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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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アンサンブルの特訓

「リズムあってないって!!」

アンサンブルのグループでトップ奏者の、平野君が声を荒げた。


 今日、二日目の午前中はアンサンブルのレッスン。今のグループでは俺はセカンドの担当。練習の進め方はトップの指示に従う。平野君は上手だけれど、指示の仕方がきびしい。この調子で行くと、他のメンバーでキレで怒る奴もでる可能性ありだ。


 セミナー側が容易したアンサンブルの課題曲は、エリック・モラレスのシティ・スクイブスという曲。作曲者はトランペット奏者兼作曲者。トランペットの五重奏の曲で、途中、”楽器の吹き口を手のひらで叩いてリズムをとる” 箇所もある。平野君が注意したのは、全員がその方法で、リズムを刻むところだ。空気とかすかな音を合わせるのだから、面倒である箇所でもあるんだけど。


 グループは、5人ずつで5グループにわかれる。30分の練習時間が与えられている。

で、練習で講師の先生方がまわってきて、それぞれ指導していく。30分たったら、シャッフルして新しいグループで練習。当然、メンバーも違うしパートもその時に、話しあって決める。


 正直、神経を遣った。セミナー生は、それぞれ実力も音色も違う。課題曲の解釈も違いがあるだろう。そこを短時間で、曲を完成すべく努力をしなければいけない。

音とリズムがあえばいいって事じゃない。30分の中で、アンサンブルの理解を深め、完成に近づかせる。今のところ、全員が、合わせるだけで、精一杯ってとこのようだけど。



 セミナー前に課題曲の楽譜が送られてきた。俺は、後輩や辻岡に声をかけて、五重奏の練習に付き合ってもらった。数回しか出来なかったけれど、すごく楽しかった。コンクールの曲の練習に比べると、気が楽だった。曲の話しをしながら、時には意見も対立したけれど、それさえワクワクした。ただそれは、気の知れた仲間での演奏の場合だからだったからと、今、実感してる。


 だいぶ打ち解けてきたとはいえ、セミナー生は、友達未満なんだな。

グループ練習で、最初、遠慮がちだったり、逆にあせって、自己主張しまくりのメンバーもいる。

顔見知り程度の中でのアンサンブルは、てさぐり状態。あまり消極的だと、講師の先生から注意をうける。こういう練習って、楽団にエキストラで演奏とかにいった時、メチャ役立つかも。


 ころころと替わるグループの中で、福井君と一緒になった。俺は3番手サード、彼は2番手だ。ここでのトップは、鏑木かぶらぎさんという女子で、おとなしく、おっとりしていて、音色は、鋭いナイフのようにキレッキレだ。福井君の音は、どこかひょうきんな、辻岡君のペットの音に似た、軽い明るい音だ。


「あのさ、ここはもっと丸い音で演奏していいんじゃないかな。」

「そのフレーズからね」

と二人で合わせだした。あれ?福井君のアドバイスがいまいち彼女に、受け入れられてないのかな。鏑木さんの演奏、さっきとあまり変わらない。

そこで、福井君、鏑木さんの音色をまねて、演奏して聞かせた。


「ほら。この音だと、このフレーズ、トップが出すぎちゃうでしょ。主旋律が、浮いてしまう」


 本当にその通りだった。俺は年下の福井を、見直した。お前って、天然ボケだけのキャラじゃなかったんだな。やるじゃん。


 アンサンブルの練習は、ノビにノビて12時半すぎまでかかった。舞台で、全部で5つのグループが、それぞれ一つの楽章を演奏。ホールでの響き具合が、部屋での練習と違うのは当たり前のことだけど、アンサンブルの音を、ホール全体に響かせるのは、サンサンブルとソロではまた違う感じだ。これは、ホールの残響などの環境を、把握するのが大事。




 今日の午後は、俺は、個人レッスンを二ついれてある。最初のほうに、ハイドン、最後のコマにプログ。これは、正直、きつい。腹減って死ぬかも。

幸いなことに、事務局の八坂さんが、パンやおにぎりなど、いろいろ用意してくれてた。


 3時ごろに間食で焼きそばパンを食べようと、机に置かれた食料からゲット。

ちょうど、事務の八坂さんがきたので、パンやおにぎりのお礼と、明日の公開レッスンについて、聞いてみた。手元の日程表には記載がないし、詳しい事もわからない。断れるってのも昨日知ったばかりだった。


「八坂さん、パンとおにぎり、ありがとうございます。ちなみに、これは、あとで料金が請求されるとか?」

彼は、笑いながら

「まさか。これは、地元の吹奏楽連盟からのカンパ。遠慮なく食べてください」

吹奏楽連盟・・ああ、ひょっとするとそういう事か。俺は急に日程が変更になった理由がわかったきがする。


「あの、3日目に一般公開レッスンって、夜にありますけど、これ、最初はなかったですよね。

しかも、その後、地元の吹奏楽団と講師の先生方との共演による演奏会も」


「それなんだけどね。近郊の吹奏楽団や高校の吹奏楽部連からの強い希望があってね。一般にも公開レッスンしてほしい、って頼まれたんだ。さすがに、無理だと最初、断ったんだ。でもさすがに、このセミナーを実施するのに、いろいろとアドバイスもらったし。金銭面でも助けてもらった」


 ああ、それで、急遽”一般公開レッスン”が、入ったんだ。講師の先生方との共演を入れたのは、地元サービスか?確かにホールも練習室も、3日間、ほぼ独占状態だ。


「こっちも、いろいろもめたんだよ。講師の先生方も伴奏さんも、ハードスケジュールだしね。

幸い、石田先生が、テレマンの曲を使って公開レッスンをしてくれる事になった」

ホっとため息をつく八坂さん。彼はセミナー運営側と、セミナー生、講師の橋渡し的役目。まあ、いってみれば、パシリだな。


 事務もつらいんだよな。いろいろと板挟みになるし、予算とスケジュールを考えながらだ。そこに双方から要望がくる。スルーは、出来ない。

そこの所は俺も音大生で楽団に入っていた時、経験済み。先輩、いろいろ言ってくるんだけど、具体的に決めて動くのは下っ端。

せっかく決めても、”これじゃダメだ”でおじゃんになることもよくある。


「そうそう、プログの公開レッスンのセミナー生は、誰になったんですか?」


「それなんだけどね。実際、高校の吹奏楽団のほうから、実際にレッスンを受けたいって、申し出があった。それも、断れなかった。結局、石田先生が、高校生のトランペッターを数人、ステージの上で指導する事になりました。

ぶっつけ本番だけど、石田先生、”高校生を指導するのは慣れてるから”って、引き受けてくださったんです。正直、助かりました。ああ、新藤君は、一般公開レッスンの後も残って、石田先生の指導のアシストをするって話しだったよ」


 はぁ?いつ、だれが決めたんだ!!まったく。


 俺は、弁当のほかに、メロンパンも、怒ったままの勢いで食べてた。個人レッスンの始まる時間で、ちょうど石田先生が、話しかけて来た。八坂さんの話しを聞いてたらしく、”やあ、新藤君、そういう事だから、よろしく頼むね。ちなみに、生徒は女子3男子2の5人。生JKだよ。はは”


 ”はは”じゃねえよ、アシストとして、何をすればいいか、俺、何もわかってないんだぞ。




 

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