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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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アシスタントに徹する

いよいよ石田先生の高校生への指導の時間になった。

俺は、控室で一応、楽器のピッチをあわせた。空調は入ってるが、ケチってるのか、少し蒸し暑い。熱いと金管楽器のピッチは上がってしまう。で、ステージで空調の風をもろに受けて、おじゃんになる。ステージの上でもも一度合わせるか。音を合わせるチューナーも、持参だな。


 高校生のトランペット吹き というだけで、他は、どういう基準で選ばれたかは知らないけれど、指導を受ける5人のうち、2人は、他の3人よりレベルが、ダンチで低かった。控えの楽屋で音を聴けばすぐわかるくらいだ。


 レベルの上のほうの3人のうち、鴻池真理子さんと岡山由依さんの2人は、緊張して顔色が悪かった。緊張するなというほうが、無理だろう。客席は、すでに満席状態だ。


 ただ椅子に座って固まってるだけじゃ、体がほぐれない。俺は1日目に講習で覚えた、”ウォーミングアップ用ストレッチ”を、する事にした。別に俺の仕事でもないけど、真理子さんと由依さんの緊張具合は、可哀想だ。


「はい、舞台に上がる前に、ストレッチするから、楽器を置いて。」

不満げな生徒もいる。直前まで吹いていたいらしい。うん、わかる。でも、5人とも程度の差こそあれ、ガチガチの姿勢で脱力が出来てない。5分も軽いストレッチをしただろうか。もう少しやれば、もっと体がほぐれるのに というときに声がかかった。


”みなさん、ステージ袖に来てください”

一気に5人の緊張度が高まった。俺もつられそう。おっと、チューナーも忘れずに持っていかなきゃな。実際、生徒と同じほど緊張してる。



 指導が始まった。石田先生は挨拶も短く、すぐ指導に入った。まず、マウスピースでの音だしから。上手いほうの3人は、まあ、高校生吹奏楽部レベルだ。2人は、初心者っぽい。

基礎を重視する石田先生らしく、1人1人、アドバイスしていく。真理子ちゃんは、上手いはずなのに、どうも緊張してるせいか、アンプシャーという唇の形が定まってない。レベル今一の二人には、石田先生の指示で俺が基礎の基礎を教える事になった。


 係の人が、慌てて俺にピンマイクを付ける間も、俺は二人に指導してた。その時は夢中だったけど、聴衆約500人の前で指導者デビューしたことになる。でも、無責任すぎないか・・


 5人、揃ってのアルペジオ練習になった。

”じゃあ、アルペジオの練習をします。そこのお兄さんの音に、ピッタリ合わせてください。”

ゲ!俺が基準か。間違いわしない、ただ、出だしの音とか、だれしもミスはある。

又、冷や汗が出て来た。

アルペジオの練習とはいえ、上手い3人組は”音はあってるっぽいけど、微妙に不安定”

今一2人は・・・うん、しょうがない。汗かきながら頑張ってるけど、まだ、楽器を始めて1年ってところかな。


 その後、やっと曲のレッスン。課題曲はなく、おのおのが教えてほしい曲を持ってくる というザックリした方法。上手い3人組は、コンクールで演奏するんだろう、課題曲・自由曲を持ってきたようだ。先生は、譜面を見ながら、”ここって指揮者の考え方なんだけどな”と困りながらも、技術的な事を教えて行った。生徒に演奏させてみて、出来てないようなら、遅いテンポでもう一度やらせてみる。それのくりかえし。コツのようなイメトレが出来る場合は、それを説明。

先生、自らが、”いい例、悪い例”で聞かせたりして。


 コンクールの曲の指導って、難しいだろう。講師がプロとはいえ、課題曲には、細かく指針がでてる。例えば、”ここの処のアンサンブルに注意”とか。それに指揮者の意図もあるだろうから、深くは言及できない。


 今いち二人組は、定期演奏会の曲を持ってきたようだ。正直、全然、吹けてなかった。

「この曲は、コンクールか何かの曲かな?」

「いえ、定期演奏会でやった曲です。俺、まだ吹けてなくて」


 高校生5人の指導も終わり、一緒に、控室に戻って来た。はぁ~っとため息をついて、5人をチラっと見てみた。緊張で真っ青だった真理子ちゃんと由依ちゃんは、運動した後のような火照った赤い顔だった。

 二人組のほうは、楽しそうに笑いあってた。

”俺たち、場違いだったよな”

”ほんとよ。いくら公平に決めるためとはいえ、ジャンケンで、私、勝っちゃったからさ。”


 ジャンケンで決めたのか・・俺は一気に脱力した。


 その二人が、俺のほうに挨拶に来た。

”今日は、ありがとうございました。”って頭を下げられた。マウスピースの指導だけだったんだけどね。”頑張ってね。楽しんでくれたなら、この指導の企画は成功だ”


 正直、彼ら二人には、トランペットで音大に進む という進路はおそらく”ない”だろう。でも、楽器の基礎を楽しく学べたのなら、これから、趣味として続けていくことは出来そうだ。





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