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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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健人の受難、俺の災難

 朝起きると、健人がクッションを枕替わりにして、居間で寝ている。


 あれ?なんでこいつ、ウチにいるんだ?と、一瞬、不思議に思ったが、昨夜の事を思い出した。鍵をなくして自分の部屋にはいれない健人を、ウチにとめたんだっけ。

エアコンの効いてる部屋で、健人は昨夜と同じ、Tシャツ・綿パン姿だ。

健人も黙ってると、ジャニーズ系の、女子にはモテ顔なんだけどな。話し出すと、天然なんだ。


「ふぁ~......あ、しぇんぱい、おはよございます。」

目をシパシパさせながら、半分、寝てるようだけど、ウチに泊まった事は覚えてるだな。


「健人、シャワー、使っていいぞ。ほら、このバスタオル使え」

俺は、素早く、朝食・・といっても、昨日の夜に買っておいたコンビニのサンドイッチ。

後はコーヒーだけだけど。


「新藤先輩、ごちそうさまです」

健人は、すぐに、サンドイッチにかぶりついた。俺はコーヒーをいれながら、

「いやいや、健人君、サンドイッチ代は、しっかり頂くからね。」

はは、健人の奴、ちょっとがっかりしてる。それを隠そうとしてるのも、まるわかり。



 俺たちは朝早く登校。俺は練習室を確保するため。健人は鍵を探すため。


 練習室で俺は軽くストレッチしながら、体のウォームアップをした。マウスピースで、ブーブーいわせて練習してたら、健人が青い顔をして入ってきた。鍵がなかったとか?


「先輩、どうしよう。なかった。絶対あると・・・。練習室に鍵なかったら」

「落ち着こうな健人。昨日の行った所をたどってみよう。まず、学校からな」

「もし学校でみつからなかったら・・・」


 俺は有無も言わせず、健人を昨日の行動の足跡をたどらせた。

「えっと昨日は、まず、事務室に行ったんだ。そうだ聞いてみよう。誰か届けてくれたのかも」

そして、健人の楽観的予想は、見事にはずれた。


 それから図書室、カフェテリア、トイレまで行ったが、見つからなかった。

家に帰る途中、落としたのだろう。家までの帰り道で探してみようか。なかったら、交番に一応、届けた方がいいか・・・いや、もうアパートの管理会社に事情を話して、鍵そのものを取り換えたほうがいい。鍵を拾った主が、泥棒さんだったら、また災難だ。


 その前に、練習室をもう一度、探したほうがいい。


「健人、練習室、もう一度、一緒に探すぞ。どこか狭い処に入り込んでるのかもしれない」


 やはり練習室にもなかった。本棚の裏まで探したが、なかった。

「やっぱりないな。一旦、帰って、その道々で探そう。期待薄だけどな」


「先輩、俺、こういう事、初めてでどうしたらいいんでしょう。」

「うmその前に、健人、その楽譜とか入ったバッグ、もう一度、確かめてみよう」

「はい、でもその、なんども探したんです。隅から隅まで」


 ”そうかそうか”と俺はうなづきながら、健人からバッグをとりあげ、逆さにして中身を床にぶちまけた。それと、バッグの中のポケットも口を広げて、逆さにした。

鍵は、鞄の内ポケットの底から、チャリンっと音を立てて、落ちてきた。


 (健人~お前ってやつは・・・)

俺は脱力した。昨日から、健人は、カバンは隅から隅まで調べた。結果、こうなのだ。

俺の午前中の練習時間は、鍵探して終わってしまった。ははは・・・笑うしかない。こういう事ってよくある話しじゃないか。健人も昨日は、パニくってたんだ。怒らない怒らない。俺は大人だ。



「ええ、どうしてバッグから?昨日も夜も、何度も何度も調べたのに。誰かが見つけて、入れてくれたのかな」

「はいはい、親切な妖精さんが、夜に鍵を探して、わざわざ、内ポケットに入れたんだろ」

健人は、まだ納得がいってないのか、それでも床にちらばったバッグの中身を、つっこんでる。

(中には、レシートとか、カミくずにしか見えないもの、空のペットボトルも)


”ゴミはなげろ”と言おうとしたが、これって方言だと思ってやめておいた。それに考えてみれば、俺は健人の母親でも彼女でもない、もちろん彼氏でもない。


 *** *** *** *** ***

 午後は、俺は充実した基礎練習の時間がとれた。札幌の実家にいる間は、楽器を思い切り吹けなかったからな。


 俺は家に帰って、すこぶる気分がスカっとしてる。よし、これからマジ本気200㌫で行こう。

フンフンと鼻歌を歌って、楽器を手入れしてた。チャイムがなったので、玄関を開けると、健人が楽譜を持って立っていた。ちょっと目が窪んでる。脱水気味かな。


「健人、どうした?今度は何をなくしたんだ?はは」


 前に、数百万するヴァイオリンを、置き忘れた弦楽奏者の話しを聞いた事があった。

さすがにピアノは落とし物にはならんなw。学生オケにいるとき、いつも譜面台をなくす部員がいて、大騒ぎだった。ピアノは譜面台もいらないんだ。


「先輩。俺、ショパンってわからなくなってきたっす。夜想曲って、あの有名な2番とかのような曲もあれば、激しい曲もあって、夜想曲でひとまとめに出来ないと思うんですよ。」


 健人は俺をジっと見てる。何かしらのアドバイスもしくは、関連した話しがしたいのだろう。


「健人、よく聞け。俺は、管楽器奏者。テレマンのトランペット協奏曲を、ピッコロトランペットで、いきなり演奏したとかの苦労話なら、いくらでも出来る。でも、悪いがショパンは大学で習った程度の事しかわからない。音楽史専門でもないしな。俺の守備範囲外。

俺が野球場のキャッチャーの位置にいて、お前は、テニスコートからサーブを打つようなもんだ。まだ、少し脱水気味で頭がまわらんのか?冷たい水を、ごちそうするから、まあ中に入れ」


 単に俺の声が聴きたかったのか?健人。何かしら人恋しい事はあるかもしれないな。彼のローラちゃん(電子ピアノ)が壊れた事も、ショックだったのかも。


 今日のセリナちゃんへのメールの題名は、”健人君のパニック日記(海人代筆)”という題名で

出してやった。返信メールには、爆笑顔文字の羅列と”ローラちゃんと発表会についてなら、話だけなら私が聞いてあげる”と 書いてあった。


 うmm。うかつに他の男子の話題は出さないほうがいいのか。


毎週、一度。土曜日深夜(日曜午前1時すぎくらい)の更新ペースです。更新が遅くてすみません。

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