来ないって事だし。


 「でもな~高校生で、もう日コンレベルなんだ。バイオリンって」

高校生の時は、ひたすら受験勉強と部活で必死だった時の俺には、想像もつかなかったろう。


「ピアノも同じよ。ほら、中国の天才ピアニスト少年って前いたじゃない。”バイオリンとピアノは、教育は3歳から”があたり前の世界なのよ。ね、健人君」



 え? 見ると部屋の隅に健人がちょこんと、座っていた。


 今日の練習は午後1時からで、ハイドンから始まった。セリナちゃんのピアノが、前と少しかわった感じがしたので、話しながら録音を聞きながら、集中して練習。健人の事は気づかなかった。

 

 「ピアノもバイオリンも、”指の運動”という面があるから、そういう点では、18歳がピークっす。来年、俺も日コン頑張ります。だから、先輩、俺に伴奏させてください。」


 健人、そこにいる理由は、”上達のパワースポット詣で”のためとか?

まったく。意味わかんないね。ピアノなら、ひたすら一人でもひたすら練習すれば、いいだけじゃないか。


 

 ”俺の伴奏すると上手くなる” じゃなくて、俺の伴奏者が上手かっただけだ。小百合ちゃんもセリナちゃんも、プロ伴奏者並みに上手いんじゃないか?だけど。小百合ちゃんとは、練習中、バトルが頻発した。曲で、お互いに意見があわなければ、とことん、やりあった。フランセの曲のように、ピアノとトランペットが同等のような曲が特にぶつかった。


 結局、どうなったかというと・・・俺は小百合ちゃんの理論展開に、納得させらる事が多かった。そうか、3歳からか。音学歴からいって、俺はかなわないはずだ。3歳なんてすごい。俺なんて大学1,2年の時ですら案外、ノンビリしてたしな。


 「どうも1次予選でだいぶ落とされるみたいなんだ。休憩後もハイドン、もう一度やってから、テレマン、フランセ。ってとこで、終わりかな。後は俺は6時から練習室をとってあるけど」


「私は、3時から5時まで別に部屋をとってある。テクニックの練習時間が、最近、少な目だから。よかったら、6時からでも7時に”ジョリベの曲”の練習をしましょうか」


 うわ、セリナちゃん、1時からぶっとうし練習になるけど、大丈夫かな。細い体に見合わず、タフなのかな。

「ありがとう。じゃあ、6時から1時間。よろしくお願いします。セリナちゃんが疲れたらそこで終わりってことで。」


 本当に申しわけない。ここにきて、ハイドンとテレマンが、不安になってきた。もう、2年生の時に暗譜して仕上げた曲なんだけど。


 すみにいた健人が、やおら手を挙げた。

「はい は~い。先輩、提案があるっす。」

「却下!」

「あら、健人君、何?」

セリナちゃん。健人の提案は食べるか飲む(アルコ~ル)か、カラオケだ。


「練習終わり次第、先輩の部屋でセミナーお疲れさま会をしましょう。ピザ宅配してもらって」


期待を裏切らない後輩だ。さっきの日コンへの意気込みはどうしたんだ。健人。

まあ、考えようによっちゃ、それもいいかもしれない。居酒屋やファミレスに行くには、ちょっと面倒だ。(部屋の中は、汚かったかな?)うん、大丈夫だ。


 「じゃ、俺の部屋で申し訳ないけど、夕食でピザ会セリナちゃんの分は奢ります。日ごろの感謝をこめて。健人は自腹な。セミナーの話しとかいろいろ聞きたい。ただ、時間も時間だから、俺がセリナちゃんちまで送っていく。門限とか厳しいんだっけ?」


 「学校からウチまで1時間かかるから、最低、10時まえに出れば大丈夫」


 じゃ、いろいろと事前に頼んでおくか。でも、いいのかな、夜遅くなるけど。日を改めてと言いたい所だけど、これからそんなヒマないって考えないと。


*** *** *** *** *** *** ***

 ”セミナーごくろうさん会”は、コンクールを直前に控えた俺に、いい息抜きになった。

コンクール前だから、と、俺は”ひまなし練習”と、自分に言い聞かせてた。それがよくなかったのかもしれない。ハイドンの練習でかなり不安になったのも、そのせいか?


