表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
32/147

家族の想い

 結局、父さんとは、就職の話では物別れ。

教員免許だけは取る事で、なんとか納得してもらえた。そういえば、塚田君はトランペットを続けているだろうか。あの父親にある程度妥協しなければ、いけないだろう。


 夕食後、俺は、自分の部屋で、セミナーのレッスンの録音を聞き、楽譜をチェックしてた。

やはり録音だとその時の音,そのものを、再現できるわけじゃない。

そうだ、録音より、録画だ。演奏時の姿もチェックできる。上手な録画の方法って、あるだろうか。オーディオに詳しい同期生の友達に聞いておこう。

オーデションを受ける場合、最近では、最初はDVDでの審査から始まるそうだ。


 疲れがでたのか、そのうち眠くなってきた。楽譜のチェックも集中できなくない。

”もう寝るか”って時、ノックの音がした。


「お兄ちゃん、ちょっといい?」


 妹の真由子だ。なんだろう。もしかして院に進んだ事で文句を言われるとか?妹は、来年は高3で受験生になる。俺が卒業しない分、お金のしわ寄せが、妹にきて、怒ってるとか?

俺は、ビビってるのを隠して笑顔を装着。


「亜由子、何?俺、もうそろそろ寝るつもりだったんだけど」


「大した用事じゃない。ほら、さっき山内先生の話しをしてたでしょ。お父さん、何のかんの言って、心配してるんだ。で、先生のバンドの自主製作のCD、買って来たんだって。

でも、”聞いても眠くなる”とか言って、私によこしたの。私もJAZZは趣味じゃないし。楽器も同じ、トランペットだし、兄さんなら欲しいでしょ」


 ポイっと手渡されたそのCDは、手作りのレーベル。裏にはバンドのメンバー名と曲名が、印刷されていた。シンプルなものだ。そういえば、俺も大学内の楽団に居た頃、定期演奏会とかこういう自作のCD、DVDを団で作ってたっけ。CDは300円くらいで、ノルマがあって、何枚か自腹をきって買った。山内先生も、そうなんだな。メンバーが少ない分、CD制作のコストが高くなるな。


「私、お兄ちゃんの事、一応は応援してるから。コンクール頑張ってね。優勝したら、賞金、分けてね」


「優勝だなんてそう簡単にいうな。俺がテストで学年1番をとるより難しいんだぞ」


「なんだ、じゃあ、”絶対不可能”って事じゃない」

言ってくれるな妹よ。俺は深く落ち込んだぞ。明日は母校の旭丘高校の時の吹奏楽部友達と、恩師である部顧問の先生の所へ、顔だしにいくつもりだ。転勤して、今は恵庭の高校に勤めてるそうだ。


 明日を楽しみに、ついでのように山内先生のCDを聞いてみた。バンドの編成は、ピアノにドラム、トランペット。1曲目は、トランペットの静かなメロディにピアノとドラムが、伴奏って感じであわせてる。2曲目はうってかわって、アップテンポの曲。これも、トランペットがソロみたいなもんだった。この曲は、テンポの速い不規則な音階あり、ハイトーンもでてくる。ジョリベのコンツェルティーノの最後に似てる。音階の進行は、独特だ。


 山内先生、時々、音が微妙にはずれてたり、ハイトーンの音色がいまいちだったりした。

だよな、俺も、ジョリベの曲のこういう処で、苦労した。

ところで、こういうJAZZとジョリベのようなクラッシック、どこで明確な違いなんだろう。


 3曲目は、いわゆるムードミュージックというやつで、静かなメロディをトランペットが奏でてる、ピアノも控えめだ。この曲を聴きながら、俺は寝てしまったらしい。


***   ***   ***   ***   ***  

 次の日、朝食を食べながら、あ!っと思い出した。

院に進んだ時は、カニ。ついこの間はメロンが、ウチから森岡先生に送られてきたんだ。

先生は、大層、喜んでた。先生に、伝えてくれって言われてたんだっけ。


「母さん、森岡先生、すごく喜んでたよ。さすが北海道だって」

俺はご飯をほうばりながら、母さんに報告。

「喜んでくれたなら、よかったよ。生鮮食品は、当たりはずれがあるからね。」



「ごちそうさま。今日は、高校の先生のとこへ行ってくるから。帰りは夕方になる。で、明日は最終の便で東京に帰る。向こうで、ピアノと合わせ練習もしたいし」

合わせといえば、夕べ、セリナちゃんにメールを送らなかった。今更だけど朝食中の家族の写真を

添えて、慌てて送った。コンクールが終わったら、二人だけのラインで話しをしていたいな。


 恩師の恩田先生は、恵庭の高校に去年、転勤になっていた。

会いにいくのは、地元の大学に進んだ柿本と宇野だった。二人とも俺と同じく吹奏楽部で、柿本はクラリネットを吹いていた。今年、院に進んだそうだ。宇野は優秀な奴で医学部(医学部は6年制)で楽器はサックス。


