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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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公開レッスンで緊張

 セミナーの最終日。個人レッスンは午後2時で全て終了。俺はあと、夕方の一般公開レッスンに出る予定。その後の、石田先生のアシスト。


 セミナーの突然の内容変更には、びっくりだ。新たに予定を入れたのは、運営側の要望だそうだ。事前に送られてきたセミナーの日程表・注意事項に、一言もテレマンのテの字もなければ、演奏に必要なピッコロトランペット持参という注意書きもなかった。



 一般公開レッスンは、俺たちセミナー生だけでなく、一般の人がレッスンを見学する。主催者側は、公開セミナーとミニ演奏会の入場券を売りたいんだろう。もし俺が主催者なら、そうするかもしれない。実際、講師の人へのアゴ・アシ代+報酬で、セミナーは、お金がかなりかかるはずなんだ。

俺が、楽団に入っていた時、ソリストを外のプロを呼ぶとき、アシ代(交通費)はともかく、アゴ代(食費・宿泊費)は、結構なもんで、苦労してお金を予算からひねり出した。


 午後3時開始、45分の一般公開レッスン。4時からは、希望者の中から選ばれた5人の高校生にトランペットを指導。その後は、地元の吹奏楽団をバックに講師の先生方が演奏を披露する。前の予定では、夕食と懇談会だったのだけれど(というか打ち上げか)。


 公開レッスンが始まるまで、俺は、当然、テレマンの練習で必死だった。

まあ、一般に公開するってだけで、これまでの個人レッスンと同じと思っていいだろう。そのあとの、高校生の指導の時に先生のアシスト役として、何をするか検討もつかない。こんなんで大丈夫なんだろうか。


 あと少しで公開レッスンが始まるって時に、やっと石田先生が舞台裏にやってきた。セミナー生の個人レッスン終了で、さすがに疲れてるように見えた。


「遅くなってすまん。普段通りのレッスンでいいから。楽器と楽譜はOKだね。じゃあ、1楽章2楽章を取り上げるから。通しで吹いて、ポイントとなるフレーズや難しい処では、止めるから。」


 え?2楽章も?いや吹けるけど。コンクールでは課題は1楽章だけなので、練習足りないかもしれない。一応、大学ではレッスンでクリアした曲だから、問題はないと思うんだが。

でも、最近、身を入れては演奏してないんだよな。そう思うと、動悸がしてきた。冷や汗もでてくる。こんなサプライズありなのか?


 一般公開レッスンは、なんとか終わった。1楽章は、スローテンポの曲。ピッコロトランペットの音域は高いとはいえ、一定の音量と音色で高音を伸ばすのは、当然、キツい。演奏してるうちに、客席の顔ぶれが見えてきた。500人収容の小さな音楽ホールは、吹奏楽部らしい中高生が多く、彼らは、耳はダンボにしてるだろう。聞き逃さない”そんな意気込みが、ビシビシ伝わって来て、圧倒された。


 テンポの速い2楽章。伴奏さんがノリノリで速めに弾くので、俺は、練習不足を、露呈してしまった。。当然、指導は入ったけれど、前のように”何度も出来るまで””基礎練習から”ではなく、簡単にコツと練習法のアドバイスで終わりだった。


 こんな事なら、もうちょっと練習しておけばよかった、っていうか、直前まで2楽章を演奏するのすら知らなかった・・・。きっと”なんだ、院生ってこんなレベルか”とか、中高生は、冷ややかに聴いてたんじゃないかな。ちょっとトチったところから、パニックになりかけ、それでもなんとか演奏を立て直したけど。


 大学生の時に、管弦楽団、吹奏楽団、アンサンブル などで、ホールでの演奏会に参加してきたけど、考えてみると、一人でホールで聴衆の前で演奏したのは、数えるほどもない。

ソロって緊張するんだ。誰もフォローしてくれない。コンクールとかも、ソロだよな。当たり前だけど。そういう面では、この一般公開レッスンは、役に立った。(と思いたい)


 演奏後、楽屋にもどり、俺は、顔があげられないくらい、落ち込んだ。自分をなぐさめるようにマイ楽器を磨きながら、”仕方ないよな”って自分に言い聞かせた。てっきり1楽章だけと思い、確認しなかった俺にも落ち度はあるんだし。


「ありがとうございました。2楽章、すみませんでした。」

俺は、石田先生が入ってきたので、すかさず謝った。2楽章は、公開レッスンに耐えるレベルになってなかったと、反省してるからだ。


「いやいや、新藤君。急にすまなかったね。こっちも急に頼まれてね困ったんだ。森岡先生から、新藤君は、”臨機応変がきくマルチタイプ”と聞いてたんで、さすがだね。緊張もせずに、堂々としたもんだった。2楽章は、練習不足というより、スタミナ切れってとこか。2楽章をレッスンにいれる事は、八坂さんから、連絡いっただろう?」


 連絡なんて、来てない。八坂さん忙しくて、忘れたんだ。マジ腹立つ。事務仕事で忙しいのはわかるけど。今日の夜の懇親会で恨み言の一つでも言っておこう。

それに、演奏の途中からパニックになりかけ、緊張もした。石田先生にそう見えなかったのは残念なような、ホっとしたような。

”緊張していない演技”でも、俺は無意識にやっていたのか?


「ところで先生、それより、高校生の指導のアシストって、何をすればいいんですか?」

智春先輩の吹奏楽部の指導のアシストとは、わけが違うし。


 石田先生は、ニヤっと笑って、

「高校生のヒヨっ子の指導は、慣れてるから。まかせておけ」と


 いや、信じられない。さっきの公開レッスンの例もある。自分でキチンと確認しないと、舞台の上では、どうしたらいいかわからない。

「どんな曲を指導するんですか?」そんな俺の質問に、


「前半は基礎中心。それもで導する生徒のレベルを確認して、あとは本人持ち込みの曲で指導。

大丈夫だって。君は私の指示通りに動いてくれればいいから。聴衆もいるし、わかりやすく楽しいいトークを入れていきたいんだ。新藤君には、基礎の時に、私の代わりに楽器を吹いてもらうから。」


 は? 石田先生は俺には信じられないことを、サラリといいのけた。



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