「ハイドンはね、難しいのよ。超絶技巧が出てくるわけじゃないけど。音符や音楽記号が少ないし、その中でハイドンの魅力を引きだすの。苦労した覚えがある。

こっちは、出来てるとおもっても、師匠から”やり直し”くらって、途方にくれたりね」


 はい、そのとおりです。セリナちゃん。でも、カデンツァは、結構、すごいんですけど。


 話題がテレマンの事になって、俺は封じていた黒歴史を思い出してしまった。学内オケのバロック研究会の演奏会で、俺は爆睡してしまった。弦楽とクラブサンの編成のテレマンの曲で確か”食卓の音楽”とかいう曲。運の悪い事に、撮影がはいってて、俺の爆睡姿がバッチリとられてしまってた。しばらく、笑いものになった。


 友達は、”うんうん、ペットの出番はないし、眠くなるほど、安心できた演奏ならそれはそれでいいよ、気にしないでね”って、慰めてくれたけど。


 今、多いに気になって来た。2次予選のテレマンの曲。演奏中、審査員が退屈したらどうしよう。まさか、寝たりしないよな。”審査”が仕事なんだし。テレマンの出来も俺は不安になってきた。夜に、セミナーでの録音を、もう一度聞きなおしてみるかな。


 俺は烏龍茶を飲みながら、表情が消えてたらしい。健人がピザをほうばりながら、


「先輩、今日は、コンクールの事、忘れましょう。それより恩田先生だかの話しは、どうなったんっすか?」


 恩田先生からは、東京に帰ってきた夜遅くに電話があった。先生も旭ヶ丘(俺の母校)は、前任校であり、相談されても、あまり干渉するのはNGだからだ。管理職と副顧問が、部活の外部指導者を呼んで、やってるらしが、部内のまとまりが今一だそうだ。


 俺が、”吹奏楽部を放置したピアノ科の音楽教師”の話しをセリナちゃんらに、話すと、二人は、”ありがち”と、里中(旭ヶ丘、名目上の吹奏楽部顧問)に共感した。


「だって、俺ら、ピアノ専科だし、他の楽器は基礎知識しかないよ。リズムとか音程とか旋律がわかっても、じゃあ、どう吹けばいいのかって楽器の基礎的な事は指導出来ない。ましてや、3年生がいないとなると、教えてくれる先輩がいないってことじゃん」


 それでもだ。一旦、教師になったからには、生徒に信頼されなければ、やっていけないんじゃないかな。例え、部活が業務外の事だとしても。


「でも、里中先生とかが、ピアノ専科だから、他の楽器は無理です。ってあきらめてしまうのは、どうなんだろう。それってピアノ馬鹿って事じゃない。律子師匠から言われなかった?”幅広く勉強すること。ピアノばかりだと、演奏に限界が来ます”って」


 セリナちゃんの言葉に、俺はガーンときた。そういえば俺はトランペット馬鹿だった。弦楽器とかも勉強すべきだったのか?


 口をポカっとあけ、固まってる俺にセリナちゃんは、あわてて、付け加えた。


「ああ、海人は、いろんな人に頼られて面倒みたり、ボランティアしたりしてるじゃない。トランペット馬鹿じゃないわよ。律子師匠の言ってる事は、見聞を知識をひろめようって事。」


 見聞と知識・・・ないよ。見聞は北海道のみ。海外どころか沖縄に行った事もない。知識は、音楽以外は赤点だった。


 俺がさらに暗い顔になったので、セリナちゃんは慌てて、フォローした。


「健人も含めて、私たちはこれからよ。楽器は、ある程度、習熟してるんだから」


 ”ある程度”なら習熟してる。俺は、少しホっとした。





土曜深夜(日曜午前1時代)に、週、1回の更新です、更新が遅くてすみません。

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