「よ、ひさしぶり。恩田先生の高校は、駅から近いのか?」

「新藤、4年間で忘れたか?ウチらのライバルだった恵庭北野高校だぞ」

「会ったそうそう悪い、俺、昼から実習で昼から速攻で帰るから」

「「俺ら、そうゆっくり出来ない。それに迷惑になるしね」」


 それは、そうだろう。恩師とはいえ、母校でもない高校に長居は出来ない。


 JRを降りて、高校へと歩きながら話した。柿本は大学のオケ、宇野は吹奏楽団に入っているそうだ。楽器をやるもの同士、話題はつきなかった。出来るなら夜に居酒屋で一杯といきたい所だけど、二人はレポート作成で忙しそうだ。


 恩田先生は、あまり変わってなかった。いかにも”教師”という四角い顔に黒縁メガネ。

一見、とっつきにくそうだけど、先生方の中ではフレンドレィなほうだった。


「やあ、3人とも。元気そうだな。柿本と宇野は、たまに会うが、新藤。お前、久しぶりだな。

やっぱり音大、今は院生だったか。忙しいのか?」

二人の忙しさ具合から比べたら、俺の忙しさは、まだましかもしれない。

「恩田先生、ご無沙汰してます。今はコンクールの練習で忙しいです。セミナーがこっちであったので、帰省しましたが、明日、帰る予定です。」


 恩田先生は、そうかそうかと、目を細めて笑った。ちょっとだけ皺が増えたかな。

「さっそくなんだけど、ウチの吹奏楽部、ちょっくら指導してくれないかな?パート練習を観てやって欲しいんだ。まあ、お前らの時は、ここもAクラスで頑張ってたけど、生徒全体が減少気味でな。今年はBクラスでノンビリやってる」


 当然だけど、指導料ぬきのボランティアだ。


 トランペットパートは、3人(うち一人は初心者)少ない。俺は初心者の生徒には基礎から、他の二人には、その間をみて、基礎チェック。学での部活だけで楽器を覚えると、意外とヘンなクセがついてる場合が多いんだ。俺は個人指導を受けてたけど、大抵の部員は先輩からの指導が多いからな。


 予想したとおり、2年の女子がいまいちだった。音はあってるんだけどね。余分な力が体に入って、コチンコチンの姿勢で吹いてる。”マジメなのはわかるんだけどね”楽器を吹く時の脱力に注意させる。


「もっと力を抜いて、そう、操り人形になったように、上から糸で支えられてるって、イメージして、力を入れるのは腹筋だけでいいから。」


 脱力のほうは、すぐには出来ないかもしれない。これは、恩田先生に報告だな。


 後、中学生から吹いてきてるという3年生には、二人への指導の方法を教えた。

人数が少なければ、揃った綺麗な音で、リズムも合わせないと。トランペットの音は目立つから。


 昼になって、宇野はあわてて帰っていった。後日、ヒマをみてサックスパートの指導をしにきますと、言い残して帰って行った。俺と柿本と恩田先生は、近くの喫茶店でお昼をごちそうになった。無難な所で、カレーライス大盛りで注文。


 恩田先生の話しでは、卒業した3年生に上手な生徒が多く、人数も多かったとか。

上手くバトンタッチ出来なかったんだな。もしくは、編成に学年の偏りができてたか。


 「俺もな、もうちょっと旭ヶ丘高校にいたかったんだが、ちょっといろいろあってな。

ところで、新藤、母校のほうの吹奏楽部の指導頼まれてくれないかな。」


 ううm、ちょっと無理っぽいかな。でも明日の午前中だけならなんとかなるか。。


「明日の午前中だけならですけど」

「あそっか。明日、帰るんだったな。さっそくメールで確認してみる」


 もう一つ、高校吹奏楽部を指導する事になった。

母校だけど、ちょっと肩身がせまい。なにせ、成績が悪く、赤点上等の日常だったからな。


”もう一回高校生やるか?”とか言われそうだ。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